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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

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(第七章)ブルーラグーンの資格(10)-青の幻想②



 「いつもの店」を出ると、涼しい夜風が吹いていた。細道を抜け、四車線の大きな通りに出ると、にわかに視界が明るくなる。道に沿って立ち並ぶビルの窓は未だに煌々と光り、深夜にも関わらず、人通りは絶えない。
 美紗と日垣は、タクシーが行きかう大通りを並んで渡り、高層ビルのすぐ手前にある脇道に入った。ライトアップされた緑の遊歩道が都会の喧騒を徐々に遠ざけ、二つの足音は夜の木立に吸い込まれていく。
 言葉少なに歩を進めながら、美紗は右隣の日垣を遠慮がちに見上げた。目線より少し上にある広い肩。彼の横顔が、穏やかな中にも精悍さを漂わせているように見えるのは、照明が作り出す夜の木漏れ日のせいなのか……。
 やがて、二人は広いガーデンスペースへと導かれた。
「確かに、海の中にいるようだね」
 一面に広がる青と紺色の合間のような色合いの光の海を前にして、二人の足がほぼ同時に止まった。少しの間を置いて、日垣がゆっくりと青一色の中へと近づいていく。その後を、美紗は黙ってついて行った。
 夜の闇の中、青く映し出された彼のシルエットは、背広姿にも関わらず、濃紺の制服を着ている昼間と同じように、姿勢よく引き締まって見えた。見慣れているはずの背中に、突然、衝動的な何かを感じて、美紗は慌てて足元に視線を落とした。アスファルトの上に、彼の影がぼんやりと映っている。それを追って後ろを見やると、自分の影が、彼のそれと交わることなく、ただ長く伸びていた。並行に並ぶ二つの影は、美紗と日垣の関係を象徴しているかのようだった。

 二人の未来は、決して交わらない
 共通の未来が、あってはならない

 突然、美紗は息苦しいほどの動悸に襲われた。青い光に責め立てられ、貫かれているような気がした。息を吸うたびに、胸に痛みが走る。

 共通の未来なんか、いらない
 あの人に未来なんて求めない

 ただ一瞬だけ、許されるなら――