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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

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(第八章)アイスブレーカーの想い(4)-許されざる聖夜②



 統合情報局に勤める職員一同の願いが通じたのか、クリスマス前の世界情勢は極めて平穏だった。無事に十二月二四日の夕刻を迎えた情報局内は、定時を過ぎて一時間もしないうちに閑散とし始めた。第1部長直轄チームでは、すでに片桐の席が空いている。
「しっかしうちの部長、遅いなあ。空幕(航空幕僚監部)の会議に出てんだっけ?」 
 直轄班長の松永が壁時計を見ながら、苛ついた声を出した。
「副長(航空幕僚副長)と喧嘩でもしてんじゃないだろうな」
「あのテの会議に、副長は顔出さないでしょう」
 普段はのんびりしている先任の佐伯も、落ち着かない様子を見せる。
「防駐官(防衛駐在官)候補者の人事交流の件で長引いているのかもしれませんね。年明けにそういったプログラムを新規に立ち上げるような話があるとか、そんなことを以前聞いたことありますから」
「面倒くさそうな調整は、年が明けてからやりゃあいいのに」
 珍しく後ろ向きな発言をする松永に、チーム最年長の高峰が口ひげをいじる手を止めた。
「松永2佐も佐伯3佐も、今日はもう引けて下さい。日垣1佐が戻ってきても、おそらく、情報マターでは何もないでしょう。何かあったら連絡入れます」
「いや、そういうわけにも……」
 十以上も年上の部下に遠慮するイガグリ頭に、高峰は「気にせんでください」とにこやかに答えた。
「うちの子供らは、もう成人過ぎてますから、たぶん、日付が変わるまでそれぞれ好き勝手に外で遊び回っとります。もはや、父親の出る幕なぞ全くありませんでね」
「子の成長は喜ばしくも、と言いますが……」
「まさに、淋しいもんです。家族揃ってケーキ食うなんてのは、中学に入るまでですよ。お二人とも、今の時期を大事になさってください。これからは、単身赴任することもそれなりにおありでしょうし」
 松永と佐伯は、どちらからともなく顔を見合わせた。四十前後の二人には、それぞれ、小学生の子供がいる。これまでは転居を厭わなかった家族も、進学や教育の問題上、身軽に動くのは年々難しくなっていく。全国転勤を前提とする幹部自衛官にとって、単身赴任は宿命ともいえる。