小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

INDEX|19ページ/36ページ|

次のページ前のページ
 

(第八章)アイスブレーカーの想い(2)-トパーズ色の夜



 涼しげに見えていた青いイルミネーションが徐々に寒々しい気配を帯びていく中、美紗と日垣は、依然と変わることなく「いつもの店」を訪れた。
 金曜日の夜に「いつもの席」で、一人はいつも水割りを飲み、もう一人はいつもマティーニを飲む。ひとつだけ変わったのは、二人がさほど長居せずに馴染みのバーを出るようになったことだった。「いつもの店」の後に「いつものシティホテル」が加わったからだ。

 十一月半ばのある日、昼休みに女子更衣室で身支度を整えていた美紗は、鞄の中に入れてある携帯端末のバイブレーターが鳴ったのに気付いた。液晶画面に表示されたメッセージの発信元は、統合情報局第1部長の私用携帯だった。

『今夜、空いていますか』

 美紗は、はっと周囲を見回した。一緒に食事に行くらしい数人が、連れ立って更衣室を出て行くところだった。彼女らがいなくなると、部屋は無音になった。美紗は、もう一度、携帯端末を食い入るように見つめた。日垣がこのような文面を送ってくるのは、初めてだった。しかも、金曜日でもない日に……。
 取りあえず、時間が取れる旨だけを書いた。メッセージを送信したのと同時に、更衣室のドアが開いた。
「あ、鈴置さんだ。いいところにぃ」
 紅葉したモミジのような色の上下を着た女が入ってきた。第8部所属の大須賀恵だ。彼女に続き、やや背の高いパンツスーツ姿の女性職員も戸口に顔を覗かせる。
「鈴置さんに聞けば分かるかも。さっき話した奴、彼女のトコにいるから」
 大須賀が同僚のほうに振り返った隙に、美紗は急いで携帯端末を鞄にしまった。
「ねえ、鈴置さんの隣の席にいる丸っこい海の人、もしかして、ちょっと変?」
「……小坂3佐のことですか?」
 つい名前を出してしまってから、美紗は気まずそうに下を向いた。しかし、大須賀のほうは、いかにも期待通りの返事がきたという顔で、楽しそうに笑った。
「なんかさあ、あの人、最近よくうちの部に来るのよお。某国の内政危機の時からかなあ」
「小坂3佐はその事案をまとめて調整してたので、その関係だと……」
「でもその話、もうとっくに終わってるし」