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われら男だ、飛び出せ! おっさん (第ニ部)

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5.敵情視察



「やったな! 俺も嬉しいよ」
 佐藤は手放しの喜びようだ。
 やはり各店を推薦した名人たちは関内に集まっていたのだそうだが、助言などをしてはならないと言うので市庁舎に集まって見守っていたのだそうだ。

「正直な所さ、横浜代表だから家系が強いんじゃないかと思ったし、地元の店もあったからどうだろうと思ってた、あっさり醤油味が認められて、俺も自分が間違っていなかったと思って嬉しかったよ」
 しかし、それまで普段の強面はどこへやらで相好を崩していた佐藤だが、急に真面目な顔に戻る。
「これを見ておけよ、ラーメン甲子園に出て来る各地の代表だ」

札幌代表 『はまなす』(正統派味噌、多加水縮れ太麺)
喜多方代表『小坊主』(非乳化あっさりとんこつに鰹節醤油、平打ち多加水麺)
佐野代表 『まる』(鶏がらコク醤油、青竹手打ち平麺)
東京代表 『小次郎』(超あっさり塩、多加水極細ストレート麺)
横浜代表 『中華そばや』(あっさり醤油、手打ち麺)
名古屋代表『高雄』 (肉味噌辛味台湾ラーメン、多加水太麺)
和歌山代表『丸熊』(醤油とんこつ、多加水ストレート麺)
九州代表 『もっこす』(豚骨鶏がら、ストレート低加水細麺)

「場所はどこで?」
 やはりそこが気になるのは佳範だ。
「今回は喜多方だ」
「喜多方はあっさり醤油を好む土地柄ですね」
「ああ、だが有利とは限らないぞ、地元の優勝者も出てくるし、普段食べ慣れないラーメンの方がインパクトは強いかもしれないからな」
 ……言われてみればその通りだ。

「師匠はどこが強敵だと思われますか?」
 と、秀俊。
「いや、開店三年以内の店ばかりだからな、食ったことがあるのは東京の『小次郎』だけだ」
「『小次郎』はどんな?」
「そう遠くではないんだ、一度敵情視察してくるんだな、もしかしたら向こうはもう来てるかもしれないぞ」
「確かにそうですね」
 
 考えてみれば師匠に頼ることの方がおかしい、それ以前に各地のラーメンスタジアムを勝ち抜いた店ばかり、どれも強敵に違いない、三人は自らの甘さを戒めた。


ファイト! ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) ( ゚ロ゚)乂(゚ロ゚ ) イッパ~ツ!


「いらっしゃいませ……」
 ラーメン屋らしからぬ落ち着いた挨拶で迎えられた。
 三人は『小次郎』に偵察に来ているのだ。
 そもそも店構えからしてラーメン屋というよりも小料理屋のよう。
 そして、カウンターの中の若い男に見覚えがあった。
 痩身で細面に細い眉と切れ長の目、鼻筋が通っていて唇が薄い、長髪をポニーテールにまとめた髪型も特徴がある。
 どこをとっても『細い』印象もさることながら、やけに一々吟味するように食べて行ったのが印象に残っていたのだ。
 その男も入ってきた三人を見るなりニヤリと笑った、彼がこの店の主であることは間違いない。

「店主の佐々木です、ラーメンスタジアム東京で勝負したラーメンでよろしいですね?」
 不敵にもそう宣言して来た……。
 そして、出されたラーメンはと言うと……。
 超あっさりの名に恥じない透明なスープ、出汁は鶏がらと野菜も使っているようだが、魚介系がメインになっている、塩味もかなり控えめ、具に至っては白髪ネギだけと言うシンプルさ、一口目は物足りない印象が残るが、食べ終わる頃には丁度良かったと思える絶妙な味加減だ。
 しかも全てがあっさりしているので麺の香りと味が引き立つ。
 おそらくは『中華そばや』同様、国産小麦粉をメインにしているのだろう、国産小麦粉は腰が強くなりにくいのだが、むしろ腰の強さにはこだわっていない様子、極細に仕上げられた麺は、歯応え、食べ応えよりも、つるつるとした喉越しを主眼にしたもののようだ。

「どうですか? 私のラーメンは」
 食べ終わる頃合を見計らって店主が話しかけてきた。
「美味かった、極細麺がスープにマッチしているよ」
「塩加減が絶妙だね、出汁とのバランスが完璧だ」
「このラーメンにはチャーシューもメンマも邪魔なだけだね、素肌美人には化粧がいらないって感じだな」
「よく女性的だと評されますよ、実際そう評されると嬉しいですね、私のラーメンは楊貴妃をイメージして作り上げたものですから」
 それを聞くと納得が行く。
 世界三大美女の中で、クレオパトラはかなり情熱的で策略家でもある、小野小町は情熱的な歌を数多く残している、しかし楊貴妃が政治に口を出したと言う話は聞かないし、浮名を流したと言う話もない、ただ、ただ、たおやかな美人だったと言う逸話ばかりだ。
 そして、『小次郎』のラーメンもまた、突出した個性を主張する部分はないものの、その全体像は楊貴妃のような絶対佳人としてまとめられている。

「あなた方のラーメンも食べさせて頂きましたが、あっさりと優しい味の中に気骨のようなものを感じました」
「これだけのラーメンを作り上げたんだから、君も気骨があると思うけどな」
 気骨と言う言葉に優作が反応した。
「自分では気骨と言うのとはちょっと違うと思います、言うなればこだわりでしょうか」
「なるほど、わかる気がするよ、もしかして平成生まれかな?」
「生まれはぎりぎり昭和でしたけど、物心ついた頃から平成なんで、まあ、私は平成の人間でしょうね」
「俺たちは思いっきり昭和だからな、平成対昭和、正々堂々と勝負しよう」
「ええ、私の後ろにはラーメンスタジアム東京で涙を飲んだ店がいますからね、負けられません」
「それはこちらも同じだよ」
「お互い全力を尽くして、地域の代表として恥ずかしくない戦いを」
「ああ、望む所だ」

 四人はがっちり握手を交わして別れた。
 その帰り道……。
「最初見たときはなよなよした感じだなと思ったが」
 佳範は今時の若い者に手を焼いた経験があるだけに、第一印象は良くなかったようだ。
「いや、居住まいにもこだわりを感じたぜ、ああいうのは意外と芯が強いんだ」
 秀俊は若い女性に囲まれていただけに、見た目での偏見はない。
「気骨じゃなくてこだわりか……なるほどラーメンを作る所作に隙はなかったぜ」
 優作らしい目の付け所。
 そして、三人共通の感想はと言えば。
『さすがに全国大会、これは一筋縄では行かないぞ』 
 気を引き締める三人だった。