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われら男だ、飛び出せ! おっさん (第ニ部)

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2.いざ! 出陣



「いざ、出陣だな」
「ああ、切り込もう」
「武者震いするな」
「行こう」
「ああ、行こう」
「天気も良いな、こりゃ今夜は冷え込むぞ」
「ははは、ラーメン屋にとってそいつは一番だな」

『中華そばや』の暖簾をはためかせて、まっさらな屋台は動き出した。
 元師範代、編集長、店長の三人、しかし、今は新米のラーメン屋だ、しかも屋台の。
 それを恥ずかしいとか体裁が悪いと思う気持はさらさらない。
 男がこうと決めて、裸一貫新しい仕事を始めるのだ、気持は高ぶるばかり、むしろ『どうだ! 見てくれ!』と叫びたいくらいだ。
 

 借り受けた駐車場に屋台を据えると、てきぱきと開店準備にかかる、予行練習してきただけに段取りも上々、瞬く間に大鍋が据えられ、スープ鍋はコンロにかけられ、麺箱が積み上がり、具材が並ぶ。
 カウンターを広げ、暖簾をかけて準備完了だ。

「邪魔するよ」
「へい、いらっしゃ……師範じゃないですか、それにお前も……」
「いや、私もラーメンは好物でね、今夜新しい屋台が出ると聞いて楽しみにして来たんだ、一杯づつ貰おうか」
 最初のお客は神奈川県警剣道師範、森田の後釜に座った師範代も一緒だ。
「へい、お待ちどうさまです」
「う~ん、いい香りだな、ワシはやっぱりこういうあっさり醤油系が一番好きでね……」
「これは!……森田さん、美味いです」
「へへへ、そうかい?」
「本当に美味い……麺は手打ちなのかね?」
「はい、私が打った麺なんですが、いかがですか?」
「細いのに腰があって……そう、一言で言うなら気合が入ってるな」
「何よりのお言葉です」
「スープも美味いし、具も凝ってる……師範、これはぜひとも……」
「ああ、皆に教えてやらにゃいかんな……森田君、ワシは嘱託と言っても警察勤めだから祝儀を切る訳にも行かないんだが……明日からは道場帰りの若い者が詰め掛けるぞ」
「ありがとうございます」
「いやいや、本当に美味いものを勧めるんだ、礼を言われるようなことではないよ」


「編集長……」
「あ、お前たち」
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな、突然辞めたりしてすまなかった、今はどうしてる?」
「新しいウェブページを担当してます」
「そうか、良かった……」
「編集長がいらっしゃらなくなって、改めて編集長がどれだけ頑張っていらしたのか、身に沁みました、ボンクラな部下ですみませんでした」
「いや、俺の性分でね……こっちこそ君らを使いこなしてやれずにすまなかったよ」
「そんなこと……一杯頂いて良いですか?」
「あ、ああ、もちろんだ、しっかり味わって行ってくれ」


「親父……」
「おお、健一か! もう仕事は終わったのか?」
「まだだよ、結構遅くなりそうだ、で、どうせ夕飯を外で食うならって思ってさ」
「おお、座れ座れ」
「友達も来てるんだけど」
「何人だ?」
「十人」


「ああ、あったあった『中華そばや』、おーい、みんな、こっちだ!」
「おお、麻里か」
「腹ペコ高校生を引き連れてきたよ、お~い、今日は先生の奢りだけどね、明日からは自分で払えよ~」


「お父さん!」
「お、梨絵、来てくれたのか」
「うん、友達も五人一緒なんだけど、いい?」


「お父さん、忙しそうだね」
「みどり、まだ店は終わってないんだろ?」
「うん、休憩時間に抜け出してきたの」
「そうか、今日は冷えるからな、温まって行け」
「うん……森田さん、中村さん、こんな父ですけどよろしくお願いします」
「みどりちゃん、謙遜するのは良いんだけどさ、俺たちの親友を『こんな父』とか言わないでくれるかい?」


「店長、素敵な屋台ですね」
「おお、佑子くん、あ、それにみんなも」
「おいおい、秀俊、お前、こんなに羨ましい職場にいたのかよ」
 森田が冷やかすのも当然、突然訪れた若い女性たちで屋台の明かりが倍ほども明るくなったかのようだ。
「すっご~い、このすり身のお団子、店長が?」
「まあね」
「赤が入ると綺麗で華やかになって、よりおいしそうよね」
「おいしそうって失礼よ、だってこのラーメン、本当に美味しいもん」
「そうよね、優しい味なのにしっかり出汁が効いてて、麺も細いのに腰があって」
「このチャーシューもかまなくても良いくらいに柔らか~い」
「ホント、今までに食べた中で一番美味しい!」

 かしましくも華やかな黄色い歓声は道行く人もひきつけ、屋台は常に待ち人が出るほどの大繁盛。

「すみません、売り切れでして……明日からもここでやってますんで、よろしく願いします!」

「ふう……疲れたな」
「ああ、でも百五十杯完売だ」
「だけど、今日は知り合いが多かったからな」
「ああ、勝負は明日からだな」
「でも、手ごたえは感じたぜ」
「ああ、俺もだ」
「さて、片付けるとするか、明日も朝から仕込だ」
「「おう!」」


「初日は上々の滑り出しでしたね」
「ええ、陽子さんにも見せてあげたかったですね」

 物陰から様子をうかがっていたのは優作の妻、久美と佳範の妻、和歌子だった。

「さあ、急いで帰りましょう」
「そうですね、寒い中屋台を引っ張って帰ってくるんですものね、熱いお茶でお迎えしてあげないと……」