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われら男だ、飛び出せ! おっさん (第ニ部)

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1.屋台と暖簾



「警察と保健所への申請は俺に任せてくれ」
 その方面ならば優作は顔が利く。

「屋台の設計は俺に任せてくれるか? 内装工事店ならいくつか知ってるから相談してくるよ」
 と、秀俊、斬新な屋台が出来上がりそうだ。

「じゃあ、俺は調理器具だな、任せろ」
 厨房のことなら佳範、名店の厨房を何年も見てきたのだ。

 屋台は敢えて人力とした。
 昨今では軽トラを改造したものが主流だが、三人力が揃っているのだ、人力の方が屋台らしくて良いと言う優作の提案に二人も諸手を挙げて賛成だった。

 営業場所は佳範が見つけ、秀俊が交渉した。
 横浜駅に近いオフィスビルの駐車場、夜は空いているので場所代も安く済む。
 そしてヤーさん対策も万全だ、元県警の剣道師範代が出す屋台と知っていて手を出すヤーさんはいない、もっとも、絡まれたところで麺棒一本あれば何人来ても一撃なのだが。


「デザイン画が出来てきたんだ、見てくれよ」
「ほう!」
「なかなか!」
 内装工事店の設計担当が描いたデザイン画は伝統を踏まえながらも斬新なイデアに溢れていた。
 屋根は伝統的な切妻、しかし大きく庇を張り出せるようにロール式のタープを備え、その支柱を屋台本体で受けられるように金物を備えている。
 カウンターは広め、折りたたんで収納可能にし、微妙な曲線が美しい、しかもL字型にリアカー後部に回り込み、五人まで利用可能だ。
「いいな」
「気に入ったよ」
「だけどちょっと問題があるんだ」
「どんな?」
「リアカー一台で済まないんだよ、部材を収納するとスープ鍋や茹で釜を収納しきれないんだ」
 秀俊はちょっと当惑顔でそう言ったが、優作と佳範は全く意に介していない様子。
「それのどこが問題なんだ?」
「そうだよ、三人でやるんだから三台でも良いくらいだよ、二台あれば一度に入れるお客の数も倍になるしな」
 それを聞いて秀俊の目じりも下がる……いつも以上に。
「それもそうだな、じゃあこれで行こうか、製作はどうする?」
「出来れば自分でやりたいな」
「だけど可動部分もあるぜ、俺たちだけで出来るか?」
「職人さんを一人だけ頼んで、教えてもらったり手を貸してもらったりしながら、なるべく俺たちの手で作るってのはどうだろう?」
「「異議なし!」」


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「森田さんは垂木を取り付けて、村野さんはカウンター材にサンダーを、中村さんは屋根下地に防水塗料を塗って下さい」
 職人の指示で三人はきびきびと働く、楽しくて仕方がないのだ。
「そうしたら……森田さんは屋根下地を取り付けて下さい、村野さんはカウンターにニスを塗って下さい、中村さんは暖簾受けを取り付けて……」
「ちわー、板金屋ですけど」
「あ、今屋根下地が出来るからちょっと待って」
「へえ、いいっすね、銅版葺いたら映えますよ」

 徐々に夢が形になって行く。
 三人で屋台のラーメン屋をやろうと決めてから半年とちょっと、いよいよそれが現実のものとなって動き出すのだ。

「いいっすね、この屋台」
 完成した屋台を眺めて、若い職人は満足そうに頷いた。
 素人くさい部分がないわけではない、しかし、それも味の内、三人の『やる気』が屋台から滲み出している。
「ああ……やる気が沸いてくるよ」
「皆さん、作業してる時からやる気満々だったじゃないっすか、しかし、本当に気が合うんですね」
「まぁね、知り合ってから五十年近くなるからなぁ」
「一生物の友達かぁ、俺もそんな友達が欲しいっすよ」
「色々教えてくれてありがとう」
「とんでもないっす、俺もすげぇ楽しかったですよ」

 若い職人が帰って行くと、三人は肩を並べて飽かずに屋台を眺める。
「いよいよだな……」
「ああ、始まるな……」
「この三人で一緒に仕事できるとはな……」
「それは俺も同じ気持だ」
「ああ、楽しみで仕方がないよ……」

「お、完成したのか」
 ふらりとやって来たのは佐藤だった。
「あ、師匠」
「師匠はやめてくれよ、もう独立するんだし、年上に師匠とか呼ばれるとくすぐったくていけねぇよ……もし良かったらこれ使ってもらえないかと思って持って来たんだが……」
「あ……それは……」
「俺が屋台でラーメン屋を始めた時の暖簾なんだ、真新しい屋台に古ぼけた暖簾で悪いんだけどさ」
「とんでもない、でも、『中華そばや』と染め抜いてありますけど、俺たちがその名を名乗ってもいいんですか?」
「ああ、もし嫌でなければな、この暖簾はいつか弟子が独立する時にと思ってしまっておいたんだけど、今時屋台を始める弟子もいなくてさ……使ってもらえるかい?」
「師匠、何よりのはなむけです」
「だから『師匠』はやめてくれっての……」


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「へえ、手打ちラーメンってそうやって打つのか」
「なんか、お父さんが包丁握ってるの見るのって不思議な感じ」
「あなた、晩御飯の支度が出来ました、お湯もぐらぐら沸いてますよ」

 今宵の森田家の食卓には珍しく米飯がない、手打ち麺を茹でて塩だけで食べてみようと言うのだ。

「うおっ、美味ぇ」
「ホント! お父さん、これ美味しいよ」
「あら、本当に……こんなに細いのに腰が強くて……香りも凄く良いわね」
「そうだろう? 師匠秘伝の小麦のブレンドを手打ちに合う様に少しアレンジしてるんだ」
「これが村野さんのスープと合わせられて、中村さんの具が乗るのね、それはなんとしても食べに行かないと」
「ああ、ぜひ試食しにきてくれよ」
「俺も行くよ」
「私も」
「ああ、歓迎だ、一杯六百五十円だぞ」
「え~? 息子から金取るのかよ」
「当たり前だ、サービスは母さんだけだよ」
「うん、でも、いいや、私、生徒も連れて行くね」


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「どうだ? 俺のスープの味は」
「本当に美味しい……優しい味なのにぼやけてなくてしっかりした味」
「お父さん、やるじゃない」
「まぁな、伊達にグルメ誌の編集長はやってないさ、バッチリ修行もしたしな」
「いよいよですね……」
「ああ、いよいよ始まるな……軌道に乗るまでは苦労かけるかもしれないが」
「そんなこと……そんなに生き生きしているあなたを見るのは久しぶりのような気がします」
「ホント、お父さん、十歳くらい若返ったんじゃない?」
「ははは、気分は十八歳さ」
「あはは、お父さん、それはサバ読みすぎ」
「うふふ……でも、みどり、本当よ、出会った頃の佳範さんを見てるみたい……あなた……」
「何だ?」
「頑張って、とは言いません、新しいお仕事、楽しんでくださいね……」


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「これ、本当にお父さんが作ったの!?」
「味はどうだ?」
「美味しい……あぁ、なんか損した気分」
「え? どうして?」