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クリスマスよりも……(掌編集~今月のイラスト~)

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「あたし、クリスマスよりハロウィンの方が好きなのよね」
「へぇ……」
 仲間内でのハロウィン・パーティでのことだ。
 紗里奈の言葉に俺はそう応えたが、確かに紗里奈にはハロウィンの方が似合うと感じている。
 今日の紗里奈の服装は黒猫を思わせるもの、ちょっとゴスロリ風の衣装に小さな鈴が付いた黒いチョーク、そしてトドメは猫耳だ。
 紗里奈はクール、と言うかちょっと人を寄せ付けない雰囲気を持っている。
 あまり人と親しくはなろうとしないし、くすくすとくらいは笑う事はあっても心から大笑いするような事はない。
 そう。
 そんな雰囲気も黒猫を思わせる、誰にでも心を許す事がないような態度を取る、付かず離れず、微妙な距離をいつも保っているかのように。
 そんなそっけない、ちょっとミステリアスな雰囲気にも惹かれちゃうんだよなぁ……。

 学生時代からの仲間のパーティ、しかし紗里奈は当時からの仲間ではない。
 当時から仲間だった娘が就職した時、同期で入社してきたのが紗里奈、大卒ではなく夜間高校だったというから歳は三つ下だ。
 すぐに仲良くなったという事はなかったらしい、紗里奈は当時から人を近づけない雰囲気を持っていたそうだ。
 ただ、仲間の娘は母子家庭育ち、大学にも奨学金で通っていた、その返済のために立ち寄った銀行でバッタリと会ってそのことを話すと、紗里奈も母子家庭で育ったと打ち明け、それから親密に……あくまで紗里奈のレベルでの親密さだが……になったそうだ。
 俺が初めて紗里奈と会ったのも去年のハロウィン・パーティでのこと。
 はっきり言って『ど真ん中のストライク』だったのでクリスマスの再会を楽しみにしていたのだが、紗里奈はクリスマス・パーティには来なかった。
 新年だ、納涼だ、誰かの祝いだと理由を見つけては集まってバカ騒ぎをする仲間達のことだ、直に逢えるだろうと思っていたのだが、結局一年ぶりになってしまった。

「ハロウィンの方が好きだとしても、クリスマスも良いもんだと思わない?」
「あんまり思わない」
「どうして?」
「ロマンチック過ぎるからかな、なんだかカレシがいないといけないみたいな雰囲気は好きじゃない」
「そこから良い恋愛に発展することだってあるんじゃない?」
「そうは思わないな、それって錯覚じゃない?」
「恋なんて錯覚から始まるもんさ」
「そんなのっておかしいよ」
「おかしいかな?」
「うん、おかしい……」

 ちょっと投げやりな調子ながらも饒舌だった紗里奈が、そこまで喋った所で黙り込んでしまった、何か訳ありのような様子だ。
 でも、根掘り葉掘り訊かれたくもないんだろうな、と思った俺はしばらくグラスを弄んで黙っていた、紗里奈も同じく黙っていたが、空気の重さに嫌気が差したのかポツリポツリと話し始めてくれた。

「先輩にも言ってないんだけど、母子家庭だったのは小学校三年生まで、その後は施設で育ったんだ……」
「ああ、それで定時制だったのか」
「そう……」
 またしばしの沈黙……。
 店の真ん中ではゾンビの扮装をしたヤツが女の子に抱きつこうとしてひっくり返され、魔女の箒で掃き出されそうになって大ウケしている。
 そんな賑やかなパーティの片隅で、俺と紗里奈の間でだけ別の時間が流れているような気がしていた。

「母はすぐに男の人を好きになっちゃうクセに、その人との間で嫌なことがあると我慢できなくなっちゃう人だったの、でも、あたしの事は大事にして可愛がってくれてた……」
「そうなんだ……」
 それなのに何故施設に? そう思ったが口には出さずに置いた、そしてその疑問は紗里奈自身が解いてくれた。
「三年生の時にね、母は新しい恋人と駆け落ちしたの、相手は奥さんも子供もいる人で……そのまま帰ってこなかった……心中しちゃったのよ……落ち着き先が決まったらすぐに迎えに来てくれるって言ったのに……」
「そうか……」
「人を好きになるのが怖いのよ、いつかいなくなっちゃうんじゃないかって思っちゃうの、好きになりすぎちゃうと自分が自分じゃなくなっちゃうような気がして怖いの……母みたいになりそうで……」
「もう話さなくて良いよ」
 そう言ってやると、紗里奈は漆黒の瞳で俺をしばし見つめて黙っていた。
「話したくないことを無理に話さなくても良い」
「そう……だね……えへへ、こんなこと人に喋ったの初めて」
「そうなの? そりゃ光栄だね」
「さっきのナシ、忘れて、なんかカッコ悪い」
「カッコ良いとか悪いとか考えなくて良いんじゃない?」
「だって……」
「あのさ、他人事みたいに聞こえるかもしれないけど、お母さん、それなりに幸せだったんじゃなかったのかな、きっと恋をした時はその度に本気だったんだよ、でなきゃ心中なんてできないだろ? 結末はお母さんにとっても紗里奈にとっても不幸だったけど、最後に愛した人とは死ぬまで一緒だったんだよ」
「……そんな風に考えたことなかったな……」
「まあ、当事者じゃないから言えるのかも知れないけどさ」
「でも、それ、一つの考え方だよね」
「ああ、考え方は色々あって良いんじゃないかな」
「うん……なんか……ありがとう」
「え?」
「ちっちゃいけど灯りが見えた気がした」
「そう? なら良かった……クリスマス・パーティには来れそう?」
「あなたは?」
「もちろん来るさ」
「だったら……考えとく」
 そう言って紗里奈はちょっとだけ笑った。
 もし紗里奈とクリスマスにまた会って、今の笑顔を見せられたら……俺はヤバい気がするよ。