Ｓの悲喜劇
その日、サラが帰宅すると、家の前に何やら人だかりができていた。また、そのすぐ近くで、水色の短いワンピースを着た、茶髪ボブのスレンダーな女が走っていった。まるで何かに追われるように。
サラはその女が誰なのかすぐに分かった。１６年前、自分を不幸のどん底に突き落とした女である。
（えっ、うちの前で何が？そしてなぜあの女が…！？）
彼女は、
「失礼します、失礼します」
と人々をかき分けながら進むと、わが子が腹部を真っ赤にして救急搬送されるところだと分かった。サラは子の名前を叫び、彼の体にすがりついた。
( ﾉД`)ｼｸｼｸ… ( ﾉД`)ｼｸｼｸ… ( ﾉД`)ｼｸｼｸ… ( ﾉД`)ｼｸｼｸ… ( ﾉД`)ｼｸｼｸ… ( ﾉД`)ｼｸｼｸ… ( ﾉД`)ｼｸｼｸ… ( ﾉД`)ｼｸｼｸ…
はっと気が付いて辺りを見回すと、そこは彼女のベッドルームだった。
「あぁ、夢でよかった…」
悲劇が現実でなかったことに安堵しつつも、彼女はしばらく動悸が治まらなかった。
「おはよー、母さん」
スティーブンが起きてくると、母は慌てたように彼に駆け寄り、守るようにハグをした。
「え、何、何だよ」
困惑ぎみの息子に、サラはまるで警告するように言った。
「ねぇスティーブ、今日から何日か、知らない中年の女の人には極力近付かないで。分かった？」
「…あ、うん」
母の必死な顔を見て、彼は素直にうなずいた。