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選択の館

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選択の館編


 俺は、ビルのわきに建つ、古びた小さな館の前に立っていた。
 「選択の館」と書かれたその入り口のカーテンをくぐって、俺は中に入った。すると、小さなテーブルの向こうに、一見、民族衣装のようではあるが、ひどく風変わりな服を身にまとった女が座っていた。その狭い室内を見渡すと、異民族の家に迷い込んだような奇抜な装飾が、あちこちに灯されたキャンドルの光の中で浮かび上がっている。異国情緒という言葉では言い表せない不思議な空気が、これまで嗅いだことのない香の香りとともに漂っていた。

「ようこそ、選択の館へ。どうぞ、こちらにお座りください」
 怪しげな被り物から目しか出していないので、年齢はわからないが、声からすると中年の女のようだった。
「ここに、五枚のカードがあります」
 そう言うと、女は異様な飾りのついた爪が目立つ長い指を使い、俺の目の前に奇妙なカードを並べた。そのカードには天国を連想させる神々しい絵が描かれていたが、色合いが順に濃くなっている。
「このカードには強弱があって、あなたの方から向って左から順に強いカードになっています。このうちの一枚をこれからあなたに選んでもらいます」
 カードの絵と色で、一番右のカードを選べばいいのは容易に見当がつく。
「仮に、私がこの真ん中のカードを選んだとします」
 女はそう言って真ん中のカードを取ると、その裏側を俺に向けた。すると、なんとそこには心が凍りつくような暗く不気味な絵が描かれていた。
「このように、このカードは表裏一体。つまり、幸運の強いカードには強い不運も付いてくるということになります」
(なんてこった……それじゃ、そこそこの幸運にしておくしかないじゃないか)
「五者択一か……」
「いいえもうひとつ、どれも選ばない、つまり、あなたのオリジナルな人生のままという選択もあります。
 それから、必ずしも裏に絵が描いてあるとは限りません。裏が白紙の場合もあります。つまりその場合は、幸運のみということになります」
(いったいどうすりゃいいんだ、わけが分からなくなった……)
「それではどうぞ、選んでください」
 
 俺はそこで目が覚めた。
(なんだ、夢だったのか……それにしても、妙に現実味を帯びた夢だったな……)
 そして、その日は一日、あのまま夢が続いていたら俺はどのカードを選んだだろうと、考え込んでしまった。
 
 そして、その夜眠りにつくと、俺はまた、あの館の前に立っていた。
(嘘だろう! 夢って続きがみられるものなのか?)
 中に入ると、昨日の女が立ち上がって俺を迎え入れた。
「昨夜は失礼しました。大切なことをお伝えし損ねてしまいました。カードをひいた効果は、あなたに表れるわけではありません」
「え! じゃ、いったい誰に?」
「来世のあなたにです」
「来世の俺?」
「はい、それから、もうひとつ、うっかりしていたことがあります。あなたはすでに前世で、この館を訪れていたことがわかりました」
「何だって!」
「ですから、続けてこの現世で、カードの選択はできません」
「ちょっと待って、ってことは、俺にはこれから、前世で選んだカードの結果が表れるってことか?」
「その通りです」
「教えてくれ! 前世の俺はいったいどのカードを選んだんだ? そして、そのカードの裏は?」
「それは……」
 
 そこで俺は目覚めた。二日続けての奇妙な夢に、何とも言えない不安がよぎったが、あくまでもこれは夢に過ぎないのだ、と自分に言い聞かせ、なんとか落ち着きを取り戻した。しかし、どうにも気になる俺は、努めて冷静に考えてみた。
 もし、今、俺が選択するとしたら、どのカードも選ばないというありのままの人生を選ぶ。ということは、きっと前世の俺もそうしたに違いない。人生丸ごと、博打に掛けるような度胸は俺にはないし、前世の俺もきっと同じだろう。そう思いいたって、ようやく俺は安心した。
 ただ、もしも、もしも、宝くじに大当たりしたら、その時は覚悟が必要かもしれない……
 
 そう思い、俺はいつものように家を出た、ベッドの下に一枚のカードが落ちているのに気付かないまま―― 

作品名:選択の館 作家名:鏡湖