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9.問題の一週間



「よう、調子はどうだ?」
「昨日と変らないかな、ちょっとづつ良くなってるとは思うけど……って言うか、毎日来てくれなくてもいいのに、練習があるんだから」
「まあ、練習帰りの暇つぶしにちょっと寄り道しているだけさ」
 由佳がクツクツと笑う……まあ、確かに俺の家は反対方向だ……脳震盪の時に家まで送り届けてもらったのを忘れていた。
「明日はまた試合だね」
「ああ」
「頑張ってね」
「まかしとけって、今は負ける気がしないしな」
「そうだよね」
 由佳はにっこりと笑ったが、俺は別のことを考えていた。
 明日試合と言うことは先週の試合から1週間が経ったということ、そしてそれは由佳が言っていた『この1週間で何もなければ……』の期限でもある。
「あのさ……1週間経つよな」
「うん、まだ2~3日は安心出来ないけど」
「1週間って言ったじゃんかよ」
「病気は曜日なんか知らないもん、目安よ」
「まあ、それもそうだけどな……」
「心配してくれてるの?」
「あ、ほら、みんなも心配してるからさ、報告してやらないとな」
「うん、みんなにも宜しく言っておいてね」
「ああ……じゃあさ、明日も試合が終わったら報告に来るからさ」
「うん、お願い」
「じゃあ、帰るわ……明日な」
「うん」
 物足りなさを感じながらも病室の扉を開けようとすると、後ろから由佳の声。
「頑張ってね、あたしも頑張るから」
「ああ」
 俺は振り向かずに答えた。
「鷲尾君……」
「何だよ」
「毎日お見舞いしてくれてありがとう……すごく嬉しかった」
 俺は振り向いて言った。
「なんだよ、過去形なんか使うなよ、それじゃまるで……」
 その先は口に出せなかった。
「そうじゃないの、あたしも大丈夫だと思ってる、でもね、万一って事もあるから……」
「おどかすなよ」
 そう言ったものの、正直、この扉を開ける時、由佳のベッドが空になっていたらどうしよう、と毎回ドキドキすることは事実だ。
「とにかくさ、明日試合が終わったら報告に来るから、ちゃんとそこに居ろよ」
「うん、楽しみに待ってるから」
「ああ、じゃあな」
 軽く手を挙げると、由佳も少しだけ手を挙げて微笑んだ……。

(クソっ、さっさと直って、またずけずけと文句でも言いやがれってんだ)
 俺が廊下の真ん中をずかずかと歩くと、向こうから来る人はみな少し避けて道を空けてくれた。
 よっぽど怖い顔をしていたんだろう。
 何もかも真っ白の病院の中で、ベッドから起き上がれずに弱々しい姿の由佳はすごく綺麗だった……でも俺が見たい由佳の姿はそんなんじゃない……。


 翌日の試合は問題なく勝利を収めた。
 俺自身はちょっと低調な成績だったが……。
 心がここにない、とまでは行かないが、どうしても由佳のことが気にかかって集中できていなかったのだ。
 まあ、それでも快勝には変りはない、俺は試合の帰りに由佳の病院を訪ねた。

 いつもの通りに扉をノックするが、返事がない……。
 恐る恐る扉を開けると、いつものベッドに由佳の姿がなかった。
(まさか、そんな……)
 今度は安っぽいメロドラマでなくても暗転するシーンだ……が……。

「あ、鷲尾君、試合どうだった?」
 後ろから由佳の声、俺はもう少しでその場にへたり込みそうになった。
「おどかすなよ、ベッドにいないんだもんな、俺はてっきり……」
「そんなに簡単に死なないわよ、お生憎様」
 由佳はやけに上機嫌だ……嬉しいような、腹立たしいような……。
 俺はベッドサイドの丸椅子を引き寄せてどっかりとへたり込んだ。
 由佳の車椅子を押してくれていた看護婦さんが笑いをかみ殺している……恥ずかしいったらないよ、まったく……。
「ごめん、先生のところに検査結果を聞きに行ってたの」
「あ、そうか、それで、どうだって?」
「もう心配ないだろうって、まだリハビリ始められる所までは行かないけど」
 見ると、車椅子にベルトで固定されている、それがないと座っていることすら難しいのだろう……。
「ごめん、座ってるのも疲れちゃうの、横になっていい?」
「あ、ああ……もちろん」
 看護婦さんが手際良く由佳をベッドに横たえ、意味ありげに微笑みかけて出て行った。

「ねぇ、試合は?」
「あ、そうか……勝ったよ、もちろん」
「向かうところ敵なしね、入れ替え戦見たかったなぁ……」
「間に合いそうにないのか?」
「先生の許可が出ないと……でも、そうね、全然無理って訳じゃないから、頑張る、サポートまでは無理だけどスタンドで見るくらいなら許可下りるかも」
「ああ、見ててくれるだけでもいいさ」
「そうなの?」
「あ、だから、その……4年間一緒に戦って来た仲間だしさ」
「ふぅん、仲間ね……ま、いいか」
「何だよそれ、まあ、でもひと安心だな、みんなにも伝えておくよ」
「うん、お願い……それとね」
「何だ?」
「毎日来てくれなくてもいいよ、リーグ戦は心配なさそうだけど、入れ替え戦に向けて練習して置かないと」
「ああ、確かにそうだな、最下位チームと言っても1部でもまれてるチームだしな」
「そうだよ、やっぱりブレイブ・ブラザースは鷲尾君が活躍しないと得点力半減だもん、頑張ってね、あたしも頑張るから」
「ああ、わかった、まかせとけって」

 そう言って別れたものの、病院を出る時になって気がついた。
(ちぇっ、しまった、俺が由佳をベッドに移してやれば良かったんだよな、お姫様抱っことかしてさ……)

作品名:Scat Back 作家名:ST