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紙袋の話

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私はお茶が好きでたまらない。マニアとは思わない。というのも市販のもので満足できる程度だからだ。
 しかしもう、お茶を飲まない一日など考えられない。とにかく、大好きで毎日飲むのが当たり前である。
 
 それは今日の話である。とある大きな店に行った。その店は本当に良品が揃っていて、お茶に関しても例外ではない。私はお茶を買うためにその店を訪れたわけではない。が、偶然いままで見たこともない種類のお茶が、4本もあって、これはもう買うしかない。迷わず4本買った。
 ところでその店は印が無いことをうったえており、デザインもそれを感じさせる。しかしそれをよく見てみると、やはり良品がありそうで、惹かれるのだ。
 店員も丁寧であり、包装も、茶色い紙袋にその店名を適切なサイズで示した、やはり惹かれるデザインなのである。他店にその良さを、静かにアピールしているようで、私は好きだ。

 その日は雨が降っていた。
 諸事情により、歩いて家まで帰らねばならず、距離が4㎞離れたところにあり、雨の日に歩いて帰るのはやや大変だ。
 しかし別の諸事情により、私は疲労困憊していた。そんな中その道程は難儀なもだった。

 その難儀さを紛らわしてくれたのは、その紙袋だった。私も、印と言える印も無い人間な上、良人決して言い難い、その点は紙袋のデザインと良い意味で異なっていたので、まるでたかが紙袋に心のなかの羨望の目を向けて、一緒に歩いていた。

 途中で腹が減った私は、牛丼屋に入った。そのとき、ふと仲間の紙袋に目を向けた。
 あんなに立派だった紙袋は、雨に濡れ、土が散っていて、見るのが躊躇われた。しかしなお、店名が立派さを主張しているようにも見て取れた。

 家に到着したとき、私も紙袋もボロボロだった。紙袋は全体が濡れ、強度を失い、しかしそれでもなお店名は立派さを主張していた。

 そんな紙袋を、私はちゃんと捨ててあげた。もう、いいではないか。そんな弱った紙で、ずっとその店名を背負うのは可哀そうではないか。

 そんな主張、そもそもしないで良いのだ。なぜなら、当然のこと乍ら、私は知っているからである。その、ボロボロの紙袋の本当の姿を。

 それは私が好きでたまらないお茶で、新たに発見したお茶4本である。それが紙袋の本質だ。

 だから私は、紙袋からお茶を取り出してあげ、冷蔵庫に保存してあげたのである。
作品名:紙袋の話 作家名:島尾