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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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約束

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5



 隣に住んでいる清水さんが相談があると大竹の東京事務所にきた。
 清水は35歳から用務員として高校に勤めた。25年間務めると、清水が手掛けた庭木の1本1本に愛着を感じていた。清水の後任の用務員を清水はまったく知らなかったが、庭木には関心がないように感じた。と、言うのは大谷石で造られた塀の中にドウダン躑躅が植えられていたが、8月に雨が降らず、葉が焦れ始めていた。清水は電話して水をまくようにお願いする気持ちになったが、それでは用務員に迷惑がかかると感じ、気持ちを変えた。自分で水をまくことにした。水は校内に入らず道路からまくことが出来る。ただ、水は清水の家から20リットルのポリタンク4個に入れて車で運ばなくてはならなかった。校内に入れば水道は有るが、律義な清水にはそんな考えはなかった。塀は200メートルほどあり、最低3往復はしなくてはならなかった。
 夜になると、人通りはまばらである。清水はポリからジョウロに水を移し、自分の胸まで持ち上げ、丁寧に根元にまいた。若い時は何でもない力仕事も、70歳を過ぎた清水には半分ほど水まきをしたところで疲れを感じた。煙草に火を点け、路肩に空になったポリを置き、腰を下ろした。
「おじさん何してたの」
 声を掛けて来た娘が、清水にはこの学校の生徒だと、制服から分かった。
「垣根に水をまいていたんだよ」
「やさしいな。私もどうなるんかと心配だったの」
「植木には言葉が無いからね」
「おじさん学校で頼まれたの」
「いや、以前勤めていたから気になったんだ」
「ボランティアね。手伝うわ」
「気楽にやるから大丈夫。その気持ち、嬉しいよ」
「おじさんより背が有るから少し手伝わせて下さい」
 彼女は瀬戸あかりと名札で分かった。彼女が胸ポケットから出して見せてくれたのだった。すでに夜の10時を過ぎた時間であった。
「瀬戸さんは3年生」
「どうして分かったの」
「塾の帰りでしょう。それで」
「それでは水まきしますか」
清水はジョウロに半分水を入れ、瀬戸あかりに渡した。瀬戸は鼻歌を歌いなが、楽しそうで有った。
 異常気象なのか、雨は降らない日が続いた。清水がいつものように、水まきの準備をしていると、瀬戸が
「おじさん助けて」
と、自転車に乗ったまま叫んだ。彼女の後ろから後を追ってきた車が有った。
「あかり、なに、逃げてんだよ」
男は清水を無視して、瀬戸の腕を掴んだ。
「助けて」
瀬戸は片方の手で清水の腕にしがみついていた。30歳代前半の男は身長180センチはあるだろうか。清水は160センチで有った。
「君、嫌がっているんだから手を離したら」
「うるせえな。おじさんには関係えねえだろう」
「瀬戸さんとは知り合いなんだ」
「こっちは金を渡してんだよ」
「お金は返しました」
「つべこべ言うんじゃねえよ。契約しただろう」
男は瀬戸の顔をひら手打ちした。清水はその男の腕を掴むと、男は清水にも顔面に殴りかかって来た。顔面を殴られた清水の反射神経は無意識であった。男の腹にパンチを食らわせると、男はうずくまった。その顔面にもパンチを浴びせた。
男はとっさの出来事に、戦意も無くした様子であった。
「すみません」
男はその言葉を残して車に乗った。
「ありがとう。お金になるバイトだと聞いて、面接したら、1万円くれたの。採用だって言われ、次の日に行ったら、JK散歩だったんです」
「心配ないよ。何かあったらおじさんに電話しな。今日の事は親には言わない方がいいかもとおじさんは思うよ」
「ありがとう。そうします」
 清水は瀬戸あかりと別れると、自首するかどうかと迷った。清水は20代にプロボクサーで有った。その為に清水の拳は凶器とみなされていた。自首すれば瀬戸の事も表に出てしまう恐れがあった。清水は一刻も早く大竹に相談したいと思い、上京したのだった。
「解りました。多分被害届は相手が出さないでしょう。このまま様子を観ましょう」
「自分はどうなっても、彼女は将来が有りますから、よろしくお願いいたします」
 週末の夜、大竹は高校に車を向けた。水をまく、2人の姿が見えたが、そのまま車を走らせながら、谷津愛が通った高校を見られた喜びをも感じていた。
作品名:約束 作家名:吉葉ひろし