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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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約束

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 分厚い封書が山積みになっていた。弁護依頼のものが大半であった。基本的には紹介が無ければ弁護はひき受けなかった。協会からの国選弁護などは持ち回り的なこともあって、ひき受けていた。大竹守は主に刑事事件が多かった。刑事事件の弁護では弁護士料もたかが知れていた。
 山積みの封書の束が、窓際の棚から、春の強い風で崩れ落ちた。たった1人の事務員は昼食で外出中であった。大竹は30通ほどの封書を拾いだした。1通づつ差出人を確かめた。そのなかで、聞き覚えのある名があった。谷津愛であった。大竹は床に尻をおろし、指先で封を切った。

突然のお便りを差し上げること、お許しください。先生のお時間のある時に、下記住所をお訪ね頂けると幸いです。空き家のままですが、管理人の電話番号も添えておきます。
 私の名をお忘れになったなら、この手紙は破棄してください。
 手紙には北関東の町の住所と管理人の電話番号が書かれていた。そこは過って大竹が住んだ町であった。
 消印は半月前の10月であった。
 もちろん、大竹はその日のうちに車でA市に向かった。東京から高速道を使えば1時間30分ほどであった。到着した時は5時を過ぎていた。ナビの案内は正確で、古い1戸建ての前に案内してくれた。1度来たのではないかと思った。築40年ほどの感じであった。屋根はスレート瓦で、外壁はトタンであった。同じ造りの家が8軒あった。4軒が2列に並んでいた。
 大竹はケイタイから管理人に電話した。谷津愛の事を言うと
「承っています。直ぐに参りますと言った」
近くに住んでいるのだろう、5分ほどで来た。
案内された家は、小さな庭があり、雑草は無く、芝がまだ芽吹いては居ないが手入れされている感じであった。3メートルほどのこぶしの木は白い花を満開につけていた。
「どなたか住んでおられるのですか?」
「いいえ、家賃を10年分いただいており、部屋の換気と庭の手入れも受けています」
「外国にでも行ったのですか?」
「理由は聞かない約束でした。ただ、大竹守様が見えたら家の鍵を渡して下さいと依頼されています。こちらが鍵です」
 管理人は鍵を大竹に手渡すと
「お帰りの時には電話をください」
と言った。
 玄関の引き戸を開けると、板の間があり、右手にキッチンで、8畳ほどの広さであった。大竹は自分の目を疑った。ホワイトのテーブルも2脚の椅子も新しく見えたからだ。シンクもピカピカに光っている。鍋も使った様子が無い。
大竹はまだかすかに感じる畳の臭いを嗅いだ。キッチンの前の障子を開けると、畳換えをしたばかりの様であった。6畳間で有った。
そのほかに6畳ほどの洋間があった。その部屋には洋箪笥があった。大竹は躊躇うことなく、扉を開けた。中に男と女のスーツが吊るされていた。

作品名:約束 作家名:吉葉ひろし