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盗賊王の花嫁―女神の玉座4―

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 ひんやりとした地下水路から上に出ると、熱気が肌に触れた。
 黒羽と漓瑞は南大陸第二の版図をを誇るジャロッカ王国の東部に位置する南部第九支局へと、予定通り到着した。
「確かにこの季節にしちゃ暑いな。でも、タナトムよりはからっとしてるなあ」
 玉陽では場所によっては雪が降る冬に当たる今、事前に説明があったとおりジャロッカは初夏のような気候だ。以前訪れたタナトムも温暖であったがべたつく湿り気があった。
「しかし、また派手ですね……」
 水路から上がって最初の柱廊は極彩色だった。屋外演習場に面した左手側の柱は朱塗り。右手の壁は青や緑、黄色に加え金で細やかな模様が描かれている。
「支局つっても色々だなあ。……どうも」
 これから出動するのか数人の局員とすれ違って、黒羽は会釈する。皆肌が褐色で黒髪が多い。明らかに異国人と分かる黒羽と漓瑞に挨拶を返しつつ、本局の方ですかとほがらかに声をかけてくる。
 そして支局長室の場所を教えてもらい挨拶をすませてから、魔族監理課へと赴いた。
 支局の隅々まで最初に通った柱廊と同じく派手な装飾が多い。そして壁や扉がほとんど見受けられなかった。廊下沿いは柱で区切られていて部屋の内部が柱の隙間から見える。内側に厚手の帳がかけられて中が見えない部屋もあった。
 とにかく目にする景色何もかもが物珍しく、黒羽の視線は自然とあちこちに忙しく向かいがちになる。
 魔族監理課は支局から入ってすぐとのことで、中央の広い廊下を真っ直ぐに突き進んでいくと、解放された支局の玄関口が見えた。多くの局員が行き交っていて、左右のどちらかに進む。
「魔族監理課はあちら側でしたね」
 正面玄関から入ってすぐに魔族監理課があった。廊下を挟んで向かい側は妖魔監理課ということで両方とも壁はない。
「……取り込み中じゃねえか?」
 部屋に入ろうとしたものの、出入口では二人の男が話し込んでいた。片方は局員章が耳についているのだが、もう一方の頭に布を巻いている豊かな髭を蓄えた初老の男は局員ではなさそうだった。
「娘の手がかりは本当にないのでしょうか。捜索はきちんとしていただけているのでしょうか。あの子は家出などできる娘ではありません」
「こちらも手がかりがまだ掴めていないので、捜索しようにもままならないのです。申し訳ありません。そちらになんらかの連絡があれば、お知らせ下さい。我々の協力できることはいたしますので。何もできず、申し訳ない」
「いえ。こちらこそお忙しいところ、度々申し訳ありません……」
 初老の男はがっくりと肩を落として、弱々しい足取りで局舎から出て行く。
「あ、本局の応援の方ですね。どうぞお入り下さい」
 困り顔でため息をついていた局員が黒羽達に気づいて手招く。
「東部局から来た黒羽です。あの、さっきの人は……」
「ああ。あの方ですか。一月半前に娘さんが魔族に誘拐されたということだったんですが、身代金の要求もなく人身売買の線も、父親がこの地区の商人を束ねているのでどうにも薄い。で、その娘さんは近々するはずの結婚に乗り気じゃなかった。他に想い人がいたらしく、どうにも駆け落ちではと。一応、最近所帯をもった魔族がいないか聞き込みはしてるんですが、まあ駆け落ちなら知ってても告げ口もそうそうないでしょう。落ち着いたら父親に連絡ぐらいはするかもしれないですがね……。二、三日に一度は来るので、こちらも対応に苦慮しているところです」
 局員が疲れ切った様子でうなだれる。
 確かに局員の話だけを聞くと駆け落ちに思える。足繁く監理局に通い娘の行方を捜す父親の姿はいたたまれないものがある。
「ネッドさん今日も来てたのか……と、本局の方々ですね。お待ちしてました。課長のアマンです。こちらへどうぞ」
 部屋の奥から四十前後の男が出てきて、黒羽と漓瑞に頭を下げて部屋の奥へと案内する。中は複雑に柱で分けられた幾つもの部屋があった。一部はやはり帳で中が見えない部屋もあり、黒羽と漓瑞が通されたのもそうだった。
 どうやら会議室らしく、中には局員が十人ほどいて壁には地図が貼りだしてある。アマンに紹介されて黒羽と漓瑞は会議に参加することになった。
 管轄外からの応援というのは誰も気にしてはいなさそうだった。うまくやっていけそうだと黒羽は安心する。
「すげえ、広範囲だな」
 そして盗難があった地区の位置を地図上で説明されて思わず驚きの声を上げる。
 広大な国内の東半分の至る所で盗難事件は起きていた一番距離のある被害のあった地区はここから半月以上かかるということだ。件数も一年半で二十四件とあまりに多い。
「同一犯と分かったのは四件目です。ここと、ここ。一件目と二件目が距離にしてひと月になりますが、半月という短い間隔だったので最初はまったく関連づけて考えていなかったのです。しかし三件目と四件目でどうにも手口が似ているということになりまして。ひとつの組織だった窃盗団が分散して犯行に及んでいる物と推測したわけです」
 局員のひとりが説明の中の移動時間の短さに黒羽と漓瑞は視線を交わす。
 監理局が特殊な地下水路で各地を短時間で渡り歩くのと同じく、旧い神の時代に築かれた特殊な通路がある。もしかすると、その通路を使っているのかもしれない。
「しかし、本当に巧妙に逃げ回っていたのですね。広範囲な上にこちらは物流が多く警戒も困難だったでしょうが、今回、窃盗団を発見できたのは、何か手がかりがあったのですか?」
 詳しい事は現地でと言われ、これといって事件の詳細は知らされていない漓瑞が訊ねる。
「窃盗団は骨董を扱う商隊からごっそり盗んでおいて、聖地の付近で発掘されたものやかつて女神様に献上された物、あるいは下賜されたものという物以外はほとんど道端に捨てていくんです。持ち主に帰ればいいものの、拾ってそのまま売り払う輩も出て盗賊が他の物を売りに出しても足がつきにくかった。しかし、足がついたものがやっと見つかったんですよ。売りに出した魔族の男と似た風貌の奴を見つけて、そいつを見張ってた。で、近隣の商隊に協力してもらって囮になってもらって現行犯で捕まえられる寸前まではいったんです」
 そして件の謎の刀剣を持った魔族と交戦、撤退とあいなったということだ。
「その時に応戦したのが私です。頭と呼ばれていたので頭目で間違いないでしょう。剣も特殊なこともあったが、相当な手練れの剣術使いでした」
 アマンが神妙な顔で腰の魔剣を示す。課長で魔剣持ちが苦戦としたというなら、手強そうではある。
 しかし、アマンがどれほどの実力か知らないので強いのは分かっても、具体的にどのくらいとはわからなかった。
(後で、手合わせさせてもらえねえかな)
 黒羽はそんなことを考えつつ、窃盗団の特徴などを聞いていく。
 囮にかかった盗賊は八人。いずれも白っぽい布を巻いて顔を隠し指ぬきの手袋で刻印も隠していた。刻印が見えないので何人かは人間かもしれないが、人間を遙かに凌ぐ身体能力を持った者は五人はいたという。
「女神に由来する物がどこかに売られたというのは一件もないのでしょうか。具体的にはどのような物が盗まれていたのかも知りたいです」
作品名:盗賊王の花嫁―女神の玉座4― 作家名: