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盗賊王の花嫁―女神の玉座4―

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 松明と月明かりにぼんやりと浮かび上がる大きな屋敷へは、もう二度と戻らないと思っていたのにこんなにも早くに帰ってきてしまった。
「姉様!」
 屋敷の裏口から真っ先に飛び出してきたのは今にも泣き出しそうな弟のニディだった。思い切り抱きついてこようとした弟は、ほんの寸前でぴたりと止まり、戸惑い気味に自分の腹のあたりに目をやった。
「ニディ、ごめんなさい。たくさん無理を言ってしまったわ」
 誰よりもこの子には辛い思いをさせてしまった。
 ネハはそっとニディを抱き寄せて背を撫でる。
「……姉様、姉様……もう、どこにもいかないで」
 遠慮がちに体を寄せてニディが嗚咽を上げる。
「ええ。わたくしの行く場所はどこにもありませんわ……」
 ネハは言いながら屋敷から出てくる父に深々と頭を下げる。子供と一緒にこの屋敷でデヴェンドラを待っていいと父は許してくれた。
「ネハ、早く中に入って休みなさい。体に障ってしまう」
 何事もなかったように自分を受け入れる父の姿に、喉の奥が詰まる。一生に一度の我が儘だった。
 デヴェンドラと共に屋敷を出たことは微塵も後悔していない。父の反対も最もだというのも分りきっていたけれど、それでも自分は全てを投げ捨てた。
「お父様、ありがとうございます」
 何もかもを許してくれた父に涙を呑み込んでそう告げ、ネハはニディと手を繋いで屋敷へと入る。
(この子が産まれる時、世界はどうなっているのかしら)
 まだ芽生えたばかりの命が宿る腹に手を置いて、ネハはデヴェンドラとの別れ際のことを思い出す。

『主たる神が消えた今、ここもこの先どうなるかわからない。ただ、何があったとしても僕は必ず、君とこの子に会いに来る。会えない間も君とこの子はもちろん、ニディと旦那様が健やかに幸せであることを願ってる』

 ネハのおなかに触れて、デヴェンドラはそう言った。そして子供の名前も男児と女児、両方授けていった。
(わたくしも何があっても待っているわ)
 信じている。もう一度、巡り会える日を。
 ネハはほんの少しの寂しさと、いつかくる再会の日への大きな希望を胸に抱いて微笑みを浮かべた。

作品名:盗賊王の花嫁―女神の玉座4― 作家名: