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マル目線(後編)]残念王子とおとぎの世界の美女たち

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残念王子の策略


海底国の人魚姫を伴って帰国した日。

私は王子や爺や様とは別行動をしていた。

王子の命令通り、王子の海辺の別邸に人魚姫を連れて行っていたのだ。

王子の外遊に同行していた女官は海辺の町出身で海底国の言葉を少し話せるので、人魚姫の世話役として一緒に連れて屋敷に入る。

屋敷にもともといる侍従達に、簡単に人魚姫を紹介する。

「王子も、王様への報告が終わったら参ると思いますから、それまでゆっくりされていてください。何かご要望などは?」

人魚姫の前に跪ずいて見上げると、人魚姫は少し不安そうな顔で私を見下ろして、唇を動かした。

『王子様さえ来てくれたら、何もいらない。』

読唇術でそう読み取った私の胸は、切なく締め付けられた。

(なんとかしてあげたい…。)

人魚姫に、私は笑顔で頷いた。

「必ず、連れてきますので!」

そして立ち上がると、私は女官へ人魚姫を託し、急いで城へ戻った。

王子が王様へ報告に向かう時、ようやく私は城へ着いた。

天井裏を駆け抜け、謁見室へ向かう王子と爺や様の傍へ降り立つ。

「ただ今戻りました。」

「おお、マル。ご苦労だったな。」

爺や様は驚きつつも、穏やかな笑顔を向けてくださった。

「おかえり~。ありがとな。」

続けて王子に屈託のない笑顔を向けられ、私の胸は高鳴る。

(もう、最近ダメだな、私。些細なことでも、惑わされてしまってる!)

動揺する自分を戒める私をよそに、王子は再び笑顔を私に向ける。

「で、何か言ってた?」

私は、立ち上がって王子の隣を歩きながら、30cm近く上にある王子の顔を見上げて頷いた。

「王子様さえ来てくれたら、何もいらないって仰っていました。」

嫌な顔をするだろうな、と思いつつ報告すると、意外にも王子は不敵な笑顔を浮かべた。

「ん。りょーかい。」

(…え?)

私の心に、一気にドロドロしたものが広がる。

(王子、嫌だって言ってたけど…やっぱり人魚姫の美しさに心が動いて…?)

さっきまでは、『なんとかしてあげたい』なんて偽善的なことを思っていたけれど、結局それは王子が拒むと思っていたからなのだ。

王子の気持ちが向いたかもしれないと思った途端に、王子が人魚姫に関わることに腹が立ってくる。

(最低だな、私。)

私は王子から目をそらし、前を向いた。

そんな私の汚い心に全く気づかない王子は、私の肩に手を乗せると耳元に唇を寄せて囁く。

「とりあえず、貴族たちの子息の中で、華やかな者達にパーティーの案内を出しといてよ。20人程度でいいから。あ、近衛隊長も出しといてね。」

王子の声が直接鼓膜に届くものだから、私の心臓は壊れそうなほど早鐘をうつ。

しかも肩を抱き寄せられ、王子が喋る度に耳に吐息がかかるので、私はもう倒れそうだった。

慌てて肩を抱く王子の手を払いのけると、距離をとった。

「ふぉっふぉっふぉっ、真っ赤な果実のようになっておるぞ、マル。」

手を払われた王子も目を丸くしていたけれど、私の真っ赤な顔を見て意地悪な微笑みを浮かべる。

「もしかして、耳、弱いの?」

言いながら、再び私の肩を抱き寄せ、わざと耳元に唇を寄せる。

「時は明日の昼下がり、場所は海辺の別邸な。」

(もうやめて!!)

わざと耳に吐息を吹きかけながら王子は、私に指示する。

耐えられなくなった私はそのまま、その場から姿を消した。

「かしこまりました!!」

天井裏からやけくそになって叫ぶと、王子と爺や様の爆笑が聞こえてきた。

「初めて、マルの弱点を見つけたなぁ♪」

愉しそうな王子に、爺や様が頷く。

「頬を真っ赤に染めて、かわいらしゅうございましたな。」

(くそー!!)

私は王子の吐息がかかった耳を押さえながらひとり天井裏で悪態をつく。

けれど、そのうち王子の肩を抱く手の感触や鼓膜に響いた声、耳に触れた吐息などを思い出し、心が舞い上がった。

(王子の手、あたたかくて大きかった…。)

そっと手で、王子の触れた場所に触れてみる。

でも、王子の指や掌が包み込んだ範囲を同じように触れることはできなかった。

(!!なに、のぼせてんだ、私!!)

さきほどのドロドロした感情はどこかへいき、幸せな気分になっている自分に気付き、愕然とする。

こんなに感情の浮き沈みが起きるなんて…忍らしからぬ、忍としては失格の自身を反省し戒める。

(しっかりしなきゃ。忍としてダメになったら、王子の傍にいられなくなる…。)

そう思った時、謁見室の前へ着いた。

王様にご挨拶をしないといけないので、私は改めて感情を殺し忍に戻ると、再び王子の隣へ降り立った。

王子にからかわれてもいいように心に何重もの鎧を着て身構えたけれど、王子は既に気持ちを切り替えていて、凛々しい表情で扉をノックした。

「カレンです。」

王子の声に、扉がゆっくりと開く。

内側から扉を開けた騎士が頭を下げる前を、王子は美しい所作で優雅に玉座へ歩いていく。

爺や様が王子の後ろに続き、私はその後ろからついて入った。

私が謁見室に入ると同時に、扉が閉まる重い音が響く。

玉座には王様が座っており、王子が玉座の階下に跪ずくと両腕を広げ迎えた。

「よう無事に戻った。」

威厳ある声で、王様が王子に声をかける。

「今、眠れる森の国より戻りました。」

王子は王様と視線を交わした後、頭を垂れて挨拶をした。

すると王様は玉座から立ち上がり、ゆっくりと階段を降りてくる。

「爺も、久しぶりの船旅、疲れたであろう。」

降りながら、王様は爺や様へ柔らかく微笑む。

「まだまだ大丈夫でございます。楽しゅうございました。」

爺や様が朗らかに返すと、王様も威厳のある笑みを深め、私にも声をかけてくださる。

「世話になったな、マル。」

「大役に任じて頂き、感謝しております。」

私が頭を垂れると、王様の衣擦れの音がした。

目を上げると王子の前に王様がかがんでいた。

「どうであった?初外遊は。」

王様がくだけた様子で王子へ訊ねると、王子が私と爺や様をふり返って王様を改めて見た。

「爺やとマルのおかげで、無事に役目を全うすることができました。」

王様は懐から封筒を取り出すと、王子へ手渡す。

「うむ。あちらの王も、手紙でおまえを褒め称えておった。」

王子はさっと手紙に目を通すと、それを爺や様に渡しながら、嬉しそうに答えた。

「マルが、機転を利かせた通訳をしてくれたおかげです。」

(え!?)

驚いて王子を見ると、王様が私へ視線を向ける。

「うむ。マルは本当に優秀な従者で、ありがたいのう。」

私は慌てて首を左右にふり、床に擦り付ける勢いで頭を下げる。

「とんでもないです!一番の功績は王子様の真摯なご対応でございます!」

私の言葉に、王様が思い出したような表情をし、悪戯な笑顔を浮かべた。

「そうだ。おまえ、心に決めた姫とやら、いつの間に見つけていたのだ。」

そんな存在がいないと知っておきながら訊ねる王様に、王子は苦笑いを浮かべた。

「オーロラ姫は、清楚な美人だと聞いていたが…おまえが断るとはな。正妻候補に良いかと思って、今回行かせたのだが。」