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[完結]銀の女王と金の太陽、星の空

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第二十章 忍の夫君


「!」

小柄な体が後ろに宙返りをする。

おかっぱの銀髪が光を反射しながら翻る。

しかしそこに着地するのを見越したかのように、降り立った足元に暗器が次々と突き刺さった。

「父上!手加減してください!」

肩で息をしながら、おかっぱの男の子が数十メートル先の木の上を見上げて叫ぶ。

すると、その木から暗い銀髪の男が飛び降りた。

黒装束に身を包み、顔には銀色のマスクをつけている。

「甘いよ。」

言いながら、男の子に向かって容赦なく、鎖鎌が飛んでくる。

男の子はそれを忍刀で受け止めて弾いた。

「だから、弾いたら相手の思う壺だって。」

その言葉と同時に、男の子の喉に鎌がかかる。

いつの間にか、男の子の真後ろに男が鎖鎌を持って立っていた。

「いつも言ってるでしょ、楓月。」

楓月と呼ばれた男の子は、目を瞑るとその場にへたりこむ。

額からは、滝のように汗が流れていた。

「8歳相手に、容赦ないんだから。」

肩で息をしながら悪態をつくと、楓月は地面に突き刺さっている暗器を抜いて男に渡す。

「空、楓月、麦茶を淹れたわよ。」

私がバルコニーから声をかけると、二人同時にこちらを見上げる。

「はい!すぐに参ります!!」

楓月は、丸い大きな碧眼を半月にして、駆け出した。

その時だった。

空がハッとした表情をして、宙返りをして飛び退く。

すると、先程まで空がいた場所に手裏剣が3つ突き刺さっていた。

空は飛んできた先をふり返ると、腰に手を当てて声を掛ける。

「麻流(まる)。」

すると、黒髪のおかっぱの女の子が得意気な顔で、近くの木から降りてきた。

「次こそは、仕留めてみせますよ。」

空はその子の頭を撫でると、ひょいと肩に乗せる。

「ここから母上のいるバルコニーまで跳んで行けたら、俺を仕留められるかもね。」

私は慌てて、空を睨む。

「ここ3階よ!麻流はまだ6才だし!」

ちょうど私室に着いた楓月が、私の声でバルコニーへ駆けつける。

その瞬間、麻流は空の肩に軽々と立ち上がった。

そして肩を蹴ってひらりとその体が跳び上がる。

「!!」

帝王学を身に付けている私も楓月も、悲鳴を上げれないので、同時に息を吸い込んだ。

そんな私たちの心配をよそに、麻流はそのまま2階のバルコニーの手摺まで跳躍して軽く蹴ると、その勢いで3階のバルコニーの手摺に掴まった。

そして、そのままひょいと私と楓月の間に降り立つ。

想像を絶する身体能力の高さに、私も楓月も驚きすぎて言葉が出ない。

絶句する私達の前で、麻流は中庭にいる、空を見下ろして叫ぶ。

「できました!これで父上を仕留められますね!」

すると、言い終わらないうちに、バルコニーの手摺には音もなく空が立っていた。

どうやってそこに来て、丸い手摺にぐらつきもせず立てているのかわからないけれど、空は手摺に立ったまま麻流を見下ろす。

「2階を利用しているうちは、無理。」

言いながらいつの間にか靴を脱ぎ、スリッパに履き替えていた。

麻流はほんのり桃色に色づいた丸い頬を膨らませながら空を追って部屋へ入ってくる。

「今のはどうやったんですか?教えてください、父上!」

まとわりつく麻流を右腕でひょいと抱き上げながら、通りすがりに楓月を左腕で抱き上げる。

そしてテーブルまで来ると二人を降ろし、私を抱きしめる。

「ただいま、聖華。」

口を覆うアルミのマスクが、私の頬をひんやりと冷やす。

「おつかれさま、空。」

私が微笑むと、空はその切れ長の黒水晶の瞳を三日月にしながらマスクを外す。

そして、目元を覆う仮面に付け替える。

これは、子ども達に色術をかけない為のものだった。

一緒に過ごすには、目か口のどちらかを隠しておかないといけない。

「私は父上のお顔を早く見たいので、もっともっと精神を鍛えます。」

楓月が麦茶を飲みながら言うと、麻流はその丸い大きな黒水晶の瞳を半月にする。

「私も、母上のように言霊の力に負けない女王を目指します!」

麻流は、どうやら隔世遺伝が強く出たようで、なぜか黒髪に黒水晶の瞳をしていた。

「え?私が嫡子だから、母上の次の王は私だよ。麻流は私に何かあったら女王だけど。」

楓月の言葉に、麻流が空を見上げる。

「じゃあ私は星一族の頭領を目指します!いいでしょ?父上。」

「ん。」

空は柔らかく微笑みながら、首を傾げた。

「お前は、忍の頭領向きかもね。」

空の言葉に、麻流が嬉しそうに黒水晶の瞳を半月にした。

「紗那(さな)と馨瑠(かおる)は?」

言いながら、ベビーベッドでこちらをジッと見つめている赤ん坊を空は抱き上げる。

「星一族のみんなが、遊んでくれてる。」

空は理巧(りく)を抱いたまま椅子に腰かけると、麦茶を一気に飲み干した。

「そ。じゃあちょっと休んでな。」

低く艷やかな声で、耳元でそう囁かれ鼓動が一気に跳ねる。

私は頬が熱くなりながら頷くと、ありがたく寝室に下がらせてもらった。

結婚式を空と挙げなおして、10年が経った。

子どもも楓月王子、麻流王女、紗那王女、馨瑠王女、理巧王子の5人に恵まれ、賑やかな毎日を送っている。

空はこの10年、かわらず私を大事にしてくれていた。

「父上、おかわりをください。」

「私も!」

「ん。おやつは?」

「「いります!!」」

「…ぷっ。」

シンクロした二人に、空がふきだしている。

微笑ましい親子のやり取りに、ベッドの中で私も微笑んでいると、風が動く気配がした。

「楓月、麻流、帝王学の時間だ。」

ハスキーな声が聞こえる。

どうやら銀河が、勉強を教えに来たようだ。

そこへまた風が動き、カモミールの香りがほのかに香ってきた。

「馨瑠がトイレに失敗しちゃった!着替えちょうだい!」

「ちょっと抱いてて。」

空が、言いながら席を立つ音がする。

「理巧~♡かわいいなぁ♡」

太陽の明るい声に、私は思わず頬が緩んだ。

「うるさいぞ、太陽。」

ハスキーな声に一喝されても、太陽は全然気にしていない。

「理巧は暗めの銀髪に切れ長の黒い瞳…空に似ててドキドキするよね。空の赤ちゃんの頃ってこんなんだったんじゃない?麻流は、相変わらずお人形さんみたい♡で楓月は銀髪にまあるい大きな碧眼で、ほんっと僕にそっくりだな~♡実は僕の子!?」

その瞬間、ジャラッと鎖の音がする。

「父上!叔父上の冗談ですから!」

楓月の慌てた声が聞こえる。

私は軽くため息を吐きながら、寝室から出た。

「ほらぁ!太陽おじ上が騒ぐから、母上が休めないじゃん!」

麻流が怒ると、首に鎌をかけられた太陽が私を見てばつが悪そうに笑う。

私は空の左耳朶に揺れる金のピアスにそっと触れて空を落ち着かせると、理巧を太陽から受け取った。

そして代わりに馨瑠の着替えを渡す。

「太陽も一緒に遊んでくれてるのね。いつもありがとう。」

微笑みながら、そっと空の手から鎖鎌を受け取る。

首が鎌から解放された太陽は、着替えを胸に抱くと、その場が華やぐ笑顔を浮かべた。

「僕の子どもも同然だからね。」

その言葉に、空が背中の忍刀を一本引き抜こうとする。