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[完結]銀の女王と金の太陽、星の空

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第十八章 儚い夢


色とりどりの花びらが舞い散る中、私と太陽が乗った輿がゆっくりと動き出した。

私たちは沿道の人々から花びらと共に、祝福の声をかけられる。

「空様って、なんて美しいんだ!?」

「この世のものとは思えない美しさをだな…。」

「今まで太陽王子が一番だと思ってたけど、上には上がいたものね。」

老若男女問わず、口々に皆が言っている声が聞こえる。

(…太陽なんだけどね。)

私は手をふりながら、隣の太陽をチラッと見た。

今日の太陽は儀式用の王冠をかぶり、黒いコンタクトレンズを入れ、王家の紋章入りのアルミのマスクで目の下まですっぽりと覆っている。

太陽は大きな丸い目だけれど、空は切れ長なので、メイクでそう見えるようにしていた。

そして髪の毛は王冠の中に入れているので、皆、空だと信じて疑わない。

(似てないと思っていたけれど、こうやって見ると、やっぱり兄弟だったんだな。)

私が見つめていることに気がついた太陽が、私と視線を交わし、微笑んだ。

それを見ていた沿道の人々から、悲鳴にも近い歓声があがる。

パレードは華やかに進み、順調に沿道を進んでいた。

途中で悪阻の吐き気が襲うけれど、その都度こっそりとレモン水を口に含みやり過ごす。

「星一族を警戒して、パレードは城下の郊外までしかできないけれど、また空が戻ったら仕切り直せるよう力を尽くすからね。」

太陽が、小さな声で耳元で囁いてくれた。

そう、あまり城から離れると星一族に襲撃される恐れがあるので、パレードは小規模で行うことになった。

順調に城下町をゆっくりと下り、折り返し地点でもある郊外へさしかかった。

ちょうど町の狭間でもあったので沿道の人数も減り、ホッと一息ついたその時だった。

突然、輿の上に黒装束の男が立った。

私と太陽がその男を認識した時には、私はその男に抱え上げられ、輿から飛び降りるところだった。

「聖華!!」

太陽の声は、既に遠かった。

黒装束の男は私を抱えていながら、人間離れしたスピードで町中を駆け抜けていく。

遠くから追ってくる蹄の音が聞こえるけれど、馬が追い付かないところを見ると、馬と互角の速さで走っていることになる。

私はお腹になるべく震動がこないように、お腹を庇いながら彼にしがみついた。

すると、男は一軒の家に飛び込む。

そして乱暴に私を放り投げた。

私はしたたかに床に体を打ち付け、痛みで呻き声をあげた。

「うっ。」

その瞬間、激しい吐き気がこみあげ、口元をおさえるも間に合わず嘔吐する。

すると、その家には他にも黒装束の男がいたようで、動揺する声が聞こえた。

「乱暴に扱うからだろ!」

「大事な人質なんですから、もっと大事に扱わないと…。」

すると、放り出した男が冷たい視線で私を見下ろした。

「こいつのせいで頭領が腑抜けになっちまったのに。…殺してやりてぇくらいなんだ。」

言いながら、私の服を乱暴に引き裂く。

「…!!」

抵抗する間もなく、服を脱がされ下着姿にされる。

なんとかお腹の子は守ろうと、両腕で抱き締めるように身を縮める私に、男は黒い服を投げつけた。

「さっさと着ろ。」

私は与えられた服を、とりあえず着た。

(これは…忍の装束…。)

着替えると、乱暴に腕を引っ張られて裏口から出る。

「ここからはてめえの足で歩け。」

周りを3人の男に囲まれ、歩かされる。

悪阻で食事をこの数週間摂れていない上、体が熱っぽく怠い私は少し歩くと足がふらついて倒れてしまった。

「ちんたらしてる場合じゃねぇんだよ!甘えんな!とっとと歩きやがれ!!」

私を拐った男が腰を容赦なく蹴ってきた。

その瞬間、お腹に鈍い痛みが走る。

「やめて!」

思わずお腹を庇ってうずくまった私を、また吐き気が襲う。

その様子を見ていた別の男が、私の前に屈んで顔を覗きこんできた。

「なぁ、もしかして孕んでんのか?」

一瞬、答えに迷う。

ここは正直に話すべきか…迷ったその表情から、真実を読み取られてしまった。

「頭領の、子か?」

「はぁ!?」

私を拐った男が、被せ気味に声をあげる。

「おい、ほんとか!?」

うずくまる私の襟首を掴んで、乱暴に体を起こされる。

私は相手の出方をうかがうために、無表情で男の顔をジッと見つめた。

「偽物の頭領を仕立てて婚儀を挙げてたから、妙だとは思ってたんだ。」

私の前に屈んでいる男が、拐った男を見上げて言った瞬間、私のお腹に容赦ない蹴りが入った。

「堕ろせ!今すぐ!!」

お腹を庇う手ごと、蹴られ踏みつけられる。

「…うっ!」

お腹に鋭い痛みが走り、暖かいものがじわっと滲み出た感触がした。

(このままでは、空の子が!)

「ここでお腹の子を殺したら、空はあなた達を殺すわよ!」

私が叫ぶと同時に、それまで傍観していた男が拐った男を止めた。

「この女が頭領にこのことを言ったら、マジで殺されますよ!」

拐った男は私を鋭く睨むと、私の髪の毛を乱暴に掴んで上向かせて、拳骨で左頬を一発殴り付けてきた。

地面にたたきつけられた私は、口の中が切れて血の味が広がる。

すると、再び吐き気に襲われた。

頭がくらくらして、お腹も鋭い痛みが続いていて、もう動くことができない。

地面に倒れたまま肩で息をしていると、拐った男が傍観していた男に吐き捨てるように言った。

「おまえがそいつを抱えて来い。」

傍観していた男は私の前に跪くと、優しい声色で訊ねてきた。

「背負われるのと、横抱きにされるのと、縦に抱えられるの、どれが一番楽ですか?」

私は肩で息をしながら、お腹をぎゅっと抱き締める。

「横抱きが、お腹の子の負担にならないと思うけれど、あなたは大変じゃない?」

私の言葉に、傍観していた男は一瞬目を見開いた後、ふっと笑った。

「…なるほどね。」

そして優しく抱き上げてくれ、歩き出す。

私に負担にならないように、揺れないよう気遣いながら歩いてくれるけれど、一歩歩く度にお腹に鋭い痛みが走り、私の意識はじょじょに薄れていった。



「頭領、何度も言いますけど、あなたが男娼をしなくなったせいで里のみんなは食えなくなってるんですよ。」

拐った男の声が、くぐもって聞こえる。

「おまえたちを専属の忍として雇うと言っているだろう。そうしたら生活の保障が…」

(…空!!)

2ヶ月ぶりに聞く艶やかな低い声に、一気に意識が覚醒する。

(やっぱり生きていた!!)

声を聞けて、この2ヶ月間の不安が一気に解消されると同時に、安堵の涙が心から溢れ出る愛しさと共に頬を濡らした。

けれど、私は目を開けても真っ暗で、どうやら狭い場所に閉じ込められていることに気がつく。

「俺たちはどこの国にも使われない、従わない、だから専属契約は結ばない。それが頭領が作った星一族じゃないんですか?」

私を拐った男の声がする。

「そもそもが、王族になるなんて…背任罪として処刑されても文句言えないことでしょ?」

私を抱えて歩いてくれた男の声もする。