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[完結]銀の女王と金の太陽、星の空

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第十七章 結婚


「ご懐妊!?」

広間に集められた大臣達が、一斉に声をあげた。

「ど…どなたのお子を身籠られたのです!?」

大臣たちが困惑した表情で、太陽と銀河を交互に見る。

私は、大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。

そしてレモン水を口に含んで吐き気をやり過ごす。

「空の、子よ。」

私の言葉に、再び広間がどよめく。

「そのようなご関係にあったとは、聞いておりませんぞ!」

大臣が強張った表情で、立ち上がった。

「空が王族として認められ、王族として馴染むまで待って、皆には話そうと思っていたの。」

宰相が席を立って、私を真っ直ぐに見つめる。

「空様は、生死すら定かでない状態。まだ婚儀も挙げられていないのに、いかがなさるおつもりですか?」

皆の厳しい表情から、お腹の子の立場が非常に危ういものだということがわかる。

けれど、私はなんとしてもこの命は守りたかった。

「星一族は、親征軍を待っている。でも、それは罠だから出すつもりはない。こちらは星一族が空を交渉の場に出さざるを得ないように追い詰めていきたいけれど、なかなかそれもうまくいっていない。お互い膠着状態なのが現在の状況でしょう。」

そこまで言うと、私はレモン水を再び口に含む。

「だから、星一族を動揺させ何かしらのアクションを起こさせるのに、私の妊娠はいい材料になると思うの。」

ざわっと、また皆がざわめく。

「どう出るかわからないけれど、とりあえず、空との関係と懐妊を公表することで、必ず何か動きがあるはずよ。だから…」

そこまで言ったところで、大臣が険しい声色で遮った。

「なりません。未婚でご懐妊というだけでも、王の名に傷をつけているのです。それが最近公表したばかりの王子との婚前交渉の末のご懐妊で、しかもその王子が現在生死不明とあっては、王の名を地に貶めることになりますぞ。」

「まず、急ぎどちらかの王子様とご婚儀を挙げられてください。ご懐妊の公表は、それからです。」

宰相も大臣に続けて、厳しい表情で私を見る。

(どちらかの王子…。)

それは、明らかに太陽と銀河のことだった。

『俺と二人の時は、ひとりの女だけど、俺がいない時は、一国の王でいてよ。』

最後の夜の、空の言葉が蘇る。

『じゃないと、誰かに奪われそうで不安。仕事に行けなくなるからさ。』

(一国の王でいたら、『誰か』と結婚させられちゃうよ!)

心の中で空へ抗議しながら、銀河と太陽を見比べた。

二人共、真っ直ぐに私と視線を交わすと、同時に立ち上がった。

「僕たちのどちらかが空に扮して、婚儀を挙げるのはどう?」

「遠目なら、わからないだろう?」

二人とも同じことを考えていたようで、息の合った意見を述べる。

その二人の王子の様子に、その場にいた全員が驚く。

そこにたたみかけるように、二人は言葉を続ける。

「おまえたちは知らなかっただろうが、我々家族と女王付の女官達は、空と女王がどれだけお互いを欠かせない存在として大事に想い合い、愛を育んでいたか知っている。」

「空は生きていて、必ず戻ってくる。それなのに僕たちが聖華と結婚していたら、空の帰る場所がなくなってしまう。」

シンと静まり返った時、将軍が立ち上がった。

「今、捕らわれている空の耳に、今回の懐妊の話が届いたら、きっと生きる気力にも繋がり、なんとしても脱出しようと再び力を得るかもしれない。だから、二人の言う通り、どちらかの王子に空の姿をさせ、婚儀を挙げるということで良いのではないか。」

将軍親子の必死の訴えに、大臣が大きなため息をついた。

けれど、その表情は柔らかい。

「そうですな。それがいいかもしれませんな。」

言いながら、宰相を見る。

宰相も、先程とはうってかわってその表情を和らげていた。

「では、どちらの王子様が代役を?」

いたずらっぽく笑う宰相に、太陽と銀河は顔を見合わせて、同時に咳払いをした。

二人とも、耳を赤くしている。

「それは…やはり太陽だろう。」

ハスキーな声で、銀河が呟く。

「私には、たとえマスクで顔を隠したとしても…遠目だとしても、空の美しさを表現することはできない。」

すると、近衛隊長が立ち上がって私を見た。

「お待ちください。…勝手に話が進んでいるようですが、女王様はそれで良いのですか?」

突然話をふられた私は、飲んでいたおかわりのレモン水を置いて微笑んだ。

「皆がそれで、私と空を赦してくれるなら。」

言いながらお腹に手を当てると、その場にいた全員が私のお腹に目を向けた。

その表情は、空のためにも授かった小さな命を守ってやりたいと、そう決意してくれているように感じた。

「…年齢と体格から考えても、太陽王子が空様に近いと思いますので、代役は太陽様ということで良いですかな?」

大臣の言葉に、皆が拍手で答える。

「では、日取りはひと月以内で調整しましょう。」

宰相の言葉で、婚儀が決定となった。