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④銀の女王と金の太陽、星の空

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第十三章 三兄弟


「隠し子ですか?」

大臣のひとりが声をあげる。

(か…隠し子!?)

思いがけない言葉に戸惑うけれど、よくよく考えてみれば、そういうことになるのかもしれない。

「母親は…まぁすぐにわかりますな。」

大広間に集った大臣や隊長が顔を見合わせて声を揃える。

「『あの』蓮…。」

空の顔を皆が見つめる。

「…本当にそっくりだな…。」

一様に皆がうっとりとつぶやく。

空は、居心地が悪そうに私を見た。

「しかし、こうも真っ黒な髪で黒い瞳となると、本当に将軍の子かわかりませんぞ。」

「うむ。王族の銀髪か碧眼か、どちらかをひいていないとすると、蓮の職業もあれですし…本当に将軍の子かどうか…。」

次々に疑惑の声があがり、近衛隊長が空へ視線を送った。

「なにか、証拠はあるのですか?」

私は空を見ると、作っておいた豪奢なマスクを渡す。

王族の紋が入ったそのアルミ製のマスクに、空が目を見開く。

「つけて。」

私が言うと、空は戸惑いながらも小さく頷いて、それをつけた。

「そのマスクは何ですか?」

「まだ王族と我々は認めていないのに、そのような物を渡すとは…。」

色んな声が上がる中、太陽が立ち上がった。

「静まれ。今から女王様が説明をされる。」

太陽が澄んだ声で制すると、一瞬で静まり返る。

私はそこにいる全員ひとりひとりとしっかり目を合わせた後、いつもより少し低い声を出した。

「空は、実は言霊を操ることができる能力を持っているの。」

色術のことは、言わない。

言霊の能力とすることを、昨夜、5人で話し合って決めた。

一瞬、場がざわついたけれど、私が再び皆を見つめると静かになった。

「顔を見せるためにマスクをしていなかったけれど、その言霊の力をおさえるために今、マスクをさせたから、これからは本人が説明するわ。」

そして空を見ると、空が頷いて皆へ向き直る。

「母は、自らの職業のこともあり、将軍に迷惑をかけたくないという思いから、私を密かに産んで育てました。」

マスク越しの少しくぐもった低音が、大広間に響く。

「生まれた私が黒い瞳で、母はホッとしたそうです。でも、成長してくると、その髪は…黒混じりの銀髪でした。だから」

空がそこで言葉を切る。

皆は空をジッと見つめて、次の言葉を待つ。

「幼い頃より、髪を黒く染めています。」

私は空の髪の毛を一本抜くとその根本が銀色であることを確認し、銀河へ渡す。

すると銀河が顕微鏡にそれをセットする。

「染めている証拠、地毛が銀髪の証拠を見たい者はこちらへ。」

銀河の呼び掛けに、ぞろぞろと皆が席を立つ。

「おお、まことじゃ。」

「たしかに、染めておるな。境界線がはっきりしておる。黒い部分も透き通っておるな。」

ざわざわと皆が騒ぐ中、私は更に呼び掛けた。

「そして空の睫毛も、鉛色をしているの。完全な銀色ではないけれど、黒い瞳の者が普通こうはならないと思うわ。」

すると、大臣たちが空の顔を至近距離で覗きこんで確認しようとする。

空は慌てて目を閉じた。

「うん。女王様のおっしゃる通りだ。」

「いや、それにしても恐ろしいほどの美貌ですな。」

「このような距離で見つめると、男なのに心を奪われそうになりますね。」

口々に感想を述べ始めるけれど、先程までの不穏な空気はもうない。

そして皆が充分に納得したところで、将軍が立ち上がる。

「空を、私の王子として認めてもらえるかな。」

その瞬間、皆が一斉に立ち上がり、拍手をする。

(良かった!)

これで空の身分は保証された。

まずはこれが第一段階。

いずれは夫君として認めてもらうために、必要な第一歩だった。

「しかし、そうなるとお名前を考えねばなりませんな。王族は二文字にせねば…。」

「それに、太陽王子の順位が変わりますね。」

(そう、問題はそこ。)

「僕は、第2王子だろうと第3王子だろうと、構わない。」

太陽は皆をぐるっと見回すと、その湖のように澄んだ碧眼を空へ向けた。

「空は間違いなく、僕の兄なので、第2王子に就くのは当然だと思う。それに」

空へ向けた碧眼を、今度は大臣達へ遷す。

「空の名前は、確かに平民の一文字だけれど、これは亡き母上が想いを込めてつけた名前なんだ。だから、変える必要はないだろう。」

太陽の言葉に、皆がざわめく。

「蓮は亡くなったのか。」

「確かに名付けは親の思いがこもっている。容易く変えて良いのか?」

「将軍様だって、親だ。将軍様が名付けられたらどうか。」

「読みは変えずに表記だけを二文字に変えたらいいのでは?」

色んな意見がとびかう。

どれもがもっともで、でも納得いかないものでもあった。

「空王子は、いかがされたいですか?」

突然話をふられ、しかも王子と呼ばれたことに、空は戸惑いを隠せない。

(なんだか場なれていない姿が、可愛くみえる。)

今までは落ち着いた堂々とした姿しか見たことがなかったので、その姿がとっても新鮮で愛おしかった。

空は軽く深呼吸をすると、皆を見据えてゆっくりと口を開いた。

こういうふうに、すぐに落ち着くところは、やはり頭領をして一族を率いているだけのことはある。

感心しながらも、可愛い姿でなくなったことが、残念だった。

「もし、許されるのなら…。」

空の言葉を、皆が息をのんで待つ。

空は私を見つめると、少し切なげにその黒水晶の瞳を細めた。

「このままでいさせてほしい。」

(…空…。)

(そうだよね。お母様との思い出はほとんどなく、遺品も残っていない。この名前だけが、唯一のお母様との絆だもんね。)

私はゆっくりと頷くと、皆をぐるりと見回した。

「異例ではあるけれど、私は一文字の王族がいても良いと思う。王族のみが二文字を名乗れるけれど、王族が一文字ではいけない、なんて決まり、ないでしょ。」

私の言葉に、宰相が頷く。

「たしかに…。」

その同意を力に、言葉を続けた。

「いずれにしても、こんな形で王族に加わるのでさえ前代未聞なんだから、名前が一文字でもいいんじゃないかと私は思う。前例が、とか、伝統が、とかいろんな意見があるのはわかる。けれど、いつだって時代は前代未聞なことから進化しているもの。」

一気にそこまで言うと、皆はシンと静まり返った。

しばらく静まり返った後、宰相が手を挙げる。

「今、ここですぐに答えを出すことは難しいと思います。また、名前については日を改めて。」

銀河が私を見る。

私が頷くと、銀河が場をまとめた。

「では、本日はこれまで。」


場が散会となると、太陽が空の肩を叩く。

「このあとなんか予定ある?」

空が首を傾げると、太陽がいたずらっぽく笑う。

「手合わせ、してくれない?」

空はふっと黒水晶の瞳を和らげると、ゆっくりとその瞳を三日月に細めた。

「泣くなよ?」

挑戦的なその言葉に、太陽は一瞬キョトンとした後、空の肩をげんこつで殴った。

「泣かないよ!」

そのまま二人で肩を並べて、笑いながら廊下を歩いていく。

「聖華はどうするんだ?」

二人の背中を見送っていると、銀河が声をかけてきた。