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③銀の女王と金の太陽、星の空

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第十二章 処刑



謁見を手早く済ませ、私は地下牢へ向かった。

将軍と銀河、太陽を伴って地下牢へ降りると、空が入り口で待っていた。

その姿を見た瞬間、まだ体の芯に残る空の余韻が甘く疼き、心のなかに愛しさが一気に広がる。

けれど空は口元を黒い布で覆っていて、冷ややかにこちらを見つめている。

背筋が震えるほど殺気が漂っていて、とてつもなく冷酷な雰囲気だ。

(機嫌が…悪い?)

私が空を見つめると、空は一瞥してすぐに目をそらした。

(やっぱり機嫌が悪い…。なぜ?)

「昨日、我々は別れを済ませたはずなんだが…なぜ今日再び?」

将軍が私に声をかけてきた。

私は銀河をちらりと見る。

銀河は小さく頷くと、将軍へ向き直ってハスキーな声で短く答えた。

「蓮に関わることが出てきたからです。」

『蓮』という言葉に、将軍は目を大きく見開いた。

「見つかったのか!?いったいどこに!!」

将軍は鬼気迫る表情で、銀河の肩をつかむ。

銀河はそれには答えずに、空を見上げた。

空は銀河を斜めに一瞥すると、将軍を見下ろした。

「母は、亡くなった。」

将軍が驚いた様子で、空を見上げた。

「母?」

空はゆっくりと頷く。

「俺の母の名は『蓮』だ。」

将軍は大きく口と目を見開いて、空を見上げる。

「…まさか…ち、父親は…。」

空は数秒、何の感情も感じられない目付きで将軍を見つめた後、小さく頷いた。

その瞬間、将軍の表情が輝く。

そんな将軍を冷ややかに見ながら、空は抑揚のない言葉を紡いだ。

「母は、大河王子の…あなたの子どもを宿したと自覚した時、あなたの前から姿を消したと言っていた。里に戻った母は、里の者にも父親の名を隠し、娼婦の任務で身籠った言って、どこの誰の子ともわからない子どもとして俺を出産したそうだ。」

太陽は、空と父親を何度も見比べている。

「里の者に、王族の…将軍の子どもを身籠ったことを知られたら、道具にされると思ったから…お前と私を守るために隠したと言うのか?」

将軍の言葉に、空は小さく頷く。

「母は、妊娠と同時に娼婦をやめた。俺を育てながら娼婦をしたくない、と必死で仲間に理解を求めて…。母は里の頭領だったし、上忍としてもトップクラスの実力の持ち主だったので、里の者も文句を言えず、母は娼婦をやめることができたんだ。ところが」

ここまで一気に言うと、空は大きく息をつき、気持ちを鎮めるように天井を仰ぐ。

「俺の…せいで、母は…。」

生まれもった色術の力で母を狂わせてしまったことが、空の心に大きな傷を残している。

いたたまれなくなった私は、空の手をぎゅっと握りしめて、彼を見上げた。

「空のせいじゃない。」

その瞬間、空は私の手を乱暴にふり払った。

「触るな!」

殺気が一気に爆発する。

私はその殺気に弾き飛ばされるように、地下牢の壁に体をしたたかに打ち付けた。

「聖華!」

太陽と銀河が私に駆け寄り、空を同時に睨みあげる。

空は大きく目を見開き、焦った様子で私へ手を伸ばしたけれど、その手をぐっと握りしめて、顔を逸らした。

「貴様!!」

ハスキーな唸り声が地下牢の壁に反響する。

珍しく銀河が荒々しく空の胸ぐらを掴んだ。

私は慌てて銀河と空の間に割り込む。

「待って、銀河!私が今のは大袈裟によろけただけだから!!ね?空も!」

私が空を見上げると、空は私をちらりと見て目を伏せた。

「…悪い…、その香りに…ついイラついて…。」

小さく呟かれた言葉に、私はハッとした。

そういえば、空は今朝、『太陽と同じ香りにいつもイラついていた』と言っていた。

(さっき、カモミールティーを3人で飲んできたから…。)

「空…。」

もしかしたら、やきもちをやいてくれているのかもしれないと思うと、心の中がじんわりと暖かくなり、再び空の余韻が甘く疼いた。

「…あとは、私が説明するから。」

頬が熱くなるのを感じながら、私は空の横に立ち、将軍へ向き直った。

銀河は、私と空から顔を逸らす。

空はなんとか冷静さを保とうとしているのか、壁にもたれかかって目を閉じた。

私はそんな空の腕をゆっくりとさすってなだめながら、昨日空から聞いた話を皆にした。

そして、蓮が空を認識できなくなったところまで話した時、空は壁から身を起こした。

「どうやら涼が一時期、母を頼って里に住んでいたようだ。」

意外な言葉に、太陽と将軍が目を見開く。

「…えっ?」

喉が詰まったようなかすれた声で、太陽が将軍を見た。

将軍はためらいながら、すぐそこにいる涼を気遣うように小さな声で呟いた。

「涼は…夫人になった後も私の愛妾と常に蔑まれていて、ある日、心ない者たちによって汚されてしまったんだ。」

(それで一時期、姿を消したんだ…。)

涼は私と太陽が5歳の時に、半年ほど行方不明になった。

こうして考えてみれば、私と太陽と空の3人には『5歳』という共通点が見えてきた。

空が母親と引き離されたのが5歳、太陽も涼がいなくなったのが5歳、私の父が亡くなったのも5歳…。

「涼は、王族の遠縁の者たちに凌辱されたそうで、王族への憎しみがとにかく凄まじかった。その憎しみが落ち着くかも、ということで母が里にしばらく置いたようだ。」

将軍は頭を抱え込み、大きなため息をついた。

「涼は、蓮の居場所を知っていのか…。」

空はそんな将軍を無感情な目付きで見下ろすと、私を見つめた。

「でも、涼の憎しみはおさまらなかった…。そんな中、母はどんどん壊れていき、いつしか名ばかりの頭領となった。頼れる者がいなくなった涼は、城へ戻った。その後、身を隠した事情を知っていた将軍が、すぐに涼に城下に家を与えただろう。」

そう、だから子どもの頃、太陽は毎日その城下から城へ通って鍛練に励んでいた。

「城から離れたけれど夫人として色んな情報を見聞きする涼は、里にとっては最高の情報源だった。影武者が涼に接触し、国家の機密情報を手に入れる取引の中で多数の契約が交わされたようだ。」

王族殺しどころか、国家転覆も招きかねないことを母親がしていたと知った太陽が、蒼白な顔で空をジッと見つめている。

そんな太陽の肩を、銀河がそっと抱く。

「そういうやりとりで、あの毒薬も手に入れたのか。」

銀河の呟きに、空が小さく頷いた。

「そして、ある日とうとう涼は聖華の父王を毒殺し、母王、兄王と手にかけていったんだ。そして2年前、影武者の頭領は、涼から手に入れた情報をもとに反乱を起こした…。」

空は、太陽を静かに見下ろす。

「ただ彼らが誤算だったのは、太陽王子を侮っていたこと。」

そのまま、ジッと太陽を見つめる。

「俺は、太陽王子の実力を知っていたけれど、里へ報告しなかった。…俺の母を踏みにじり、俺を男娼に堕とした影武者の頭領達を、太陽王子が一掃してくれることを期待したからだ。」

言いながら、切れ長の黒水晶の瞳を切なく細める。