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③銀の女王と金の太陽、星の空

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第九章 空の真実



(空が…王族!?)

銀河の衝撃的な言葉に、私は空と銀河を何度も見比べる。

空は無表情のまま銀河を見下ろしていたけれど、突然肩を揺すった。

「くっ…。」

喉の奥で笑ったかと思うと、お腹を抱えて笑い始める。

「っく…はははははっ。」

声をあげて笑う空を初めて見たけれど、それは楽しくて笑っているわけでないということは明白だった。

「俺が、王族なわけ、ないでしょ!」

笑いながら、私を見る。

「ねえ?女王もそう思うでしょ?」

いつも通りの飄々とした口調だけれど、その瞳はすがるような何かをねじまげようとしているような色をしていた。

私はその黒水晶の瞳を見つめた後、そっと空の手を握った。

「正直驚いているけれど…そうであったらいいな、と私は思ってる。」

まっすぐに黒水晶の瞳を覗きこんで言うと、空はスッと笑いをおさめた。

なにも言わず、感情の読めない表情で私をジッと見つめる。

数秒見つめあったあと、空はふいと目をそらし、私の手をはらった。

「…そろそろ戻ろう。」

そして足音を立てずに、地下牢へ戻る。

銀河は私の横に立つと、耳元で囁いてきた。

「鎌をかけたんだが、意外にいい反応をしたな。案外真実かもしれんぞ。」

そしてその三白眼の碧眼で私を見つめると、ニヤッと笑う。

「もし本当に王族なら、身分が釣り合うぞ、聖華。」

そして私の前を歩き始める。

「調べてみる価値はありそうだ。」

(空が王族の血をひいていたら…。)

そこまで考えて、私は首をふった。

(たとえ王族だったとしても、無理だわ。それで注目をされて男娼をしていることが国中に知れたら)

ひとつ息をつく。

(空を、これ以上傷つけたくない。)

「銀河。」

私は銀河の背中に声をかけた。

銀河がゆっくりとふり返る。

「そっとしておいてあげよう。」

銀河が驚いた顔で、私に向き直る。

「そもそも空は望んでないと思う。別に…空は私の事を好きな訳じゃないのに。そんな私の一方的な、勝手な想いで、探られたくないことを掘り返して、空を傷つけたくない。」

すると銀河は思案顔をした後、私をまっすぐに見つめた。

「空を助けることになるかもしれんのだぞ。」

(…え?)

私が小首をかしげると、銀河は真剣な面持ちで口を開いた。

「誰だって好き好んで男娼なんてしてないだろ。それに男娼はともかく、忍だって人殺し稼業だ。そんな生活、嫌だろ、誰でも。でも王族とわかれば、その泥沼から足を洗えるじゃないか。」

「でも!…でも、太陽みたいに蔑まれるかも…。太陽は『母親は平民の女官』というだけでも『妾腹』ってあれだけ蔑まれたのに、空は『男娼』と『娼婦の母』だから…想像しただけで恐ろしい…。」

私は銀河をみつめると、ゆるく首をふった。

「今の生活も大変かもしれないけど、少なくとも空は実力を認められているんだし、仕事を選べるまでになってるんだから幸せかもよ。きっと…王族になるよりは…。」

銀河は三白眼の碧眼を、すっと細めた。

「まぁ、今までの話はあくまで我々の一方的な考えだ。」

言いながら、銀河は私の肩をそっと抱く。

「とりあえず調べてみて、事実を我々の間だけで明らかにしてみよう。あとはあいつとの、これからの関わり方で決まるだろう。」

私は迷いながら、小さく頷いた。

(たしかに、『空の幸せ』なんて考えても、わかるわけない。そんなことを考えること自体、空にとって余計なお世話だよね。)


地下牢に戻ると、空と将軍と太陽と涼が待っていた。

涼は私を見ると、顔をそらす。

「涼。」

私が呼び掛けても、唇を噛んだまま横を向いている。

「正直に今話してくれたら、拷問はしないわ。」

言いながら、涼へ一歩踏み出す。

「我々は、席を外します。」

私の後ろで、将軍の声がする。

ふりむくと将軍と太陽が深々と頭を下げていた。

「もう別れは済ませました。あとはいかようにもなさってください。」

「僕らがいると、聖華もやりにくいだろうから…僕らを気にせず、王としての務めを果たしてくれ。」

(そうか…最終的には私が処刑するとさっき言ったから…。)

私は二人を見つめて、ゆっくりと頷いた。

「わかった。」

「剣は全てこのまま預からせてもらう。」

私の声にかぶせるように、空が言った。

「あと、監視に部下をつける。」

空の声とともに、先ほど使者として現れた忍が再び現れ跪く。

(…そうか、二人で自害をするかもしれないから…。)

空の優しさを改めて知って、胸が小さく鳴った。

(これはやはり、今まで辛い目にたくさん遭ってきたからなんだろうか…。)

私が想像できないくらい、壮絶な人生を空は送ってきたのかもしれない。

だから、多面的に物事をとらえられ、気を配れるんだろうか。

将軍と太陽は少し微笑むと、頷いた。

「我々の責任から逃げはしないから、安心してほしい。」

そして使者の忍と共に、地下牢を去って行った。

私は再び涼に向き直る。

「もう、証拠も出ている。自白がなくてもこの物証だけで処刑できるけれど、私はあなたの言い分を聞きたい。」

すると涼が斜めに私を見る。

私は涼を見つめて、静かに訊ねた。

「次の標的は、銀河だった?」

銀河が私をふり返る。

「…そうか…そうだよな。」

口元を手でおさえながら、視線をさ迷わせる。

涼はそんな銀河を冷ややかに見つめると、嘲笑した。

「夫君候補以前に、今までの数々の無礼を鑑みても、次の標的は自分だと考えたことなかったんですか?」

そして私をまっすぐに涼は見つめた。

「私は、あなたを本当の娘だと思って、大事に育ててきた。」

(たしかに、涼の愛情は実の母と同じくらい深く感じていた。)

「性格も頭も良く、王としての資質も産まれもったあなたに、太陽を任せたかった。」

空が、おもむろに口元の黒い布を押し下げた。

端整な顔立ちがあらわになる。

「私の命より大事な太陽を、あなたに捧げたかった。」

涼の大きな碧眼が潤み、色香が匂いたつ。

「あなたは私が育てたのだし…親は、私だけいればいいでしょ?」

その瞬間、空が涼の長い金の巻き毛を乱暴に掴み、荒々しく引っ張る。

「おまえは乳を与えただけだろ。親じゃねーよ。」

言いながら、白い首に鎖鎌を当てる。

「おまえのその独善的な思想で、女王だけでなく、おまえの『命より大事な太陽』までも苦しめてんだよ。」

涼は目を見開いて、空を見上げる。

その空は、背筋が凍りつくほどの殺気を放ちながら涼の首筋に鎖鎌を食い込ませる。

「太陽、死ぬかもしんねーぞ、この後。」

涼はガタガタと体を震わせながら、声を絞り出す。

「た…たすけて…太陽を…あな…たの弟…なんだから…。」

私と銀河は思わず顔を見合わせる。

空も大きく目を見開いて、涼を見下ろす。

「あな…た、蓮(れん)の…息子で…しょ?」

その瞬間、空が鎖鎌を横にひこうとしたので、私はその腕に抱きついて必死で止めた。

「待って、空!!!」

止めたものの少し切れたようで、涼の首筋から赤い血が滴り落ちる。

「涼を離しなさい、空!命令なく処刑は許さないわ!」