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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ

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(第七章)ブルーラグーンの資格(5)-久しぶりの隠れ家①



 近隣某大国の政情不安を受けてにわかに忙しくなった直轄チームでは、休暇を切り上げて職場に顔を出していた班長の松永が、机に突っ伏したままの1等空尉を怒鳴りつけていた。
「終わったことをいつまでもぐだぐだ言ってんじゃない。とっとと頭切り替えて、次のミッションに集中しろ。それが出来んようじゃ、CS(空自の指揮幕僚課程)出ても、いい指揮官にはなれんぞ」
「……僕がCS入る見込みなんて、絶対ないっすから……」
 指揮幕僚課程の選抜二次試験を終えて「直轄ジマ」に戻ってきた片桐は、松永のほうを見ようともせず、盛大なため息をついた。
 二次で行われる口述試験は、複数の面接官が一人の受験者に集中砲火を浴びせる、いわゆる圧迫面接のスタイルを取る。いきなり命題を与えられ、短時間で精一杯にまとめた考えを述べ始めると、それらを片っ端から否定され、意表を突く質問で追及される。受験者を心理的に追い込みながら、とっさの対応力や判断力を見るのが目的だが、初回受験者の大半は面食らって帰る羽目になるらしい。

「ああ、もう帰りたい」
「出てきて早々、何言ってやがる。余計なこと考えてないで、取りあえず働けっ。お前が留守の間、佐伯と鈴置がお前の仕事をカバーしてたんだぞ。某大国関連で次から次に調整案件は増えるし、愚痴ってる暇なんかないんだからな!」
 松永の容赦ない言葉に、ようやく身体を起こした片桐は、先任の佐伯と美紗に「すいませんでした」としょぼくれた顔で詫びた。美紗は、気休めの言葉も思い浮かばず、困った顔で会釈だけを返した。不運なことに、「直轄ジマ」のムードメーカーである宮崎と小坂は、朝から会議の連続でほとんど席にいなかった。
「日垣1佐に何て言われるかと思うと、もう恐ろしくて……」
 片桐は、今にも泣き出しそうな顔で、ドアが閉まったままの第1部長室をちらりと見やると、また机に突っ伏した。

 当の日垣は、試験の不出来を嘆く若い部下に声をかける時間もないほど忙しそうだった。某大国の事案絡みで、宮崎や小坂を連れてどこかに出ていることが多く、たまに第1部の個室にいる時も、地域担当部の幹部と頻繁に会合してばかりだった。美紗を含む直轄チームの面々も連日夜遅くまで残業していたが、第1部長が彼らより早く帰宅する日はほとんどなかった。