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ねとげ~たいむ・エキスパート!!

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クエスト1,新ランクへの挑戦



 9月も後半に移っても暑さは無くならず、ハンカチで汗を拭いながら学校に通っていた。
 でも学校から帰れば私は一旦自室に向かってクーラーを着けると着替えを持って浴室に向かい、シャワーを浴びて着替えを済ませると制服を持って冷気の集まった部屋に戻ってくる。
 そして宿題を手っ取り早く終わらせると夕飯の支度があるまでパソコンのスイッチを着けた。

 私は今年の春から巷で大人気の『オンライン・キングダム』と言うゲームをプレイしていた。
 日本屈指のソフト会社『CLOUD』が立ち上げたオンライン・ゲームで、ブランドの名前もあってか配信から僅か1月でプレイヤーが100万を超えていた。

 この中では私は『コロナ』と言う名前で活動していた。
 赤に腰まであるツインテール、関節部分に赤いフレームの入った白銀に輝く甲冑と籠手と具足、そして背中には長くて赤いマントを羽織った姿で冒険していた。
 そして今月の初めに初心者が向けのビギナー・ランクを終了し、上級者向けのエキスパート・ランクへ進む事が出来た。
 それと同時に私は転職し、今では戦士から騎士になった。
 それから2週間後の事だった。

 バーニング・ボアを倒した私達は拠点としているパラディス王国へ戻って来た。
 このパラディス王国は海岸沿いに位置する湾岸国家の為に海洋貿易が盛んで、さらには鉱石などの資源が豊富だった。
 でも屈強なモンスターが人々の生活を脅かし、さらには採掘場や森の中に巣を作る為にそれらを撃退、依頼された物資や資源をハント、さらに未発見の洞窟や古代遺跡の調査しして回るのも私達の仕事だった。

 街の中央にそびえ立つパラディス城、その一階部分は冒険者の為に用意されていた。
 街の人々からの依頼(クエスト)を受けたり戦闘に必要なスキルを買うクエスト受注所、さらにプレイヤー同士が話し合う酒屋型チャット掲示板プレイヤーズ・バー、そして転職時に使用できる転職所等があった。
 さらにニ階へ続く階段があるけど、普段は滅多な事では使えなかった。

 私達はプレイヤーズ・バーへとやって来た。
 酒屋をモデルにしていると言うだけあってどこかの居酒屋みたいな作りになっていた。
 木製の四角い長方形のテーブルに4つの背もたれの着いた椅子が設置され、私達は2対2に分かれてその上に座った。
 するとテーブルの上に…… 恐らくは発泡酒だろう、それが入ったジョッキと唐揚げや魚の丸焼きやサラダなどが現れた。
 私ともう1人の子は未成年だけど、ここはゲームの世界なので年齢は関係無い…… って言うか私達自身が飲酒してる訳じゃないから大丈夫だろう、そう思いながらジョッキに口を着けた。
 すると私の右隣りの子が大きく背伸びをしながら言った。
「調子出て来たね、このままガンガン進もう!」
 ため息を零すその子に私は苦笑する。
 この子は拳士エミル、元々は武闘家だったのだけど、今じゃ格闘士に昇格した。
 エミルはこの中じゃ最年少、今年から地元千葉の中学に入ったばかりの中学生で、暴走しがちだけど元気いっぱいの女の子だった。
 ただアバターは私と同じくらいに作られている。
 年齢は16歳前後、茶色のショートヘア、緑のシャツの上から白い半袖でお腹部分までしか無い上着を羽織り、さらにその上から縁取りのショルダー付きの胸当て、両腕には指先が抜けて手の甲から肘までかけて無数の鉄板を打ち付けて作ったガンレット、膝の丈まである黒いスパッツの上から白いスカート、さらにその上から両脇に胸当てと同じ色の金属で作られた腰当てをベルトで固定し、膝を覆う様に丸く加工された鉄製のブーツと言う井出達だった。
 エミルが選んだジョブは防御力は大して無いに等しい、でも攻撃力と瞬発力にかけては軍を抜いていて、特攻に優れて多数の技でモンスターを倒してくれている…… エミルは今じゃ私達のパーティで無くてはならない貴重なアタッカーになった。
 ちなみにエミルがどうしてこのジョブを選んだかと言うと、エミル本人が大の特撮好きと言う理由だった。
 するとエミルの真正面、私の右斜め前に座っている子が言って来た。
「明日も平日なんだから程ほどにしときなさいよ…… 早いんでしょう?」
 彼女は頬杖を突きながら言う。
 彼女は神官レミ、元々は僧侶だったのだけど、今じゃ神官に昇格した。
 レミはこの中で最年長の大学生で(いくつか分からないけどお酒は飲めるらしい)で、怒ると恐いなんてモンじゃないけど、本当は凄く優しくて皆を支えてくれるリーダー的存在だった。
 金色のウェーブのかかった腰まである髪の頭には左右に翼を模した飾りが取り付けられた金色の十字架が描かれた真正面から見ると五角形のミトラ帽、首から下は足首まである白いワンピースの様な服の上から金のラインが二重に刺繍された白いローブ、さらにその上から胸の中央に青い小さな水晶が取り付けられた止め金で固定された金のラインの肩かけを羽織り、両足には黒い靴を履いていた。
 レミのジョブは素早さがやや低いだけで攻撃防御供に平均的、攻撃魔法が殆ど無いのが難点だけど代わりに体力の回復は勿論、毒や麻痺などのステータス異常を治す回復魔法、そして味方の攻防速等を強化する補助魔法や敵のステータスを下げる異常魔法で私達を助けてくれる大切なヒーラーだ。
 でも今ここはチャット・サイトとは言え酒場、しかも神官の彼女がお酒を飲む姿に矛盾の二文字が浮かんだ。
 するとエミルが頬を膨らませながら言い返した。
「ちょっとくらい良いじゃん、レミは叔母さんだからすぐ疲れんのよ」
「んコラァ、いてまうどワレェっ!」
 穏やかだったレミは両手でテーブルをバンッ! と叩きつけ立ち上がった。
 そしてさっきまで穏やかだった顔がまるで鬼や悪魔の様な顔になってエミルを見下ろした。
「「ひぃぃっ!」」
 勿論反対側にいる私もレミの顔を見てしまう、正直モンスターよりレミの方が恐かった。しかも大阪出身だけあって怒ると大阪弁に戻るから迫力がある……
 私とエミルは怯えて震えだすと両手を伸ばして互いに抱きしめあった。
 毎度毎度学習しない…… エミルはいつもこうやって一言多い上に地雷を踏んでレミを怒らせていた。ってか何で私まで?
 そんな事を考えていると今まで黙っていたレミの右、私の真正面の子が口を開いた。
「レミ、古人曰く『大人は大耳(たいじんはおおみみ)』、一々気にしない」
 表情1つ変えずに格言で返した。
 彼女は魔術師センリ、元々は魔道士だったけど、今じゃ魔術師に昇格した。
 センリもレミ同様の大学生(お酒は飲めるらしい)で、東京の大学に進学する為に京都から上京して来たと言う、決して無口って訳じゃ無いけど自分から話して来る事はあまり無い…… でもこのパーティの中じゃ1番頭の回転が早いブレイン役を務めている。