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ユニフォームの王子さま

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ウソつき王子


 俺が野球部に入部してすぐ、いつも練習を見ているひとりの女子生徒に気がついた。そいつは、同じクラスの木下だった。高校野球の熱狂的なファンか、それとも俺を見ていたりして……
 ところが、その視線がいつも注がれている先にいるのは、竜崎先輩であるとわかった。その先輩はE高のダルビッシュと呼ばれる超イケメン。
(な~んだ、あいつただのミーハーかよ、野球に興味がないなら練習なんか見るな!)
 先輩に熱い視線を浴びせているあいつを見ると、つい心の中で砂を蹴ってしまう。
 そして、三年の引退試合となったあの日、木下が先輩に花束を渡す姿を見た。
(あの先輩がお前なんか相手にするわけないだろ、ばーか! そうだ、ちょっとからかってやろう)
 あいつを怒らせるのはいとも簡単なことだった。
 
 
 三年生が引退すると、木下はパタッと練習を見に来なくなった。あんなに毎日来ていたあいつの姿がない。
(別にどうってことはないさ……)
 俺は何とも思わない。そう、何とも思わない……
 しかし、大会だけには毎試合必ずやってきた。後輩の試合を見に来る竜崎先輩目当てであることは容易に見当がついた。
 
 そして、俺の引退試合の日、あいつは無謀にも俺をからかうという愚行に出た。もちろん、あいつなんかに負けはしない。この三年間の複雑な思いもこめて俺は反撃に出た。そして、怒りからとは言え、あいつに真剣に追いかけ回されるというなんとも言えない快感を得ることに成功した。
 
 
 
 やがて、俺たちは卒業し、それぞれ別の大学に進んだ。
 夏になり、OBとして母校の試合を見に来た俺は、久しぶりにあいつを見かけ、ハッとした。
 メイクをし、流行の服をまとったあいつは見事に大人の女性に変身していたのだ。見惚れてしまうほどきれいになったあいつの視線の先には、やはり母校の試合を観戦に来ていた竜崎先輩の姿があった。
(あいつ、まだあの先輩を追いかけているのか……)
 俺は、初めて嫉妬を感じた。いや、昔から抱いていたことを素直に認められるようになったというのが正しいだろう。竜崎先輩ではなく、俺の練習を見てくれたら……俺はいつもそう思っていたのだ。
 母校は勝利し、次も試合がある。あいつはきっとまたやって来る。俺は、その日からあいつのことが頭から離れなくなった。
 
 
 そして、いよいよ次の試合当日。俺は早く来て、球場前であいつを待った。そして、思った通りやってきたあいつに、偶然を装い声をかけた。
「よ、久しぶり! 元気そうだな」
「あら、健太くん、変わらないわね」
(おまえは変わったな……)
 もう、俺の知ってるあいつではなかった。真っ赤な顔で俺を追いかけ回した女の子の姿はどこにもない。まるでさなぎが蝶に、あひるが白鳥に、ん?このたとえはおかしいか、とにかく美しいお姫さまとなって俺の前に現れたのだ。からかうことなど許されないその空気が俺には寂しく感じられた。あの頃のようにバカを言っても相手にされないだろう。身近な女の子だったあいつが俺から遠ざかっていく……
 並んで観戦していた試合中も、あいつはなにげなく辺りを見回し、先輩を探しているのがわかった。以前の俺なら、
「お前の大好きな先輩なら、さっきすっげえ美人といっしょだったぜ」
 そんな意地悪なウソをつくところだが、今、隣いるお姫さまにそんな無礼は働けない。
(そうだ、こうなったら、男らしく仲を取り持ってやろう!)
 俺はそう決心した。
 ちょうどその時試合が終わった。母校は負け、もう次はない。
「木下、竜崎先輩を探そうぜ」
 俺がそう言うと、木下は驚いた表情の後に、ほんのり頬を染めた。
(かわいい……)
 俺はそんな自分の感情にふたをして言った。
「紹介してやるよ。現役の時は先輩だけど、今はお互いOB同士だからな」
 あいつは、うれしそうにうなずいた。
 
 しばらくふたりで球場周りを探し回った。そして、やっとその姿をずっと先ではあるが捕えることができた。
「せんぱ~い! 竜崎さ~ん!」
 俺は、人波を縫ってその後を追った。俺の後ろを木下が走ってくる気配がする。怒っていないあいつに後を追われるのは初めてのことだった。ようやく先輩に追いついた俺は、息を切らしながら挨拶した。
「お、お久しぶりです」
「おう、健太か! あれ、かわいい彼女まで連れて」
「いいえ、違うんです。この子は――」
 その時だった。肩で息をしながら説明しようとする俺の背後から竜崎を呼ぶ声がした。
「翔さ~ん!」
 そしてそこに、モデルのような女性が現れた。
「紹介するよ、俺の彼女、ミドリ。同じ大学なんだ。その人は健太の彼女――」
 自分に向けられた竜崎の言葉を振り切るように、木下は一礼すると、その場から逃げるように走り去った。慌てて俺も、
「失礼します!」
 そう言うと、あいつの後を追った。
「俺、何か悪いこと言ったかな?」
 竜崎は、そうつぶやいて首をかしげた。
 
作品名:ユニフォームの王子さま 作家名:鏡湖