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藤野 青空
藤野 青空
novelistID. 60855
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ロボットだけど人なヒトのはなし

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「ボク、ロボットなんです……」
そう居酒屋の大将に打ち明けたのは去年の今頃だった――。

 「――大将、ボク本当はロボットなんです。だから、ビールより日本酒より、オイリーなお酒が好みなんで」
会社の上司にこれでもかというほど怒鳴られた日の夜だった。他のヒトガタロボットは大概の事をそつなくこなしているけれど、ボクは失敗の多い方で、いつも上司からやいのやいの言われていた。特に今日はヒドくて、大事な書類をシュレッダーにかけてしまったり、物品発注の際ゼロの桁をひとつもふたつも間違えたり……と、何度も繰り返し上司に謝るハメとなった。終いには「謝り方がなってない!」と言われる有様。それらが重なり上司の堪忍袋の尾が切れたわけである。

 そんなボクは独り身で、会社からの帰り道「今日は呑んで帰ろう呑んで呑んで呑みまくろう……そしてひとときでも忘れたい……」そう思いやっと馴染みになってきた居酒屋へ足を運んだのだ。“とりあえずビール”なんて言い方はビールに少々失礼な気もするが、とりあえずビールを頼む。次にもう一杯ビール。それからハイボール、そして焼酎、と何種類かぐぐぐいっと飲んだ。これでは反吐どころかゲロが出そうだ。

 酔いが回り目の前も回りだしてきたその頃、ポロッと言ってしまったのだ。「なんでボクはこんなにダメなロボットなんだよ。ナァ」その時、物静かな大将が肩を少し震わせたのを鮮明に覚えている。しかし、手際よく刺し身を切ってお皿に取り分けるその手は止まることがなかった。
「しまった!」そう思っても、一度口から離れた言葉は二度と戻せない。だから、全部言ってしまおうもうどうにでもなれ、とコップに残った芋焼酎をぐっと呑んでそっと話をはじめた。

 「大将、ボクは国指定の工場で生まれ、ロボット界で一、二を争う名門学校をエスカレーターで幼稚園から大学、それから大学院まで進学卒業した、世間でいうところのエリートロボなんですよ」
「けどね……」
今日のミスがひとつひとつ頭の中で再生される。細切れになった紙。たくさんのゼロ。電話の声。上司の顔。
「けどね、昔から他人よりどんくさいというか“君、本当にロボットなのか?”って。就職活動で会社の面接受けても、何度も何度も落とされて、今の会社なんて半分コネ入社みたいなものだから、いざ働きだしても毎日上司にミスを指摘されてガミガミガミガミ……。だからボク、もうダメなんじゃないかなって、そう思うようになって」
駆け足で喋ったせいか喉がチクチクする。もう一杯お願いします。同じ芋焼酎を一気に呑んだ。
「大将、実はボクお酒はお酒でもオイリーな方が好みでしてね」ふと前に目をやるとサーモンのカルパッチョがお皿の上で綺麗なドレスを纏って鎮座していた。
「サービスだ、食ってくれ」
「あっ、、すみません、いただきます」
薄く絡んでいるオリーブオイルが少量ながらも体に染み渡る。
コトン。次に出てきたのはパッと見ドレッシングのような、それこそがボクの好きなオイリーなお酒だった。
「裏メニューだがいつでも注文できる」
そう言って大将は瞬きの間に小さく笑った。
「兄さん、分かるぜ。オレも、ロボットなんだ」
ボクは飛び上がる程に驚いた。ロボットと言えば大概は一流企業に就職できることが保証されているとても優秀な人材である。この店に通い始めて今の今までロボットであるなんて疑うこともなかった。
「オレもなァ、お前さんみたいに失敗の多いロボットでなァ。いつも、ロボットのくせにロボットのくせにとなじられて、辛かったなァ」
「けれど、料理だけは得意でよォ。いつの間にか店かまえてたってわけだ」
「元気溢れるお客さんはもちろんだが、元気ねぇお客さんでもよ、帰る頃にはおいしかったって笑ってくれる、それだけでやっててよかったなァって思える。それだけだ、オレの全ては」
「兄さんもよ、ロボットでも得手不得手はあるっちゅーことをいつも心にしまっておいたらいい。で、そのうちに好きなこと見つけて得意にしたら、それでいいんじゃねーのかな」
「ロボットでも生きてるのは一緒なんだ。楽しく過ごさにゃ損だろ」

 知らないうちにボクは泣きじゃくっていた。今までの辛かったことダメな自分後悔消したい過去……。それらを全て小さくまとめて捨てることができたみたいに心が軽くなって、でも自分があまりにも不甲斐なくて、優しさに触れてどうしようにも涙が止まらなかった。

 その後どうやって自宅に戻ったかの記憶は定かではない。
朝が来て会社に着くといの一番に社長室へ。「辞表」と書かれた封筒を黙って社長に渡す。そのままさっさと自分のデスクに戻ると、必要最低限の荷物だけまとめて会社をあとにした。

 あれから一年が経とうとしている。ボクはいつもの居酒屋の暖簾を笑顔でくぐった。
「いつものお願い」
出てきたのはオイルたっぷりのお酒。二口三口と呑んで、ボクは少し大きな声で言う。
「大将、ありました。ボクの、得意なこと――」