小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

晴天の傘 雨天の日傘

INDEX|14ページ/35ページ|

次のページ前のページ
 

六 雨が上がるとき



 定時を告げるオルゴールがBGMに割って入るように流れた。雨はまだ止まない。今からならゲームには間に合う。快晴は曇った空を見ながら考えた。答えを出すのに時間は大してかからなかった。
「天気――、良くないけど、やっぱ試合見に行くよ。今からなら間に合いそうだし」
 BGMの曲調が変化すると一瞬の間が生まれ、お互いの視線が合ったまましばらく停止した。
「じゃあ、私も見に――行こうかな」
「でも、今日は降ってるよ。友だちも、これないんでしょ?」
「まあ、そうですけど」快晴は次の言葉を聞いて、数年ぶりのマッチアップで華麗に抜かれた気がした。

「でも、雨は上がると思うんです」

 快晴はなぜかその言葉に何も反論できないくらいの力強さと自信のようなものを感じた。そして、彼女に導かれるように次の言葉が出ると、彼女はそれをまっていたかのように頷いて答えた――。

「天野さんも見に行くのなら、一緒に行こうか」

   * * *

 二人は店を出た。階段を下りてひさしの下から往来を見ると、誰もが傘を差している。快晴は横にいる実雨を見ると、傘を持っているのが目に入る。というのもこの天候なのに持っているのは日傘だから、場違いとも言える持ち物がどうしても目立つ。でも、彼女の身体のことを考えたら、外出の時には日傘が欠かせないのだろうと質問をする前に自分で結論付けた。
「まだ、降ってるね」
 庇に雨が当たる音が声を大きくさせる。快晴は横にいる実雨を見ると、手にした日傘を見てじっとしている。
「この傘をさせばいいじゃないですか」
「でも、それは日傘だよ」

「――いいんですよ」そう答えて実雨は微笑んだ「これは日傘ですから、差すと晴れるんですよ」
「えっ?」
「冗談ですよ。冗談です」
 実雨は微笑みながらぎこちない手つきで持っていた傘を開くと、片方の手で快晴を手招きした。
「そこまでですから、入って下さいよ」
快晴は彼女の誘いを断ることができなかった。

 二人は雨の通りを並んで歩き出した。すると一歩、二歩と進むに連れて雨は次第に弱くなり、駅が見えるくらいのところまでたどり着く頃にはほとんど雨が止んでいた。往来の人もちらほらと傘を閉じる姿が目に入る。快晴は自分の中で決定付けていた天候とは違う結果が出つつあることに不思議な感覚を覚え、無意識に実雨の様子をうかがった。
 雨なのに日傘を差して歩く色白の後輩。今までこの距離に近付いた経験は、中学の頃の部活の時以来だ。めっぽう自信があったのに彼女からボールを奪おうとしたが何度か抜かれたその頃の記憶がまた甦った。今の彼女もあの時と同じ、快晴は自分の隙を抜いて行かれたような気がした。
 
「ほら、雨――上がりそうですよ」
 実雨は快晴の視線に気付いて横にいる快晴の顔を見て声を掛けた。さっきまで降っていた雨が上がった。それだけなのに不思議な表情の快晴に少し戸惑いながら、降っていない、晴れてもいない観戦日和になりそうな空の展開に笑みで返して見せた。
「本当だ」快晴は手を傘の外に出してみて、濡れていないことを確かめた「こんな不思議なこともあるんだな」
 快晴は実雨の傘から半歩、外に出た。
「天野さんは魔法使いみたいだ」
「そんな、大袈裟ですよ」
快晴は笑って答える実雨の笑顔を見て、自分は彼女にはかなわないと確信した。
「雨が上がったのなら、傘は差さなくてもいいんじゃあ?」
「先輩、これは日傘ですよ。私、日光アレルギーなんです」
「ははは、そうだったね」
 実雨が手を口に当てて笑うのを見て、快晴も腕組みをしてつられて微笑んだ――。
「さあ、ちょうどいい時間だし、いこうか」
「ええ――」

 雨の日にだって良いことが、ある。

 快晴は胸の内の気持ちを躍らせながら、二人並んで駅の構内に入っ行った。

  前編 ~晴天の傘~ おわり

作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔