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ミッちゃん・インポッシブル

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3.ミッちゃん、家出ネコを探す



 そのデート以来、光子と四方はより親密に……傍から見れば恋人同士に見えるのではと思うと、光子は夢見心地だ。
 お互いの帰宅時間が合うときは件のファミレスでの食事デートも続いている。

 しかし、今日は四方の様子が少しおかしい……。
「どうかしました?」
「あ、いえ、楽しい食事にまで仕事をひきずってしまって申し訳ない……」
「お仕事で何か問題でも?」
「問題と言うことではないのですが……実はネコ探しを依頼されていまして」
「ネコですか?」
「ええ、実際、人間相手の仕事よりずっと難しいのです、思考が読めませんのでね……ただ、依頼に見えた方があんまり肩を落としていて気の毒だったんで、できる限りやってみましょうとお答えしたんですが、どうやって探したら良いものやら……」
「どんなネコちゃんなんですか?」
「シャムとかペルシャみたいに特徴があれば、まだ聞き込みで見つかるかもしれませんが、ごく普通の三毛なんですよ……それでも飼い主さんには大事な家族ですから優劣はないのですが、『こんな三毛猫を見かけませんか?』と訊いて回っても埒が明かないでしょうし……」
「写真入のチラシとかポスターとかは?」
「ええ、それはもうやってます」
「そのチラシは……」
「ええ、今も何枚か持っていますよ」
 四方が見せてくれたチラシ……確かに可愛らしいネコちゃんだが、どこにでもいそうなことは否定できない、三毛なら見たよ、と言われても探しているネコちゃんである可能性は低そうだ、しかも名前がミーちゃん、『ミーちゃん』と呼んだらニャ~と反応するネコちゃんは沢山いることだろう。
「これ、頂いてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
「私も気にかけて見ます、知り合いにも声をかけて……」
「助かります」
 いや、四方の力になれることならどんな事だって……。

 翌日、急な発熱と言うことにしてドラッグストアを休ませてもらった。
 そして光子は行動に出た。
「テクマクマヤコン、テクマクマヤコン、ミーちゃんになぁれ!」
 ミーちゃんそっくりの三毛ネコに変身した。

『蛇の道は蛇』と言う、ネコの道はネコに限る。
 果たして、しばらくその辺りをうろついていただけでHITした。
「あら? ミーちゃん、今日はトラちゃんと一緒じゃないの?」
 ちょっと年増の白黒ちゃんに声を掛けられた……ここだ! 光子はとっさに口からでまかせを言った。
「迷子になっちゃった……トラちゃんに会いたいのに……」
「迷子に? こんな近所で? 変なの……いつもの物置小屋にいるんじゃない?」
「お願い……そこに案内してくれない? 後でお礼はするから」
「ま、いいわよ」
 気の良さそうな年増の白黒ちゃんは『いつもの物置小屋』に案内してくれた。
 空き家になっている住宅の朽ちかけた物置小屋、なるほど扉に丁度ネコが通れそうな孔が空いている。
「ありがとう! お礼は何がいい?」
「お礼なんていいわよ、まあ、何でも美味しいものがもらえたらそれは嬉しいけどね」
「わかった、後でね……」
 
 光子が扉を覗くと、果たしてミーちゃんはそこにいた、話に出てきたトラちゃんも一緒だ。
「ミーちゃん……」
「え? あなた誰? あたしがもう一匹……」
「話せば長くなるけど、私、本当は人間なの」
「うそ、どう見てもネコだけど……それもあたしそっくりの」
 トラちゃんも目をまん丸にしている。
「人間に戻るとあなたと話せなくなっちゃうの……ミーちゃん、どうして家出なんかしたの? 飼い主さんは必死で探してるわよ」
 ミーちゃんは隣のトラちゃんを見やった……。
「あのね、あたしこのトラちゃんのお嫁さんになりたいの……でも、ご主人にそれを伝えることが出来なくって……」
「お家に連れて行って仲の良いところを見せたら?」
「やってみた……でも、二匹飼うつもりはないみたいで、トラちゃんをお家に入れてはくれなかったの、だから……」
「そう……わかったわ、私がご主人にお話してあげる、トラちゃんと一緒なら家出なんかしないのよね?」
「ご主人の事はトラちゃんの次に大好き、トラちゃんともご主人とも一緒にいられるなら最高に幸せだけど……」
「それも伝えてあげる……もう一度ここに来るから、必ずここにいてね……ところでお腹すいていない?」
「トラちゃんが食べ物を見つけてきてくれるけど……」
 トラちゃんは見るからに生活力のありそうな、逞しくてきりっとしたノラちゃんだが、人間に飼われて美味しいものを知っているミーちゃんの口には合わないのだろう……。
「じゃ、食べ物はすぐに持ってきてあげる、だから必ずここにいてね」
「うん、わかった」
「約束ね」

「ラミパスラミパス、ルルルルルン」
 物置から出た光子が呪文を唱えると元の姿に……目が◎◎になっている二匹を尻目に、コンビニでキャットフードを……白黒ちゃんの分も合わせて三つ買って届けると、光子は四方の事務所に向かった。


 四方探偵事務所は初めて……突然現れた光子に四方の目も◎◎。
 几帳面な四方らしく、事務所はやや殺風景ながらもよく片付いていて居心地がいい。
 光子は勧められるままに黒光りする合成皮革のソファに座り、一点の曇りもないガラステーブルを挟んで四方と向き合った。
「ミーちゃんを見つけました」
「本当に!? え? でもどうして今連れていないんですか? また探さないといけなくなりますよ」
「ミーちゃんの家出の理由、知ってます?」
「あ、いや、飼い主さんも心当たりがないと言ってましたし」
「ミーちゃんには好きな人……じゃなくて好きなトラネコがいたんです、そのトラちゃんのお嫁さんになりたいのに、飼い主の方にはわかってもらえなくて」
「なるほど……ありそうなことではありますね……でも、どうして光子さんがそれを?」
「それはミーちゃんがお家に戻ってから……ミーちゃんはトラちゃんと一緒にいられるなら喜んでお家に帰りたいと言ってます」
「要するにそのトラちゃんとやらも一緒に飼ってもらえればOKなんですね? なぜそれがわかったかは謎のままですけど、光子さん、あなたを全面的に信じます、早速飼い主さんの所に参りましょう……もしよろしければ同行して頂けると助かるんですが」
「ええ、もちろん」
「では、助手ということにして……」
 ……自分も助手にしてもらえるならこの事務所で四方と一緒に居たい……光子はそう強く願った……。


「そういうことだったんですか……仲良しだなとは思いましたが、私、ミーちゃんが大好きで、もう一匹飼うつもりはなかったので……でもミーちゃんがそんなにそのトラちゃんが好きだったんなら、トラちゃんも一緒に」
 飼い主がそう言って手を差し伸べると、ミーちゃんは嬉しそうに膝に飛び乗り、トラちゃんはちょっと照れくさそうに大人しく座っていた。
「では、私共はこれで……費用の方はお見積もり通りで、後ほど正式な請求書を送らせていただきます」
「探偵さん、本当にありがとうございます」
「いやぁ、今回はこの助手のお手柄でして」
「そうなんですか……ネコの気持ちがわかるなんて、きっとお優しい方なんでしょうね」
「身内ながら、私もそう思います」
 二人に暖かい微笑を向けられて、光子はちょっと頬を赤らめた。
作品名:ミッちゃん・インポッシブル 作家名:ST