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お客様は、神様です。

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この世の中、押しなべておもてなしが大流行、
お客様は神様です、と言うこのキャッチフレーズが、日本全国いたる所で幅を利かせ、この言葉を投げ掛けるだけで、おもてなしをする方も、おもてなしを受ける方も、なんとなくそんな気分になるから不思議です。
さて私どもは、ちょっと変わった飲食店を商っております。
お店の名前は、「お客様は神様です」
と言う、なんとも変わった店名ではございますが、けっして店名に偽りはございません。
一応おもてに看板を出してはいても、入るドアは有りません、ドアもないので勿論玄関も有りません。
しかしそれでもお客様は、各自おもいおもいの場所から、普通に入っていらっしゃいます。
開店は、丑三つ時となっており、何やらオカルト的ではありますが、皆様それこそ粒ぞろいの真面目なお方ばかりでございます。
最初のお客様達は、7人掛けのテーブルに、いつもの様に、仲良く並んで腰掛けられました。この方たちは
よく方々のイベントなどに呼ばれているそうでございますが、一番忙しい時期などは、暮れから、正月にかけてだそうで、様々な記念撮影会や、ポスター等の写真撮影、毎年恒例の神社や仏閣などの催しものなどに、また各地のクライアント様からのさまざまな講演以来なども気軽に引き受けられ、それこそ眠る間もないほどの忙しさだそうです。1人かけても、クレームが付くとの事で、全員こまめに健診などをたびたび受けられ、体調管理にはひと一倍気を使っていらっしゃいます。
また、衣装がとても凝ってらっしゃって、最初いらした時など、どこぞのコスプレ大会のイベント帰りかな、と内心思っておりましたが、なんとあれが普段着との事で、妙に納得いたしております。
説明いたしますと、4名の方は、同じく最後に天と言う変わったお名前をお持ちでして、お互いを心から信頼し合うように呼びあっていらっしゃいます。
1人目の方は、唯一日本国籍をお持ちの方で、満三歳になっても歩かなかったため、船に乗せられて捨てられてしまい、やがて漂着した浜の人々の手によって手厚く育てられたそうで、DVによるコンプレックスなど微塵も感じさせず、目出度く成人されたあと、左手には鯛をかかえ右手に釣竿を持った親しみ深いお姿で、大変な恩を受けた地元の人々のために日夜漁業シンコウや、商売繁昌にひとかたならぬ尽力をされているとか、またお二人目は、一度、仏となられたものの、再びこの世に現れ出でたという超人的な方で、最新の医学界の常識をはるかに超えられた方です。農業に深い見識を持たれ、大きな袋を背負いウチデの小槌をもち、頭巾をかぶられた姿がなんとも可愛らしく、いつも笑みを絶やすことなく柔和な笑顔を浮かべていらっしゃいます。
三人目の方は、元々南アジアに位置するバーラト・ガナラージヤのご出身で国花は蓮、国樹は菩提樹とか、日本語訳ではいんどとも呼ばれ、彼らの中で唯一の武将の姿をしておいでで、右手に宝棒、左手に宝塔、足の下には邪鬼天の邪鬼をいつも踏みつけにしていらっしゃいますが、人は見かけによらぬと申しますか、 融通が利くと言うか、様々な相談事にも親切に乗っていただいております。やはり人は見た目で判断してはいけないと言う好例でしょうか。
4人目の方は、唯一女性の方で、とてもお美しく、この方も元々いんどにいらしたそうですが、現在は日本に定住し、縁結びなどを、なされているそうです。音楽や芸術にも造詣が深く、さまざまな言語にも通じていらっしゃいまして、今で言う所のバイリンガルのはしりとでも申しましょうか、とくに愛嬌縁結びの徳があるといわれているお方です。ま、帰国子女と言う所でしょうか。
遅くなりましたが、5人目の方は、長い頭、長い顎鬚、大きな耳たぶをもたれ、左手に宝珠、右手に巻物を括り付けた杖をもち、何やら仙人を彷彿とさせる出で立ちでおいでなので、お歳を伺った所、わしは今年でちょうど千歳になるとの事でした。名前は、幸福のフク、身分をあらわすロク、寿命を表わすジュの三文字からなり、村や町に住みついて、鶴と亀をそばにしたがえ連れて歩かれるお姿は、人々の信頼を集めるにたる自他ともに認める仙人のような方との事でした。このグループのなかでは、一目置かれていてリーダー格的な存在と言う所でしょうか。
6人目の方は、自分は星の化身であると自らおっしゃられ、にこやかな微笑みをたたえながら、手には巻物を括り付けた杖、そして団扇や桃などを持ち、鹿を従えた姿がなんとも凛々しいお姿なのですが、よくオーダーを取りに伺う時などに、鹿の角に袖が引っ掛かったり、ロングエプロンが巻き付いたりして、いつも転びそうになります。鹿などは、外につないでいてほしいものですが、面と向かって口に出したことはございません。また、ここには鹿せんべいは置いてないのかと、不機嫌そうにいつも尋ねられますので、その内お取り寄せしようかとは思っております。最後の方は、いつも大きな麻袋を背負ってこられて、お酒を召しあがりになり、ちょうどお顔の色もあけぼの色に染まられると機嫌がよくなられ、周りの方々に気前よく袋から取り出した宝物を配っていらっしゃいます。特に子供達には大変な人気のようで、サンタクロースの草分け的な存在と言った所でしょうか。そして、食事が済み、いざ、帰られる時などが、一番混雑し、また緊張する時間でして、ちゃんとお忘れ物がないかどうかを確かめ、自分のコスプレ衣装かどうか、はたまた鹿とか邪鬼はちゃんとお持ち帰りかどうか、手荷物は本人のものかどうかと言ったことをすべてチェックするのに、スタッフ総出で確かめて、これもおもてなしと言ってしまえばそれまでですが、とにかくひと苦労いたします。
作品名:お客様は、神様です。 作家名:森 明彦