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②銀の女王と金の太陽、星の空

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第八章 新たな兄弟



「カモミールティー、冷めたな!」

銀河が突然、立ち上がった。

空の使者が来て以来、シンと静まり返っていた私室に、銀河の声が響いたのでみんなハッと顔をあげる。

「太陽、淹れ直すぞ!」

言いながら、強引に太陽の腕を引っ張って台所へ行く。

私はティーセットを重ねて台所へ持って行く。

「ありがとう。」

太陽が瞳を半月にして微笑んだ。

いつも見ていた笑顔だけれど、なんだか久しぶりに見た気がする。

「やっぱり、太陽が笑顔でいてくれるとホッとする。」

私が言うと、太陽が驚いたようにこちらを見た。

「太陽がそばにいてくれて、キラキラ輝くお日様みたいに笑ってくれていることがどれだけありがたいことなのか、今回よくわかった。」

私の言葉に、太陽が瞳を揺らす。

「これは私のわがままなんだけど…もし、太陽が嫌でなければ、今まで通り私のそばにいてほしい。」

まっすぐに太陽を見つめて言うと、太陽は瞳を潤ませてジッと私を見つめた。

「うん。僕も、赦されるならこれからも聖華のそばにいたい。」

花が咲くように、見惚れるほどきれいに太陽がほほえんだ。

「聖華は、本当に強くて優しい。今回、改めてそれを感じて…更に好きになってしまった。」

白い頬を真っ赤に染めながら、太陽が私に想いを伝えてくれる。

「でも、だからといってもう二度と無体は働かない!聖華が誰を選ぼうと、僕は聖華と、聖華が選んだ相手を守り続けるから!!」

「ありがとう。」

私はそんな太陽に、笑顔で応える。

「選んだ相手…か。…本当に好きなひとは、どうにもならない相手だから…。」

諦めたように笑うと、銀河と将軍がそばに寄ってきた。

「彼への想いが叶うことはないのは、わかっているの。でもずっと想い続けると思う。だから…申し訳ないんだけど、結婚することになった相手を異性として心の底から愛することはできないと思う。」

カモミールの甘い香りが広がってきた。

銀河が、新しいティーセットを用意してくれる。

「こんな私なのに、あなたたちのどちらかは私と結婚することになるのよね…。」

太陽が私のカップを手に取り、ふうふうと冷ましてくれる。

「大丈夫だよ。」

澄んだ明るい声が、私にカップを差し出してくる。

「僕らが、なんとかしてあげる。」

「…え?」

太陽の言っている意味がわからず首を傾げると、太陽が意味深に大きな碧眼を半月にしながら笑った。

「聖華のその想い、叶うようになんとかするよ。」

私は太陽からカップを受け取ると、適温になったカモミールティーを、太陽を見つめながら一口のむ。

「ね、兄上。聖華の為なら、僕らは何でもする。」

太陽は銀河を見て、花が咲くように笑う。

それにつられるように、銀河も優しく微笑んで頷く。

「兄上のように、これからは僕も聖華が幸せになることを第一に考えて、仕えていきたいと思ってる。だから、そばに置いてほしい。ただ…」

そこで太陽は、ふっと私から視線をそらす。

「母さんが…。」

私は太陽の手を、思わず握った。

「大丈夫、たとえ涼が罪を犯していたとしても、それは太陽には関りないんだから。今度こそ、私が太陽を周りから守るから!」

すると、太陽と銀河、将軍が一斉に笑った。

「女王に守られる騎士って、どうなんだ!?」

将軍が息子二人の肩を抱きながら、豪快に笑う。

私が今回の太陽のことは不問に伏すと暗に伝えたことで、将軍も銀河もホッとしたようだ。

(あとは、涼。)

そう思った瞬間、どこからか風が入った。

カーテンがかすかに揺れる。

「着いたの?空。」

私が言うと、艶やかな低い声だけが聞こえた。

「先に行っている。」

私たち四人は、顔を見合わせた。

「早いね。」

太陽が呟く。

「さっき使者が来たばかりだよな。」

銀河も呟く。

「あいつら、人間か?」

将軍が大きめの声で呟く。

(こうしてみると、この3人ってよく似ている…。さすが親子…。)

容姿は全く似ていないけれど、雰囲気が似ている。

今回、大きな問題は起きたものの、結果、将軍家の絆が強くなったので、私は嬉しくなった。

仲良く話す腹違いの兄弟をいつまでも眺めていたいけれど、もう一仕事あるのでそうもいかない。

「行きましょうか。」

私は立ち上がると、部屋の外に控えている女官へ後片付けを頼んだ。

そして四人でまた、地下牢へ降りる。

今度は、自然と太陽がエスコートしてくれる。

こういう時に、銀河は必ず身を引く。

太陽を立てることができる銀河の性格の良さを、改めて知った。

(まぁ、この将軍が父親で、性格が悪い子どもができるとも考えにくいよね。)

前を行く将軍の後ろ姿を見たその時、将軍が明らかに動揺した感じで足を止めた。

将軍の背中越しに前を見ると、そこには天使のような輝きを放つ、美しい女性が立っていた。

「涼…。」

将軍が掠れた声で呟く。

長い巻き毛に大きな碧眼を持つその女性は、太陽そっくりで目が眩むほど美しかった。

その涼の横に、空が立っている。

「母さん!」

太陽が涼に駆け寄る。

空と涼と太陽が並ぶと、そこはまるでおとぎ話の世界のように華やいで、美しく輝いていた。

空はいつも顔を覆っている黒い布を、今回は着けていない。

そのせいか、涼の様子がおかしい。

その白い頬は紅潮し、なんとも妖艶な表情を浮かべている。

呼吸も浅く早いようだ。

「涼…どうした?」

将軍が涼に近づき、その頬に触れようとした。

それを空が鎖鎌で遮る。

「触るな。」

「無礼な!涼は私の妻だぞ!」

将軍が声を荒げると、涼は潤んだ瞳を、私へゆるりと向けた。

「聖華…さま。」

明らかに、空の術にかかっている。

「待って、将軍。空の術がかかってるから触れないほうがいいわ。」

将軍が驚いて涼を見る。

「あなた…。」

同性の私が見てもぞくっとするほどの色気で、涼は将軍へ手を伸ばす。

「はいはい、あんたはこっち。」

空がそれを鎖鎌で止め、涼の顎を掴んで自分の顔を強引に見せる。

けれど、空は涼と目を合わせず、私たちをぐるりと見渡す。

「王族の毒殺の証拠はこれだ。」

空は懐から小さな包みを取り出すと、太陽へ渡した。

「この女の自宅から出てきた。」

包みを太陽が開けると、液体が入った小瓶が出てくる。

「それは星一族しか精製できない、無味無臭の猛毒だ。」

驚いて、私たちは一斉に空を見た。

「里に戻り記録を辿ると、涼と前頭領が取り交わした契約書が出てきた。」

言いながら懐から一枚の紙を取り出す。

私はそれを受け取り、開いてみた。

確かに、涼の筆跡でサインがしてある。

「それをつきつけて、一族で尋問してみたが、吐かない。だから物証だけでなく自白がほしいなら拷問が必要になる。」

言いながら空は私を見た。

「星一族の拷問には二種類ある。」

(二種類…。)

「いわゆる通常の拷問と…おれのように色術が使える者は、色術を使った拷問ができる。」

「色術を使った拷問?」

銀河が尋ねると、空は涼の顎を掴む。

「たとえば、こうやって…。」