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①銀の女王と金の太陽、星の空

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第四章 本当の敵と味方



鳥の声がする。

女官も太陽も、誰もいない私室は初めてだ。

室内の空気の音すら聞こえそうな静寂に、ソファーへ深く腰かけると、私はそっと目を瞑った。

暗殺は、ご先祖の時代にもあった。

けれど、暗殺が連続しているのは、私の父王以来だ。

私の父王は側室を持たず、母ただひとりを大事にした為、子どもは兄と私の二人のみ。

よって今現在、私は唯一の嫡流となる。

歴史上、初めての女系となってしまうが、それでも嫡流は嫡流だ。

ここで私が暗殺されてしまうと、完全に嫡流が途絶えてしまうことになる。

(まぁ、でもそれは国民には関係のない話。)

国民にとっては、内政の安定がなければ経済発展がなく、いつまでも生活が豊かにならない。

そちらのほうが、重要な問題だ。

こうも王がころころ代わる国は、諸外国からの信用がないので交易でも不利な上、不安定さにつけこまれ侵略されるリスクも高い。

内政が安定すれば、国民が豊かに暮らせる。

国民を守り幸せにすることが、王の最も重要な仕事だ。

それができる王なら、嫡流でも庶流でも、今の王族でなくても…国民にとっては、どうでもいいだろう。

そもそも、なぜ私の家族がこんなに狙われているのかわからない。

(庶流の誰かが、王位を狙っている?)

単純に考えれば、今の時点で継承第二位となった従兄の銀河が暗殺を企てているとなる。

…でも、本当にそうなのか?

銀河は、気位が高く気難しい性格ではあるけれど、決して野心家でなく、王位への執着も見られない。

相性は悪いけれど、銀河から私への敵意や悪意を感じたことがない。

それでは、銀河の父、私の父王の弟である将軍が銀河を王にしたくて暗殺を企てている?

…いや、考えにくい。

父と将軍は仲の良い兄弟で、父王が在位中も第一の側近として父を支えて守っていたと聞く。

それに幼いながらも、私は父が亡くなった日の将軍の哀しみようを覚えている。

父の亡骸に狂ったようにすがりついて泣き、しばらく食事も摂らず倒れてしまったことは、今でも鮮明に覚えている。

そして母が中継ぎで戴冠した時も、母を一生懸命支えてくれ、また母が暗殺されてしまった時は、兄と私を抱きしめて泣いてくれた。

先週、兄が亡くなった時は、私の手を握って泣きながら「今度こそ、絶対に守ってみせる」と私に誓ってくれた。

そんな将軍が、暗殺の真犯人とは到底思えない。

もし将軍が銀河を王にしたいのなら、銀河と私を結婚させるようにするのではないだろうか。

…確かに昨日の襲撃は、わざわざ視察の目的地を指定したことから、将軍が絡んでいるのは間違いないだろう。

でも、私の暗殺目的ではなかった。

というよりむしろ、誓い通り、私を守るためでもあった。

空は『上忍』という、忍の中でも最高ランクの忍なので、お金をいくら積んでも本人が納得した任務しか請けないそうだ。

その空に私の護衛を依頼したのは、恐らく将軍。

ただ、空が例え納得して護衛を請けても、私が受け入れないと護衛に就けない。

空と私それぞれに、納得させ受け入れさせるためにあの襲撃が必要だったのだろう。

だから、私は無傷だったのだ。

となると、私の死が必要な人がいなくなる。

(…じゃあ、私は暗殺されない?)

(いや、待って。)

そういうことになると、つまり私が王位に就きたくて、自分の家族を皆殺しにしたってことになる!

(そんなの、あり得ない。)

…暗殺犯の目星がつかないと、身の守りようがないし、私自身に疑いの目が向けられる可能性も出てきた…。

私は目を瞑ったまま、眉間に皺を寄せて考える。

『私情を捨てて、よーく考えてみな。』

昨日の空の言葉が、ふと蘇る。

(私情を捨てる?)


「険しい顔して…寝てんの?」

艶やかな低い声がした。

驚いて目を開けると、空がいつのまにか部屋の中に立っていた。

私からかなり離れたところにいる。

「もう終わったの?報告と挨拶。」

私が身を起こすと、空はわずかに切れ長の黒い瞳を細めた。

「ん。」

「太陽は?」

「さあ?」

相変わらず、言葉が少ない。

(これは、もしかして…。)

「私を術にかけないように、声をあまり発しないようにしてる?」

私はソファーから立ち上がり、背伸びをしながら空を見た。

すると空は一瞬目を見開き、眉尻を少し下げて視線を斜めに流した。

「ん。」

私は椅子に移動して、腰掛けながら空を見た。

「私、もっと精神力を鍛えるわね。」

空が私を見る。

鼻まで黒い布で覆っているけれど、本当に見れば見るほど美しい顔立ちをしていることがわかる。

「せめて、私だけでも…空にとって顔を隠さず、普通に会話ができて、近寄れる相手になりたいもの。」

空は目を大きく見開いて、私を凝視する。

「それが、私ならできると思う。」

空は黙ったまま、私をジッと見つめる。

「できる、と思わない?」

テーブルに頬杖をつきながら首を傾げて訊ねると、ようやく空は視線をゆるめた。

「…ん。」

小さく呟いたその表情は、驚くほど穏やかだった。

そこへ、銀河が入ってきた。

「聖華、話があるんだが。」

そして、黒装束の空を見た。

空も銀河を見る。

その瞳は冷ややかで、今までの柔らかさが嘘のように鋭利だった。

でも、それは敵意という感じではなく、プライベートから仕事に切り替わった…そんな印象だった。

銀河は空を一瞥した後、私の真向かいの椅子に座り、足を組んだ。

「妾腹は、まだか?」

銀河は室内を見回す。

「妾腹って、誰よ。」

私が笑顔を作りながら言うと、銀河もふっと笑って軽い溜め息をついた。

「先程、太陽が空を連れて昨日の報告に来たときに、将軍と宰相から『聖華の結婚』について話が出た。」

私は黙って銀河を見つめる。

「嫡流が途切れそうな今、女王には一日も早く子を授かってもらわないといけない。」

銀河はその三白眼を更に細めて眼光を鋭くしながら、私を見る。

「候補は、庶流でも嫡流に近く、年も近い者となる。」

私はそこまでで、すべてを理解した。

「で、銀河が最有力候補なのね。」

(だから、太陽は帰ってこないのだ。)

どこかで気持ちの整理をつけているのであろう、その姿を想像する。

「太陽は、母親の身分が低すぎるから…」

私は、その言葉を遮った。

「ねえ、嫡流を守る意義は何?」

自分で思いもよらない、冷たい声が出て、我ながら驚いた。

王は、普段からあまり感情を出してはいけない。

特に『怒』『哀』『焦』の感情は、絶対に露にしてはいけない。

そう幼い頃より訓練を受けてきた私は、太陽の前以外では完璧にこなしてきていた。

銀河も初めて目の当たりにする私の感情に一瞬驚いたけれど、すぐにいつも通りに戻った。

「ひとつ、確認したいことがある。」

銀河は組んでいた足をほどくと、椅子から立ち上がり、私の前まで来て跪く。

「私は、聖華のことが好きだ。」

(…。)

あまりにも自然に軽く言われ、私はすぐに反応できない。

「結婚したいと思っている。でも、聖華が私を好きでないことも、わかっている。」