小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

①銀の女王と金の太陽、星の空

INDEX|6ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

第三章 初恋



カモミールの香りで目が覚めた。

(なんだか体が重い…。)

ふと見ると、太陽がベッドサイドの椅子に座ったまま、私の体に頭を乗せて眠っていた。

柔らかなクセのあるプラチナブロンドが陽の光を反射して、キラキラと輝いている。

柔らかな曲線を描く白い頬には切り傷がいくつもある。

綺麗な弧を描く美しい瞳は長いまつ毛で彩られ、天使のように美しい。

太陽からはカモミールの香りがして、心がホッとする。

昨日、血と汗と泥の匂いをまとって獰猛な目付きで荒々しく襲いかかってきたのが夢だったのではないかとさえ思う、その清らかな姿に私はしばらく見惚れていた。

(この傷…残らないといいけど…。)

そっと頬の傷をなぞると、太陽の長いまつ毛が震えた。

ゆっくりと、碧眼が開く。

そしてその大きな澄んだ碧眼が私を捕らえて目が合った瞬間、大きく見開かれた。

そのまま飛び起き、太陽は床に土下座する。

「!?…太陽?」

突然の行動に、私も飛び起きる。

「大変…申し訳ない!!謝って済むことではないけれど…謝らせてほしい!!」

太陽の声は…震えていた。

私はベッドから降りると、太陽の横に座り、そっと肩に触れた。

そのとたん、太陽は顔を歪める。

(そうだった…全身に深い傷を負っていたんだった…。)

「太陽、昨日は本当にありがとう。」

私がお礼を言うと、太陽は弾かれたように身を起こして私を見た。

「…え…?」

大きく見開かれた碧眼の眉根が、グッと寄せられる。

「それと、勝手に空を雇うことを決めて、ごめんね。」

私は太陽の手をそっと握って、太陽の澄んだ碧眼をまっすぐに見つめた。

「遺恨のある相手と同じ役目に就くなんて、本当に不快だと思う。…怒って当然だと思う。」

言いながら、きゅっと太陽の指先を握る。

「でも、空は、空の能力が飛び抜けて高いことは、明らかだった…正直、私は、護衛に欲しかったの。」

太陽が眉尻を下げる。

「敵にまわらないように、こちら側にしておきたかった…。」

私は涙がこぼれそうになるのを、グッとこらえた。

「でも、それが太陽の心を踏みにじることもわかっていた…。なのに話し合いもせず、一存で決めてしまって…本当にごめ」

突然、太陽にきつく抱きしめられた。

抱きしめられたことで、言葉を紡げなくなった。

太陽の全身に包み込まれるように、優しく、強く、抱きしめられ、思わずホッとため息が出た。

「そんなことじゃないんだ。僕は、そんなに清廉潔白な人間じゃない…。」

太陽は私の首筋に顔を埋めながら、呟く。

「…あいつ、変な術を使うだろ?」

私は、昨日のことを思い出す。

「空は、色術を使うことで有名なんだ。」

(色術…。)

「口元を隠しているのは、力が強すぎて敵味方関係なく術にかけてしまうから、と言われている。」

太陽はそっと腕の力を緩めると、身を起こして私と目を合わせる。

「近距離で視線を合わせるだけでも、声を聞かせるだけでも、術にかけることができてしまうそうだ。」

そこで、ようやく昨日のことが合点がいった。

「その術も、心を操るだけならまだいいけれど…あいつは…快楽を呼び起こすんだ…。」

太陽は、そこでふっと視線を外し目を伏せる。

その白い頬が紅く色づいた。

「その…だから…聖華はさすがに完全には惑わされなかったけれど…それでも快楽を感じている顔をしていて…それを堪える表情がまた…」

そこで口ごもってしまう。

「…え?」

小さく呟くと、太陽は上目遣いで私を斜めに見る。

「その顔を空に見られたことで腹が立ったし、でもその顔を見たことでこちらのタガも外れてしまって…で、昨日の無体に及んでしまったのが、愚かすぎて情けない…。」

そこで言葉を切り、ばつが悪そうにぼそっと呟く。

「それが、真実なんだ…。」

(…。)

私も自然と顔が熱くなる。

(私、どんな顔してたの…。)

「だから、決して聖華が僕をないがしろにした、とか、踏みにじった、とかでないんだ。」

太陽は改めてまっすぐに私を見つめると、私の両手を大きな手でそっと包み込んだ。

「この際、ハッキリと言う。」

太陽は白い頬を上気させ、大きな碧眼は瞳孔が開いて潤んでいる。

その艶かしい表情に、私の鼓動は小さくはねた。

「聖華…、僕は聖華が好きだ。…愛してる。」

キラキラと輝くプラチナブロンドに大きな碧眼、柔らかな曲線を描く白い頬、形のいい綺麗な唇。

どこから見ても端正な顔立ちの、誰もが夢見る王子様そのものの太陽。

こんなに素敵な人から愛を告白されて、嬉しくない人はいないと思う。

でも、私は何の感動も、感情も、なぜかわかない。

今まで、太陽に対してそういう感情を抱いたことがなかったのが、事実だ。

「…。」

太陽はしばらく熱っぽく私を見つめていたけれど、そのうち私が戸惑っていることに気がついた。

「…これから、そういう対象として、僕のことを考えて?」

私の様子から、私が太陽に特別な感情を全く抱いていなかったことを汲み取ったらしく、太陽は少し寂しそうに眉を下げながらも、にっこりと笑顔でそう囁いた。

私は、小さく頷く。

そんな私の頭を優しくひと撫でした太陽は、すっと立ち上がり、私の手を軽くひいた。

「朝食にしよう。カモミールティー淹れるからさ。」

その言葉に、私はホッとして笑顔で頷き、立ち上がる。

寝室のカーテンを二人で手を繋いだままくぐると、女官たちが既に控えていた。

「おはようございます。」

挨拶してくる顔が、みんな赤い。

そして私と太陽をチラッと見ると、顔を真っ赤にしていそいそとそれぞれの仕事に就く。

(?)

私が首を傾げる横で、太陽は小さく笑って女官たちに言った。

「誤解だよ。僕らはそんな関係になっていないから。」

(…あっ、…そういうこと。)

「昨日のことを、君たちにも謝らないといけないね。」

その言葉に、女官たちが太陽を見る。

「昨日は襲撃に遭って、かなり興奮した状態で帰って来てしまったものだから…戦いの余韻を引き摺ったままここに来たことで、君たちを怖がらせてしまったね。」

そこまで言うと、太陽はゆっくりと深く頭を下げる。

「本当に、すまなかった。」

女官たちはみんな驚いた表情で太陽を見つめている。

「そうだ、今朝はお詫びに、みんなにもカモミールティーを用意するから、一緒に飲んでくれる?」

太陽が柔らかな笑顔で提案すると、女官たちはハッと我を取り戻した表情になり、慌てて首を横にふる。

「そんな、もったいのうございます!」

でも、太陽は笑顔のまま台所へ入り、すぐに甘い香りが部屋へ広がってきた。

私は女官たちの目をひとりひとり見ると、笑顔で頷いた。

「せっかくのお誘いなんだし、遠慮は無用よ。」

私の言葉で、女官たちは満面の笑顔になる。

「あ、そうだ。昨日、実は新しく護衛を雇ったの。みんなにもあとで紹介するわね。」

そう私が告げた瞬間、女官たちが目を見開いて、一斉に腰を抜かすように尻餅をついた。

そしてみんな、私の後ろをうっとりと見つめている。

(?)