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二年目のクリスマスコンサート(『お星様とギター』スピンオフ)

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「今年はひまわり園には行けそうにないなぁ」
「うん、残念だけど仕方ないよ」

 去年のクリスマス、私の優しい旦那様にして元ライブハウスのスター・純ちゃん、そして純ちゃんの良きライバルであり、親しい友だちでもあるカッキーこと柿沢タツヤのジョイントコンサートが児童養護施設「ひまわり園」で開かれ、わたしも子供達に手作りクッキーを配ると言う光栄な役割を貰って参加した。
 子供達でも知っているクリスマスソングをノリノリに演奏したコンサートは大成功。
 子供達を笑顔にしてあげられたことへのご褒美だったのかもしれない、その夜に見た流れ星に純ちゃんがかけた願いを神様は叶えてくれた。
 その願いの結晶はわたしのお腹に宿って、この秋、無事にこの世に産まれて来てくれたの。

「クッキーは焼けたから、今年は純ちゃんが配ってくれる?」
 わたし達の愛の結晶はまだ生後二個月ちょっと、寒い冬の夜に連れ出すわけにも行かないし、大事に暖かく包んで連れて行ったとしても、わたしはひまわり園の子供達のお世話までとても手が回らない。
「いや……」
「え? どうして?」
「これ以上ないってくらいの適任者がいるからさ」
「え? それって誰なの?……女の人?……」
 
 結婚して二人で気楽なイタリア料理店を開いてからはずっと二人三脚でやって来た、だけどお腹が大きくなってからは純ちゃん一人で頑張ってくれている、そんな純ちゃんを信頼していないわけではないのだけれど、なにしろ純ちゃんはライブハウスのスターだった、当時ファンだった娘も沢山いるし、純ちゃんは今でも素敵だから……。
 そんな事をチラっとでも考えてしまう自分が嫌だったけど、純ちゃんは悪戯っぽく笑って聞き流してくれた、こんな顔をする時の純ちゃんはいつだって素敵な事を考えてる。
「おじいさんだよ、陽子ちゃんもよく知ってる人さ」
「え? わたしが? 知ってる?」
 だれだろう……わたしや純ちゃんのおじいさん? でも、これ以上ない適任者って……。

「じゃ~ん!」
 純ちゃんが持って帰って来た大きな紙袋から小さな人形を取り出した。
「あ、サンタさんね? え? これって……」
「風船で出来てるんだ、ほら、まだまだこんなにあるよ」
「それでそんなに大きな紙袋を……そのわりには軽そうだなって思った」
「プレゼントを配るには最高の適任者だろう?」
「わかった! クッキーを入れた袋をサンタさんに担いで運んでもらうのね?」
「そう! 良いアイデアだろ?」
「うん! 最高よ……でもサンタさんのバルーンアートをこんなに沢山、どうしたの?」
「最近よく店に来てくれる年配のお客さんがいてね、昨日カッキーが打ち合わせに来た時、俺達の話を小耳に挟んだらしいんだ」
「うん、それで?」
「その人、バルーンアートの大道芸人さんでさ、子供達を笑顔にするのが大好きで、前からバルーンアートを趣味にしてて、会社を定年退職した後はそれを新しい仕事にしちゃったんだって、クリスマスの夜はもちろん他からお声がかかってるんだけど、施設の子供達を笑顔にするためならばって、さっきこれをわざわざ店に届けに来てくれたんだよ、サンタさんがクッキーの袋を担ぐのもその人のアイデア」
「素敵! じゃあ、このサンタさん、子供達の人数分あるのね?」
「えへへ……一つ余計にお願いしちゃった……はい、これ……一日早いけど、メリー・クリスマス」
「え? これ、わたしのサンタさん?」
「袋を担いでるだろう?」
「うん……純ちゃん、これって……」
「ベビーリング、この子の誕生石のオパールだよ、ちっちゃい指輪だからオパールもちっちゃいけど、ペンダントに」
「とっても綺麗……素敵なプレゼント……大事にするね」
「うん、この子と同じようにね」
「そうと決まったら、サンタさんにクッキーの袋を担いでもらわなきゃ」
「そうだね」
「サンタさん、明日は子供達にいっぱい笑顔をプレゼントして下さい……」
 その時、ずらりと並んだサンタさんの目尻もちょっと下がったような気がした。
 そして、わたしのサンタさんはわたしに語りかけているように見えた。
(もう純ちゃんを疑ったりしないようにね)……と。