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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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聞く子の(むかしの)約束

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第3章 社会に出てから



 大学を卒業して気になっていたことは、キクちゃんのこと・・・ではなかった。卒業後、知子との二股交際がばれて別れた清美のことばかり考えていた。未練があったのではなく、彼女に悪い印象を残してしまったことへの後悔だったのか、彼女自身が浮気ばかりしていたのに、最終的に私が悪者になって終わりを迎えた事に対しての憤りだったのかよく分からない。
 未練があると言えば、その前に清美と同時並行で付き合っていた茉美の方だ。電話オペレーターの彼女の声は特別気に入っていた。気が弱く、自分の意思をはっきりと言わない彼女が物足りなかったのに、別れた後、落ち込んでいた彼女が心配で電話をかけてみた時に言われた「もう大丈夫だから、電話してこなくていいよ」という言葉が、逆に私の心に突き刺さっていた。
 つまり、私は単純に子供だったのだ。大学時代は、2年もダブっていたので、年下ばかりに囲まれて、しかもキクちゃんに影響されて、かなり大人になった気分でいたが、実際はそうでもなかった。

 社会に出てから暫くは、(そのうちキクちゃんに会いに行こう。)と思っていた。銀行の同期の女子とも仲良くなって、その娘がたまたまキクちゃんとよく飲みに行っていた界隈のマンション暮らしだったので、キクちゃんに会えないかと周辺の店を紹介がてら、一緒に飲みに行くようになり、成り行きでその娘のマンションに泊まるようなこともあった。
 でも、その後、知子との仲が復活して、その他の女性関係はすべて清算した。それで、キクちゃんのことも忘れてしまおうと心に誓ってしまった。

 銀行で働きながら、時間を見付けては、山戸さんの成功塾にも通っていた。
 その人の広い自宅の敷地には、リゾート地のホテルを思わせるような個人事務所があった。個人…と言っても小学校の教室ぐらいの会議室もあるような建物だったので、ビジネスセミナーやカルチャースクールが開催されたりもしていた。
 普段は、事務所スペースのソファで、十数人がまさにビジネスの話をしていて、その中で、自分にできることがあれば、互いに協力し合って、何か面白いことをやってみようというミーティングが行われていた。ざっくばらんな雰囲気だったが、皆の手帳やノートを片手に交わされる内容は真剣なもので、そんな事を与太話ではなく、現実化しようと話し合っていることに興奮した。
 私は絵が得意だったので、誰かがオープンさせるカフェのデザインを提案して採用されたり、その場に参加していた開業医の治療に訪れる患者の車を、診察中に洗車しておくサービスなども提案し実施された。バリ島に土産屋をオープンさせたこともあった。そのために山戸さんと二人で1ヶ月もかけて、周辺の島々を放浪し、工芸品の買い付けを行ったりした。こういう海外のビジネスにはよく同行させてもらった。英語を習得しておいてよかったと思う。
 それらのビジネスプランを雑談のように話してプレゼンし、有望な案には、出資者まで募ることができた。それで得た利益の一部を、権利的に発案者も貰えるというようなシステムが出来上がっていたのだ。