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ホワイトアウト

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 ホワイトアウト



 3月も半ばだというのに、春の温もりはどこへやら。暗雲が垂れ込めた空から冷たい雨が降り、傘に当たる音までもが重苦しく感じる。
 雪が降ってもおかしくないような寒空の下、学校からの帰り道を身を縮こませて歩く私の胸の中は期待よりも不安が渦巻いていた。隣をズンズンと進む岡野久信がバレンタインデーという行事をあまり良く思っていないのは知っている。毎年、クラスの女子からの義理チョコをことごとく断っていたのを見てもそれは明らかだった。ましてやバレンタインより歴史が浅いホワイトデーなど問題外だろう。
 でも、私が渡したのは手作りの本命チョコだ。昨年の冬休みから私たちは交際を始めていて、だからこそ彼も私のチョコだけは受け取った。貰ったのならお返しをするのが筋ではないでしょうか?
 別に気の利いたプレゼントを期待しているんじゃない。高級スイーツとかお洒落なアクセサリーとかそんな物が欲しいわけじゃない。探すのが面倒ならコンビニで売っているクッキーでもいいんだよ。
 傘を少し後ろに倒して右前方を見上げても岡野は気づかない。いつもより足早に歩いている彼に話しかけても、いつにも増して無愛想な返事。
 もしかしたらホワイトデーの贈り物が無いこと自体が彼のメッセージなのかも知れない。思えば、私の告白から始まった交際後もこうして一緒に帰ったり休日に出かけたりするくらいで、実は手を握ったことすらなかった。高二でこれは客観的に恋人同士と言えるのだろうか。本当は付き合ったことを後悔しているんじゃないだろうか。
 すぐ横にいる彼との距離が一気に途方もなく開いていく気がして眩暈がした。カレンダーに印をつけて密かに楽しみにしていたのに。ホワイトデーを機に『関係を白紙に戻す』なんてシャレにもならない。
 突き当りの分かれ道で立ち止まった岡野を睨みつけると、突然その顔が眼前に迫って来て視界を遮り、初めての感触に私の頭は一瞬で真っ白になった。
作品名:ホワイトアウト 作家名:大橋零人