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かき揚げ丼 フロンティア

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かき揚げ丼
 かき揚げとは、野菜や魚介類を細かく切った具を、小麦粉の衣でまとめ、食用油で揚げた物。
 具を“かき”集め、“揚げる”ことからこう呼ばれる。
 日本料理の天ぷらの一種。
 かき揚げ丼は、かき揚げを飯の上に置き、つゆで味付けした物。

「……さん。南 士郎さん。よろしいですか? 」
 目の前の女性が、かき揚げ丼について説明しているようだ。
 僕は呆然としていた脳を何とか回転させ、頷いた。

 すごい美女だ。
 ショートボブにした茶色い髪は、染めた感じはしない。地毛なのだろう。
 大人びた切れ長の目には輝く黒曜石のきらめき。
 紺色のブレザー。白シャツに緑のスカーフ、紺の字にチェックの入ったスカート。
 穢れのない白い肌は、女子高校生の制服と合わさって、清らかな雰囲気をただよわせている。

 でも、どう見ても20代前半のお嬢様みたいな雰囲気だ。
 名前の後には必ず“さん”をつけよう。

 奇妙なことに、その顔には木でできた仮面をかぶっている。
 皮膚と木の間には、凹凸が全く見られない。
 左腕も、同じ柔らかなクリーム色の木材で作られている。
 義手なのだろうか。
 しかし、普通の人間の手のようにタブレットをつかんでいる。
 さらに奇妙なことに、背中からは羽が生えていた。
 その姿は、まるで天使だ。
 その羽も木製だった。

 奇妙な点と言えば、制服の胸にガムテープが張ってある。
 それに黒マジックでレミュール・ソルヴィムと書いてある。
 手作りの名札だ。

 僕は不思議な場所にいる。
 床は金属製。
 それが直径50メートルほどの円形に広がっている。
 壁も円形で、前後左右と上に向いた窓がある。
 立派な展望席だが、使っているのは僕たち3人だけだ。
 だが、窓から見えるのは灰色の煙。
 とても濃く、1メートル先も見えない。

 レミュールさんは、医者のように説明を続ける。
「脳には血液脳関門という、血液と脳の間にあり、血液からの有害物質を防ぐ門があります。
 ですが、この門をすり抜けて脳までたどり着く物質もあります。
 アルコール、カフェイン、ニコチン、抗うつ剤などです。
 あなたの場合は、夕食で飲んだ酒のアルコールと、夜中に眠気覚ましとして飲んだコーヒーのカフェインでしょう」
 緊張を感じさせない。
 本物の医者の様だ。
「アルコールにしろ、カフェインにしろ、普通の人間なら数時間で分解されててしまいます。
 ですが、異能力者の中にはこれらの物質を、脳の中でエネルギーに変換する人もいます」

 僕には、ちんぷんかんぷんだ。
 何か、重要な事を聞き逃している気もする。

「あの……」
 その時、声をかけてくる女性がいた。
 短く刈り込んだ金色の髪。
 身長は140センチほど。
 しかし体は大変鍛えられ、筋肉質。
 黒いワークキャップ。
 ひたいの部分には白い刺繍で、広がる2枚の翼が。
 黒いスーツとスラックス。
 デザインが違うが、これも制服のようだ。
 どこかの軍隊を思わせる。
 胸には同じような名札を付けている。
 サフラ・ジャマルとあった。
「異能力者について、もっと基本的なところから教えた方がいいと思います」
 その目には、僕への強い共感があった。
 
「失礼しました」
 レミュールさんは初めてしまった!と表情に浮かべ、謝った。
「異能力者とは、最もプレーンな物理では、起こらない現象を意図的に起せる人間のことです。
 あなたの世界にも概念は伝わってませんか? 超能力とか、魔法とか」
 
 それなら、わかります。

「そうですか。では、話をつづけます。
 今言ったように、あなたの脳には、アルコールやカフェインを異能力に変える能力があります。
 ですが、このようなことが起こったのは、今回が初めてだそうですね? 」

 ……はい。

「脳内の機能は、その時々の環境で、――熱さや寒さ、宇宙からの重力や星の並び――などで大分変わります。
 また、エネルギーだけあっても、それを特定の方向へ向けなければ何にもならない。
 その方向性を向けさせたのが、かき揚げ丼だと私は考えています」
 そして、タブレットを一度読み、話を続ける。
「あなたはアマチュア小説家だそうですね。そして、作品を書き上げるおまじないとして、かき揚げ丼をよく食べていた。
 “書き上げ“と”かき揚げ“。このダジャレにより、普段繋がらない脳細胞が繋がった。そこに異能力エネルギーが流れ――」

「待ってください。ちょっと記憶を整理させて……」
 ここは惑星スイッチア。
 惑星全体が宇宙戦争により荒廃して、ほぼ半世紀たった地球型惑星。
 サフラ・ジャマルさんはそこの惑星国家、チェルピェーニェ共和国連邦。略してチェ連の空軍に士官候補生で……。

 気が付くと、僕はタブレットをひったくっていた。
「あっ! 」
 レミュールさんの手が大きく弾かれ、叫びを上げた。
「レミュールさんに何を! 」
 サフラさんも叫ぶ。

 それらを無理やり意識の外へ押しやり、僕はタブレットを凝視……しようとした。
 だが、タブレットは、厚さ2センチほどのプラスチックと細かい金属の加工品は、僕の指の圧力に負け、粉々に砕け散った。
 ……何の圧力も感じなかった。

「レミュール! 」
 横から声をかけられた。

 声をかけたのは、身長2メートルはある大男。
 着ているのは紺色のブレザーに白いシャツと青いネクタイ。ブレザーと同じ色のズボン。
 レミュールさんと同じ学校の制服だ。
 胸の名札にはオルバイファスとある。

 だがその容姿は、高校生には見えない。
 30代半ば、男盛りの大人と言っても通用しそうだ。
 目には、どっしり構えた勇気と怒りが感じられる。
 僕には恐怖に変換される……。

「わたしは大丈夫です……」
 そう言ってレミュールさんは手を見せた。
 その木でできた手には傷一つなかった。

 様子を見て、オルバイファスさんは安心したようだ。
 そして僕に向き直り。
「ちょっと待ってろ」
 そう言って壁に向かった。
 そして、はめ込まれたキーボードを操作する。
 すると天井が、風船を膨らませるように広がり始めた。
 同時に、床がエレベーターとなって下がり始めた。
 壁のふちに床が輪っかとなって残り、内側からは柵が現れる。
 エレベーターは、たっぷり10メートルは下がって止まった。
 現れた壁も、きれいな木の板張りだった。

「これから変身する。離れてろ」
 これを聞いて、僕とレミュールさんは素直に従った。
 エレベーターの中心にオルバイファスさんだけが残る。
 彼の体から、光が放たれた。
 光は、数百のピストルを乱射したような音と共に、直径10メートルはあるドーム状に変わる。
 そして、まるでシャボン玉のように割れた。
 中から現れたのは、巨大な黒い巨人だ。
 巨人が機械音と共に立ち上がる。
 たくましい男性の姿をした、金属の集合体。
 身長20メートルはある巨大ロボット。
 それがオルバイファスさんの正体。

 その右腕も人間そっくり。
 と思ったら、手が腕に取り込まれた。
 そして、巨大な筒が飛び出した!
 明らかに大砲だ!