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ねこの兄弟

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ボクは、ねこです。名前は、ミケ? なんだと思います。
 もっと小さい頃に、真っ黒なにいちゃんと一緒に、このうちに引っ越してきました。
 だから、おかあちゃんの顔と、真っ黒なにいちゃん以外の兄弟の顔はほとんど覚えていません。
 引っ越してきてからも、あたたかくてふかふかしたものがあれば手で押してちゅうちゅうとしてみましたが、ミルクが出てこないのはさすがに分かるようになりました。
 ただ、そのあたたかくてふかふかしたものは、小さなご主人、毛の長いご主人と毛の少ないご主人で、おいしいものをくれたり、遊んでくれたり、とにかくよくしてくれました。
 真っ黒なにいちゃんも、いつもそばにいて、眠る時にもあたため合って眠っていました。
 だから、さみしいことはありませんでした。

 真っ黒なにいちゃんとボクがこのうちの探検をすっかり終えて、ドタバタと駆け回っていると、ご主人たちは、ボクたちのために小さな出入り口を作ってくれました。
 これのおかげで、ボクたちは、外の世界に探検に出るようになりました。
 茂みを抜けて、あぜ道を歩いて、ボクたちは、ボクたちとは明らかに違う、いろいろな動き方や鳴き方をするへんてこな生き物たちと出会いました。チキチキと音をさせて飛んでいく小さなやつもいるし、ウォーンとうなりながら走ってくる大きなやつもいるし、本当に、外の世界は驚きがいっぱいです。
 そういう中で、ボクにとって頼もしいのが真っ黒なにいちゃんです。にいちゃんのほうがボクより体が大きくて、強くて、すばしこいので、ボクはにいちゃんの後から付いていくばかりです。高い木や高い塀をよじ登ったのもにいちゃんが先だったし、広い側溝をぽんと飛び越えたのも、緑色のやつを持ち帰ってご主人たちをびっくりさせたのもにいちゃんが先でした。
 にいちゃんは、ボクの自慢のにいちゃんなのです。
 にいちゃんもボクも仲良しで、ご主人たちのことが好きで、ボクは、こういう日々がずっと続くのだと思っていました。

 それなのに、ある日突然、ボクのとなりからにいちゃんが消えました。
 あのにいちゃんだから、あの出入り口から、パタパタと空へ舞い上がっていくあのチュンチュン言う憎いやつをとうとう捕まえて帰ってきてくれるんじゃないか、と思ったりもしているのですが、毎日空気が冷たいのに、ボクのとなりににいちゃんはいないままです。
 にいちゃんが消えた頃、小さなご主人と毛の長いご主人が目から水をぽろぽろこぼしてワアワア言って、ボクを抱きしめたことがあります。あんな奇妙なことはたった一度きりしかないのでよく覚えていますが、あれが何だったのかは分かりません。
 大きくて強いにいちゃんは、長い長い大冒険に行ってしまったのかなあ。それとも、ボクたちがこのうちに来た時のように、どこかにもらわれていったのかなあ。もしかして、もっといいご主人たちに出会って、もっとおいしいものを食べて、もっとあたたかい寝床で眠っているから、もう戻ってきたくないのかなあ……
 とにかく、本当のところは分かりません。ただ、元気でいてくれればなあ、と思います。
 そして、またいつか会って、大冒険の話やおいしい食べもののことを聞かせてほしいです。
 その頃には、ボクも強くなって、にいちゃんが自慢できる弟になっていたいです。
 それでは、そろそろ眠ります。おやすみなさい……にいちゃん。

【完】
作品名:ねこの兄弟 作家名:Dewdrop