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Plin

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「もしもし、田中だが……明日なんだが、ライブハウスのチケットがあるんだ、一緒に行かないか?」
「お前がライブハウス?ジンバブエでデフレが起こるんじゃないか?」
「まあ、話せば長くなるんだが……」
「そいつはぜひとも聞きたいな、俺は今夜、野良猫並みにフリーだけどさ、お前は?」
「俺も特に先約はないよ」
「鎖で繋がれてはいないみたいだな、だったらどこかで会わないか、久しぶりに一杯やろうぜ」
「ああ、9時にいつものバーでどうだ?」
「いいね、東京は平穏すぎて却って落ち着かないんだが、穴倉はまた別さ」

 田中は四十歳になる弁護士、身長こそ人並みだが、高学歴、高収入、しかし、あまりに多くの離婚訴訟を手がけて来たせいか、未だに独身だ。
 電話の相手は戦場カメラマンの宮川、高校時代の同級生だ。
 彼は世界中の紛争や飢餓で苦しむ地域をカメラに収めて廻っている、ユーモアセンスに溢れ、チョイワル系でそこそこイケメンでもあるが、旅が多く危険も伴う仕事なのでやはり妻帯はしていない。
 理論派で沈着冷静な田中。
 感性と行動力の宮川。
 好対照な二人だが、なぜか気が合い、宮川が日本に舞い戻ってくる度に一度は飲んでいる、宮川は冗談抜きに喋る事ができないのではないかと思うほどに、必ず余計な一言を付け加えるのだが、普段相手の言葉尻を掴むことに神経を尖らせている田中にはむしろ心地良く響く。

「おう、田中、こっちだ」
「すまん、30分遅れた、今日中にどうしても目を通しておかなきゃならない書類があったものだから」
「野良猫は時間なんて気にしないさ、途上国へ行けばスケジュールどおりに事が進む方が珍しいくらいだしな、ましてバーカウンターでなら何時間でも待つさ」
「しかし遅刻は遅刻だ、今日の分は俺の奢りにさせてくれ」
「そいつは嬉しいね、人から情報を引き出すには酒を奢るのが一番なんだよ、もっとも、今夜は立場が逆だけどな、昼間はお前がライブハウスとか言い出すから危なくコーヒーを噴出すところだったぜ」 
「ああ……だろうな……おれ自身戸惑ってる」
「お前が? お前も戸惑うことなんてあるんだな、どうした? 鶏が蛇でも産んだか?」
「問題のライブハウスなんだが、依頼人が出演してるんだ」
「へぇ、ミュージシャンからの依頼を引き受けたのか、お前の価値観がひきつけを起こすんじゃないか?」
「正確には国選弁護の仕事だったんだが……」
「ああ、それならわかる、ミュージシャンとお前の取り合わせは想像しにくいからな」
「反論できないな……俺も最初に面談した時は戸惑いっぱなしだった」
「ほう?」
「弁護のやりようがないんだ」
「黒豹みたいに真っ黒な奴なのか?」
「そうじゃない……それに、『奴』じゃない、まだ21歳の若い女性だ」
「ヒュ~、ますます似合わないな」
「そう茶化さないでくれよ」
「ああ、すまん……で? その黒猫ちゃんはなんて名前なんだ?」
「中村由子、歌手としてはプリンと名乗ってる」
「プリン? なんだか甘ったるい芸名だな、地下アイドルとかいうやつか? ヲタクが血道を上げそうな」
「いや、ロック歌手だよ、ジャニス・ジョプリンと言う歌手に憧れてるそうだ」
「ほう、ジャニスか、懐かしい名前を聞いたな」
「有名らしいな」
「ああ、伝説級だよ、1970年に死んでるが、ブルース・ロックで彼女を越える女性シンガーはまだ出ていないんじゃないかな、魂のシンガーさ、俺もリアルタイムで知ってるわけじゃないからライブを聴いたことはないんだが、もしタイムマシンがあるならぜひライブで聴いてみたいシンガーさ……俺もそのプリンちゃんに興味津々だね、それで、彼女の容疑は?」
「覚醒剤取締法違反だ」

   ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪

 田中が初めてプリンこと中村由子に面会したのは警察でだった。
 ロック歌手だと聞いていたので反抗的で不躾な娘を想像していたのだが、実際に会った彼女からは反抗的な印象は受けなかった、礼儀正しいというわけでもなかったが……。
 拘留中とあって表情は固いものの、その顔立ちは『もし笑顔だったら愛嬌があるだろうな』と思わせるもの、態度も投げやりなものではなく、椅子にきちんと腰掛け、真っ直ぐに田中と向き合っている……。
 半分拍子抜けしたような、半分ほっとしたような気持ちで名刺を差し出した。
「君の弁護をすることになった弁護士の田中です、よろしく」
「あたし、名刺持ってないんだ、ごめんなさい」
 丁寧語は使えていないが、常識はわきまえているようだ、すんなりと謝罪の言葉が出てくるのは素直な証拠だろう、印象としては悪くない……。
「でも、先生、あたし弁護士なんて要らないよ」
「そうは行かないのが法律なんだよ、だから国選弁護士という制度があるんだ」
「先生、ハズレくじ引いちゃったね、あたしなんかに当たっちゃって」
「どうして?」
「だって、覚醒剤持ってたし、やったもん、別にそれを隠そうとも思わないんだ」
「ああ、現物も持っていたし、検査で薬物反応も出てるから否認はできないな」
「でしょ? 人に迷惑かけたわけじゃないし、悪いことしたとも思ってないんだけどさ、法律違反なのは知っててやったんだからしょうがないよ、牢屋から出て良いって言われるまで入ってるから、それでいい」
「それだと私の仕事がないんだけどな」
「うん、だから要らないんだ……口の利き方悪くてごめんね、先生を拒否しようとしてるんじゃなくてさ、せっかく弁護してくれようとしても必要ないんだ」
「まあ、でも少しは仕事をさせてくれよ……覚醒剤は貰ったんだろう? バンド仲間に……買ったんじゃないよな?」
「うん、貰った、あんな高いもの買えないよ」
「どうしてくれたんだろうな? 君の言うとおり安いものじゃない、他に売れば良い金になるのに」
「あたしが欲しいって言ったから」
「それだけってことはないだろう?……でも、そうだな、どうして欲しいと思った?」
「ジャニスがやってたから」
「ジャニス? それは誰だ?」
「ジャニス・ジョプリン、知らない? 有名なロックシンガーだよ」
「あいにく知らないな……そのジャニスに憧れてるのかな?」
「そうだね、あたしのアイドルだし、目標なんだ」
「なるほど」
「ジャニスが経験したことは経験してみたかったんだ、でもさ、やってみて、やっぱジャニスもシャブをやるべきじゃなかったと思った」
「どうして?」
「シャブやれば、なんて言うかな、こう……何かが降りてくるんじゃないかって思ったけど違った、気持ちがあちこちに飛んじゃってまとまらないんだ、却って良くなかった、それにジャニスはシャブのやりすぎで死んだんだし」
「そうなのか……つまり君もバンド仲間も、君が覚醒剤を使った時にどんな風に歌うようになるか興味があった、そういうことかな?」
「そうだね」
「わかった、それはそれで理由になると思うね、ただ、まだ弱い気がするな」
「弱い?」
「理由はそれだけじゃないんじゃないかとね……こう言っちゃなんだが、バンドの中で君は唯一の女性だからね」
「アハハ、わかった、先生も結構エッチなんだね、当たりだよ、シャブをキメてセックスしようぜって、好きなだけヤラせるならただでやるって言われたよ」
作品名:Plin 作家名:ST