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人生初チョコ

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バレンタインデーの下校時刻、とある高校の下駄箱にて。
「な、何だよこれ……」
 Nは左手で顔を覆った。
「何だよ早く俺にも見せろよ」
 Mが急(せ)かして、Nがぶっきらぼうに右手で手紙を突き出す。
「どれどれ……ぷっ!」
 そこには、こう書かれていた。

    これは、不幸のチョコです。
    今日中に、他の男性100人にチョコを配らないと、
    あなたはとんでもなく不幸になります。

「ぎゃははははははは!」
「女の子が書いた字みたいなのに……おい、笑い過ぎだろ……」
 Nが、不満げにMを見る。
「ぎゃははははは! さっきドヤ顔したお返しな!」
「俺人生初チョコだったのに……」
 M、やっと笑い終える。
「ふう……でさて、どうする? 配るのか? あ、俺には配らないでね」
「つ、冷たい……つーか、誰にも配らねーよ!」
「おお」
 靴を履き終え、ふたりとも歩き出す。
「俺はこういう迷信は一切信じん」
「おまえの数少ない取り柄の一つだな」
「俺を知らない読者様が誤解するようなことを言うなよ。ともあれ、普通においしくいただくぞ! チクショー!」

    *    *    *

 翌日、校内の廊下にて。
 背中を突っつかれてNが振り返ると、そこに女子のAがいた。Nとは時々じゃれ合う(?)仲である。
「ねえ、昨日『不幸のチョコ』もらったんだって?」
 Aが、楽しそうに尋ねる。
「まあな」
「他の男性100人に配ったの?」
「まさか。面倒くさいじゃん」
「少しは気味悪がらないものなの?」
「つーか普通に食べたよ。未開封だったし、賞味期限も大丈夫だったし」
「へえ~」
 Aは、ヘンに感心した様子でNの顔を見る。
「……ねえ、Nが半年ぐらい前に、『Aみたいなわがままな女と付き合うやつは不幸』って言ったの覚えてる?」
「……ん?」

 こうしてN君は、Aさんの当初の計画通り、無事不幸になりました。
 めでたし、めでたし(?)。

【完】
作品名:人生初チョコ 作家名:Dewdrop