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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編

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因縁の家



寒い朝も、朝練中は意識の外だ。感覚を研ぎ澄ましている間は寒さも知覚しない。射場を出たところでようやく寒さを自覚し、瑞(みず)は冬の到来を思う。十一月に入り、急速に気温が下がっている。弓道場のストーブは古く、かじかんだ手を温めるくらいしか役に立ってはいなかった。

「あれ、郁(いく)は?そろそろ着替えないと授業始まるよ」
「まだ引いてる。先に行ってってさ」
「そっか。ほんと頑張ってるね。無理してないといいんだけど…」

授業へ向かうため片付けを始めている部員たちに構うことなく、一心に弓を引いているのは一之瀬郁(いちのせいく)だ。
弓は、簡単に引いているように見えるが、四本射るだけでも結構消耗する。それはひとつひとつの動作に丁寧さや正確さ、それらを正しくつなげることを求められているからだけでなく、集中しているため精神力も要するからだと瑞は思っている。何度も何度も続けて射場に立つのは、ひどく疲れるし徐々に集中を欠くものなのだ。しかしいま、郁は気持ちを乱すことなく幾度目かの射に入っている。疲れは見えず、かといって苛立ちや焦りがあるわけでもない。

「肘、意識して。下からすくいあげるようにして、打ち起こし」
「はい!」

主将の伊吹が、郁の後ろで指示を出している。
郁は夏の終わりから、早気に悩んでいた。自分の意思に反して矢を離してしまうのだ。しかしずっと根気強く射形を正しく意識し、そばで誰かに見てもらいながら引くことを繰り返していた。

「五、数えて離れ。いち、にい、さん、し、ご。離れ」

伊吹のカウントに合わせて、郁が矢を離す。

(すごい、会がもてるようになってる…。まえは三秒が限界だったのに)

確実に早気が改善されていることに、瑞は驚いた。いや、驚くべきことではないのかもしれない。彼女が努力を重ねているのだから当然なのだ。すごい精神力だと思う。早気で思い悩み、中学時代に弓道をやめてしまった友人もいた。あきらめない心を、彼女は強く持っているのだろう。