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紫陽花

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[古手刑事]



鉄格子が嵌め込まれた、窓
中央に事務机とパイプ椅子が置かれた、簡素な部屋

窓辺に立ち続ける古手刑事は、取調室が苦手だ
拘束され、取り調べを受けるのは自分ではないのに、何故
自分はこの部屋に強い閉塞感、強い切迫を感じずにはいられないのか

年年、酷くなる

疚しい事などないのに
疚しい事などある筈ないのに

梅雨の晴れ間は短く、再び、降り出した針のような細かい雨に
鉄格子越しの中庭の植え込みが、湿る
白み、青み、紫み、赤み、色取り取りの紫陽花が煙霧に煙る

彼此、どのくらいの時間このままなのだろう

事務机に陣取る、若手刑事の戸惑いが分かる
古手刑事の背に困却する、若手刑事の視線が注がれる

どうする
ここぞとばかりに、この取調室から脱するか
そうして辛抱強く待つ事も刑事の仕事だ、と吐かすか

下らない、思わず古手刑事は苦笑いする

疚しい事などないのに
疚しい事などある筈ないのに

だが、本当にそうだろうか
本当に、疚しい事がない人間がいるのだろうか

法に触れなくとも、罪に問われなくとも
何かしらの後ろめたさ、後ろ暗さがあるのではないのだろうか
それは、刑事とて例外ではない筈

何がそんなに疚しいんだ

古手刑事は自問自答するも直ぐさま、降参する
もう随分、思い迷った
もう随分、思い惑った

それでも分からないんだ
だから、苛苛しい

正直、居合わせる刑事達に泣きつきたくなる
笑われても構わない

誰か、答えを知らないか
誰か、答えを教えてくれないか、と

作品名:紫陽花 作家名:七星瓢虫