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酒呑み

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三カ月経つと病院も置いてくれないから、別の病院を探しながら。
なんとか置いてもらえる病院を探してさ。

もうね、アトはないんだ。
私はね。考えたんだ。
勿論医者や看護婦さんには内緒だ。
毎日体を拭いてやることにしたんだ。
元々細い人だったけどね、見る見るうちに痩せていってしまって。
肋骨が透けて見えるほどだ。
タオルで体を拭いてやったんだ。
顔を拭くときはガーゼで拭いてやってんだ。
口元を拭くときは・・ガーゼにお酒を含ませてね。
看護婦さんも気づくわね・・アルコールの臭いがプンプンするんだから。
でもお構いなしさ。
そうするとね。
ただですら長い顔が長く伸びるんだ。
そして半年間見せたことのないような笑顔を見せるんだ。
わかるんだねぇ・・。
眼も開けないくせにさ。
お酒はわかったんだ・・。」

叔母の話を聞くと涙がこぼれてきた。
約9か月決して短いとは言えない病院での闘病生活。
享年81歳。叔父貴は永眠した。
未成年の私に日本酒の味を初めて教えてくれた叔父貴。
「塩さえあれば酒を呑める」ひとだった。
流石に肝臓を悪くして、でもいきなり全面禁酒は帰って危険だということで
医師からも量を減らしなさいと云われて。酒をスポーツ飲料で割って呑んでいた。
「要するに”酔う”ことが好きだったみたいですよ。もっと云えば”酔っている自分”に酔っていた_。」
御子息である従弟はそう云う。
だが馬鹿な酔い方はせずに、黙々と酒を愛でていた。

「いいかぃ、酒は楽しく呑まなきゃいけないよ。ヤケ酒なんてな御免だね。」

そんな叔父貴の言葉が思い出された。

葬儀場での出棺の前、最後のお別れ。
叔母は日本酒を含ませたガーゼで口元を拭いた。
誰もが最後の笑顔を見せるか期待したが、叶わなかった。

葬式からの帰り道。
黒いネクタイを外し、ワイシャツのボタンをふたつはずし。
「あぁ会社帰りのね、電車に乗る前にさ、駅の売店でワンカップ買ってさ、グイとやるのが一番うまい。
シラフでなんて電車なんか乗れるかよ。」
そんなことを云ってたな、叔父貴。
今ではそうは観ないが以前はそういうサラリーマンはよく見かけた。
当時サラリーマンになりたての私らにはマネしちゃいけないよな・・という雰囲気があって。
実際先輩諸氏にもそういう方はいた。だがなんかみっともない。そう思っていた。
それは私だけでなく世間的にもそうだったのか・・よくわからないがホームの売店で見ると
ワンカップの酒は売ってなさそうだった。

自宅の最寄り駅までなんとなく戻ってきた。
だがこのままでは帰れない。そんな気がして。
改札を出て駅前の酒屋も店主が高齢で閉店してしまった。
今では煙草の自動販売機だけが置いてあるだけだ。
その脇のコンビニに立ち寄ってそこでワンカップの酒とアタリメを買った。
駅の改札横で呑んでみた。
喉に染み入る日本酒が一気に全身に広がっていくのが解るほど強烈だった。
なにかとても寂しくなって涙が溢れたが、駅前だから。みっともないじゃないか。
ハンカチで拭うと、もう一口呑んだ。

・・・ヤケ酒なんてな御免だね。

続けて呑んだ。そして呑みきった。
酔いが全身に回ってゆく。
すると世の中が桜色に見えてきた。

・・・つまらないことばかり考えるんじゃないですよ。
・・・つまらないことがあったら呑んで忘れちまえばいい。

耳元で叔父貴の声がした。

「な。うまいだろ!」

振り返ると、電車がホームから走り出すのが見えた。
だが叔父貴の姿は見当たらなかった。
作品名:酒呑み 作家名:平岩隆