小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

それから(それからの続きの続きの続き)

INDEX|1ページ/6ページ|

次のページ
 
それから(13)  さよなら 決めた  



待つ事20分あまり・・、オヤジさんが、事務所に顔を出した。
立ち上がる俺。
それを見て、
「ああ、(そんなに改まらなくても)ええけん・・」
と、手で制しながら、俺を社長室兼、応接室へ招く。

オヤジさんは、俺にソファーを勧め、自分は、机の脇で何かの書類を見ながら、最近の仕事の様子とか世間話を始める。
間もなく専務も部屋に入って来て、俺の向かいに座る。

「ところで、ABの社長から聞いてくれたか・・?」
オヤジさんは、専務の隣に座ると、俺に訊いた。
「はい、一応、聞くには、聞きましたが・・」
「どうじゃ? うちに来てみんか?」
「・・なにしろ、急な話で・・。それに、この会社なら、俺なんかよりもずっと有能な人が、働きたいと言うのでは・・?」
「うん、まあ、それは、そうじゃが、こっちとしても、働きたいと言われただけで、はいそうですかと誰でも採用する訳にも行かん。」
そう言いながら、オヤジさんは、数枚に綴じられた書類の様なものを差し出した。
俺は、それを受け取り、表紙に書かれた文字を追う・・
「・・・すまんな、悪いと思うたが、ちょっと調べさせて貰うた。」
その言葉を聞きながらページを捲る・・
「・・」
「・・・」
其処には、俺の出生から現在までの生きて来た軌跡が、かなり細かく書かれてあった。
「・・(何故、ここまでするんだ・・)」
そう思いながらも、同時に、調べようと思えば、他人がやってもこれほど細かく調べられるんだなと、ある意味感心した。
オヤジさんは、ゆっくりと話し始めた。

「今でこそ、そこそこ知られてはおるが、この会社は、此処に居る専務と他に二人、そして、わしとの4人で始めた小さいものじゃった。
4人、力を合わせて、苦労に苦労を重ねて、やっとここまで大きゅう(大きく)なった・・
大きゅうは成ったが、それは、外から見てだけの事じゃ・・。重機や他の設備も増えて、従業員も、それなりに大勢になった。じゃが(だけど)、中味は、この仕事を始めたばっかりの頃と何の変りも無い。
重機設備などは、年々、性能のええものが出来るけん、それなりに仕事も楽になるし、施主さんにも満足して貰えるけん、資金繰りさえしっかりしとれば、そうそう問題は無いんじゃが・・
いちばんの問題は、人よ。
大きゅうなる程に、付き合う相手(会社)も大きゅうなる。その大きい会社の方々と互角に話しが出来る様にと、うちも大卒を採用しよう言うて、募集はしとるが、採用出来たのは、今までに2人だけじゃ。そのうちの一人は、すぐに辞めてしもうた。残りは、みんな高卒と中卒・・。中には、高校を退学になった様な者も何人か居る。
わしと専務は、この数年、人材の確保という面で頭を痛めとった。人は、機械と違うて、なかなか思い通りに行かんでな。
そういう中で、さんばんくん・・、あんたが足場板を担ぎだした話を聞いて、どうな人間か、ちょっと見ちゃろうと思うて現場に行った。
わしが、『あんた、足場板を12枚も担いで出たんで。』と言うた時、どう応えたか覚えとるか?」
「はい、たぶん、重かったとか、肩が痛かったとか・・」
「肩が痛かった じゃ。わしは、その応えと、その時の、な~んも遣っとりませんで という様な表情を見て、あんたという人に興味を持った。おまけに、担ぎ出した板の枚数も数えんと(数えないで)帰ってしもうたそうな。
この業界の普通のバカなら、遣った事を吹聴して廻るじゃろうが、あんたは、次の日にゃ、そんな事が有ったんですか?という様な顔で、仕事を続けとる。
更におまけに、あんたの腰巾着の・・、あのちょっとばかり根性の有りそうな顔の・・」
「賢治ですか?」
「おう、その男の事を知っとるんが、同業に居ってのう・・『あいつは、××の金融屋の焦げ付きを回収して廻っとった奴ですよ。』と、教えてくれたんよ。そこで、わしは、その賢治とかいうのをこっそり呼んで、あんたとの繋がりの経緯を(いきさつ)を聞いてみた。
まあ、あいつは、ペラペラとよう話すのう・・。
あいつの話を聞いて、またひとつ、あんたと言う人間に興味を持った。
それで、ABさんに、それまでに経験のない工事を遣らせたら・・と、半分は、工事が行き詰まる様なら、うちが、すぐに引き継げばええと思うて、岩盤掘削を頼んだんよ。まあ、これが出来る様に成りゃぁ、ABさんも幅が広がるし・・。
じゃというても、初めての工事を任せ切りにするんも酷な話じゃけん、岩盤掘削では、うちで一番の経験者のC(Cさんは、創業時の4人の一人)に、最初だけ行って見る様に言うたんよ。
それから暫くして、Cが、わしと専務の二人に、『あの現場は、もう、わしが行かんでもええですよ。』と言うて来た。『どうしてなら(何故ですか)?』と訊いたら、
『いや、もうびっくりしましたで・・。あの、さんばんというんは、何者ですか? ほんまに(本当に)もう・・、初めて掘る岩じゃというのに、此処をこの向きで矢を当てりゃぁええとか、この出っ張りは、斫ったらいけん(斫ってはダメ)とか、言うとるんですわ・・。それが、また、判断の一つひとつが、わしの思うた通りで、最初こそ苦労しとりましたが、ある程度の深さになったら、ほんまにスイスイ掘って行くんですわ・・。それで、わし、どうして石の目が分かるんなら? いうて訊いたら、あいつ、さあ・・よう(よく)分かりません、ただ、何か岩が話しとる様な気がするけん とか、訳の分からん返事をするんですわ。岩が話しとる・・なんぞ、わしが、10年、15年掛けて、やっと感じた事を、ド素人のあいつが、平気な顔をして、小癪な事を言うんですわ。・・じゃが、落ち着いて考えてみたら・・、あいつは、生れつきの何かを持っとりますで。』
と、半分自信を失う(無く)しそうな顔で言うたんよ。
わしは、あんたが欲しゅうなった。じゃが、あんたは、ABさんの従業員。このままあんたが、ABさんに居る限り、其処に発注すりゃぁええとも云えるんじゃが・・、どうしても、あんたが欲しいという気持ちを捨て切れんかった。
うちが、生き延びて行く為の、ひとつの売りが、岩盤掘削。Cも、そろそろ定年を迎えるし・・、そうかというて、Cの後釜は、なかなか育たんし・・
と、その中で、専務が、あんたの事をちょっと調べてみたらどうか? と言うて来た。
その理由は、あんたが、どうしてこの地に居るんかという事じゃ。普通、この地に腰を据える気なら、広島弁に染まってくるじゃろうに、あんたは、何時までも関東の言葉を使うとる。いずれ、関東に帰る気なら、うちに呼んでも、何の為にもならんけんのう。
専務は、そういう細かい処まで考える人じゃけん・・
それで、無断で悪かったけど、調べさせて貰うた。あんたの素性は、大体分かった。ただ、フィリピンへ長いこと(長い間)居った時期は、調べられんかったけど・・