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魔獣戦線―流山悠香のある日の行動

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前半



 「『龍神教団』?」
 悠香はどこにでもありふれていそうな名前に眉を顰める。悠香の反対側に座っている金髪碧眼の男性は肩をすくめた。
 「そうそウ。シンプルで気楽だよネ」
 ここは喫茶店だ。但し、闇のものしか入る事が出来ない。正確に言うと常人でも入れない事は無いのだが、その無意識のうちに受ける居心地の悪さに大体が退散するはめになる。ここに居着くのはよほど肝が太いか何かが鈍いか……まあ、そう言う場所なのだ。
 何故ならここは闇のものがたむろして一時の安らぎを得る場ともなっているからだ。ただ、ここに屯するのは専ら血の気の少ない者たちだ。
 血の気の多い者はマスターや常連客によってすぐに処理される事は、ここの存在を知らされた者なら大体は知っている事実だ。元より常人では無意識に抵抗や違和感を覚える雰囲気なのだ。余計な揉め事は無いに越したことはない。
 そしてここであった事は余程の事で無い限り秘するのが決まりであり、マスターも犯罪行為でなければ見なかったこと聞かなかった事に出来る人物であった。
 悠香は個人的な依頼を受ける際にここを指定された事でその存在を知り、以後悠香もここを何度か利用していた。そして、今日もまた利用しているというわけだ。今日のは依頼というよりは……胡散臭い、情報の取引のようなものだが。
 「資料を見る限り本拠地は中国らしいが」
 そう言いつつ、悠香は用意された資料をたぐる。およそ日本に居る悠香に関係ある事には思えないが、もしかするとこれから裏付け調査が必要になるかもしれない。要点をしっかり頭に叩きこみつつ、目の前の男に問うた。
 すると、男はあっさりと答えた。
 「まあ『本拠地』はネ。この前潰れタ」
 「……潰れた?」
 金髪の男、ジョージ――恐らく偽名だろう――はそううなずき、一枚の写真を取り出した。遠くから撮影したもののようだが、人の顔が見えるくらい鮮明に写っている。
 「この写真は本物か?」
 ジョージはカメラを取り出してみせる。古いカメラのようだが、それだけではない雰囲気がかすかに漂っている。
 「お望みならネガ、確認すル?」
 (成る程、魔術を付与した魔道具か)
 悠香はそれで納得した。何故ならこのジョージという男は錬金術師兼呪術師を名乗っており、悠香もこの男が「そこそこ出来る」事は知っていたからだ。
 悠香が逃げる依頼目標を追って日本から中国、そしてヨーロッパ辺りまで延々と追いかけっこを繰り返していた時に、敵として立ち塞がった事があったからだ。
 尤も悠香はこの男を悪党とはなんとなく思えなかった為、手持ちの道具はことごとく破壊した上で死なない程度に加減してぶん殴って気絶させ、昼間人通りがある場所で且つ比較的治安のよさ気な場所に転がしておく程度で許したのだが、何をどうやったのかこうして悠香の前に再び姿を現していた。
 (当人曰く惚れたと言っていたが……まあ、目的が何にせよ日本語で応対できるだけすさまじいな)
 と悠香がのんびり考えているうちに、問題は解決したと判断したジョージはどんどん説明していた。
 「中国の政府にテロ計画がバレてネ。本拠地は潰れタ。でも、こいつら極東アジアのあちこちに拠点あル。日本にもあル」
 「で、この写真とどう関係が?」
 「この写真の中央の男」
 ジョージがとん、と指で叩く。厳つい顔をしているが、日本人っぽい顔と言えなくも無い。
 「こいつが何か?」
 「今、日本に来ていル。神具である剣を持ち込んでいル」
 「なら空港なり港なりで取り上げられるんじゃないか?」
 悠香がもっともな疑問を呈すると、ジョージは首を振った。
 「どうも協力者がいるらしイ。それに剣と言っても、ノット金属製。古い呪具で切れ味も無イ。それに、この男と剣が揃わないとタダの玩具」
 悠香はその話の先を薄々察しながらも、一応問いかけた。
 「揃えば?」
 ジョージはごく真剣な瞳をしながら、獰猛に笑った。
 「人が死ヌ。それも大勢」
 

 雨降りの中。悠香は山道で一人の男と対峙していた。ワンボックスカーは大破炎上しており、複数名の男が倒れ伏せている。既に息は無いだろう。
 男はその手に白く、そして内から輝きを発する剣を握っていた。大きさは長身大柄の男をもってしても、多少片手に余る程度といったところ。
 悠香は肩で息を吐く。既に首から下は竜人化しており、顔も鱗が生えている。体内に反動が溜まりつつあるのを感じていた。
 男は八双に剣を構え、悠香の一挙一動をジッと見つめる。こちらもあちこちに傷を負っており、決して余裕のある状況ではない。
 二人がにらみ合い、数秒にも数分にも思える時間が立つ。二人の近くに雷が落ち……時間が動き出す。
 悠香が身体を屈め、地面に爪痕が残る程の爆発的な加速を見せる。男も八双の構えを一瞬にして上段にし、悠香に向けて神速で振り下ろす。だが、構え直した際に生じた僅かな隙が生死を分けた。
 無色の衝撃波がぐにゃりと悠香の右腕を捕らえ、あらぬ方向に捻じ曲げる。そして、悠香の右腕は粉々に砕け散る。だが。
 「うおあああああッ!」
 衝撃波と男の間に身体を滑りこませながら、左腕を勢い良く突き出す。男は返す刃を振るおうとしてうめいた。
 「ぬッ」
 悠香の右腕は既に失い。だが、バラバラになった悠香の右腕の代わりに焔の腕が生えており、剣を強く押さえ込んでいた。
 「馬鹿なッ」
 男は早口で呻く。直後に鈍い呻き声と肉を貫く嫌な音が響く。悠香は強く歯噛みしながら、その腕に掴んだものを握り潰した。そして、腕を通して男の身体に焔を染み渡らせる。
 「グググ、オオオ……」
 男は大上段に剣を構え、持ち直す。心臓を握りつぶされ、体中から急速に生命力を失いつつも……それでも、魔剣に従い悠香の脳天に突き刺そうとする。
 悠香は右腕で男の頭をつかむ。頭部は瞬く間に焔に飲み込まれるが、男は構わず剣を振り下ろす。
 そして、悠香の背中に突き刺さり……鱗を破って軽く突き刺さり、そのまま軽く表面をえぐり、悠香の後方へ投げ出される。男が途中で力を完全に失って前のめりに倒れたためだ。
 男の絶命を確認した後、悠香は左腕を引き抜く。
 砕け散った腕含めて傷が全て癒えてからゆっくりと人の身体に戻り……吐血を伴う激しい咳を繰り返す。咳をしながらも、悠香は白い剣を探した。
 自分の後ろにそれが転がっているのを見ると、悠香はポケットからハンカチを取り出し、柄の部分をハンカチ越しに持ち上げる。
 咳の落ち着いた悠香が剣を持ち上げると、金髪の男が……ジョージが近くの茂みから姿を現した。
 「オーケーオーケー。手はず通りにこっちヘ」
 ジョージは小脇に大きな容器を抱え込んでいる。悠香はその容器にそっと剣を差し込んだ。そしてすかさずジョージが容器の蓋を閉め、傍目にはそうと解らなくなる。そこまでやってジョージは大きく息を吐いた。
 「これでようやく安全に持ち運べル」
 「だが、これはどうする? お前がやれと言ったからやったが?」
 悠香はそう言って炎上する車と死体を指差す。ジョージはそれを聞いて人の悪い笑みを浮かべた。