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道化師 Part 4

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18


先に別荘に着いていた龍也が一海を連れ出せたと連絡が来た。
ミユキが俺や田所の怪我の事を知り、自分から兄の元に残ったと。
サクヤさんが龍也に一海だけでもその場から離れるように指示をだしていた。
「龍也とすれ違ってもいい頃だよね?」
まだ、向こうにいるのだろうか?
「向こう混んでるな、事故みたいだよ」
何気なく見た窓の外、路面には破片が飛び散り、黒く引きずった跡がついてる先にバイクが一台横倒しに、タイヤがまだ空回りしている。
俺の目はそのバイクに釘付けになる。
「車、止めろ!」
叫んでいた。体が震える。嘘だ、そんな筈ない。
俺の声に急いで路肩に止まった車から道路に飛び出した。
「ヒロ、危ない!どこに行くんだ」
車など目に入っていなかった。亮に抱き締められた体は、ガタガタと震えていた。
「ヒロ、お前どうしたんだ。何、震えてる?」
「龍也のバイク、さっき…俺のせいだ、俺が…」
「ヒロ、何を言ってるんだ?」
側にいたサクヤさんが、龍也のバイクって声を漏らし、事故があった方向に走り出した。
龍成も後を追いかける。
「俺も連れて行って、置いて行かないで」
縋り付く俺を亮は、道を渡るのは後だ、こちら側を行くぞと俺の手を引いた。
事故の場所に救急車やパトカーはまだ来ていない。バイクから離れた場所にサクヤさんが道路に屈み込み叫んでいる。その腕の中に血だらけの龍也と一海がいた。
俺は、龍也に触れようとしたが、二人を抱え取り乱したサクヤさんの姿が俺を拒んでいるようで触れる事が出来なかった。俺の立っている道路が二人から流れる血で染まって行く。
「俺が…龍也を…」
「亮、お前とヒロはミユキの所に行け、此処は俺が何とかする」
「わかった、ヒロ行くぞ」
「嫌だ、龍也を置いて行けない、嫌だ、離せ!」
パァンと耳に弾ける音がした。俺の前にサクヤさんが仁王立ちしていた。二人の血で染まった手で俺の頬は赤く染まった。サクヤさんに頬を叩かれ頭が真っ白になる。
「ヒロ、ミユキを助けるのは誰だ。何のために此処まで来たんだ。目的を、しなければいけない事を見失うな!」
さっきまでの取り乱した姿はなく、凛とした姿がそこにあった。
「サクヤさん、ごめんなさい」
それだけを言って俺は停めたままの車に亮と走った。頬を流れる涙を拭うことも忘れ、サクヤさんの言葉を噛み締めながら。

別荘の近くまで来た所で、安城と合流、俺の酷い顔に驚きを隠せないでいる。
「ヒロさん、その顔は…血じゃないですか、どこか怪我をしたんですか?」
ヒロの声も仕草も冷静なのに、瞳からは止めどなく涙が流れてる。
「大丈夫、俺のじゃないから、それよりミユキは?」
抑揚のない声で尋ねられ、ヒロのどこか歪んで壊れかけている姿に声が震える。
「誰も建物から出てないです」
「亮さん、俺行くよ」
俺の頬に二人の血が涙で滲んでる。止まらない涙、勝手に流れ出てくる。
亮はそっと袖で涙も血も拭い、抱きしめる。
「大丈夫だから、一緒にミユキを連れ戻すぞ」
別荘の鍵は開いていた。何処の部屋にも誰もいない。
「ミユキ、何処にいる。ミユキ…何処にいるんだぁぁ…嫌だ…何処なんだ…」
「安城、誰もいない、本当に誰も外に出ていないのか?もぬけの殻だ!」
亮が電話に怒鳴り、携帯を床に叩きつけた。
「ミユキは俺を置いて消えた…俺の事を…龍也もいない…一海もいない…俺のせいだ…俺が」
「ヒロ、しっかりしろ。建物から誰も出ていないなら何処かにいるはずだ。おい、ヒロ」
バタバタと足音が聞こえ、安城達が部屋に雪崩れ込んで来た。
「誰もいないってどういうことですか?間違いなく誰も建物から出て行く人は見てないです」
床に座り込みブツブツと何かを呟き放心状態のヒロ、安城は壊れたヒロの姿に愕然とした。
「この建物には地下室とかはないのか?隈なく探せ!」
今迄に見たことのない怒りの形相に駆け込んできた安城達は建物の中も外も散らばりミユキの姿を探した。しかし、どこにもその姿を見つけることができなかった。
「ここにいても仕方ない、引き上げる」
そう言うと亮はヒロを抱き挙げ、別荘を出て車にヒロを横たえた。
「ヒロ…」
亮の呼びかけにも反応を示さなかった。
「安城、悪いが運転頼めるか?」
「はい、亮さんはヒロさんの側に」
「すまんな、頼む」
車は別荘から離れていく。ミユキのいる別荘から…。
「亮さん、何処に行くんだ?ミユキが待っているのに、何処に、戻って車を戻してくれ!」
ヒロは亮の抱き締める腕の中で泣き叫ぶ。
安城はこんな悲痛な叫びを初めてだと思う。
山道から広い通りに出てすぐの所、パトカーが何台も止まっている中に茂を見つける。
「安城、車を止めろ」
窓を開けると、茂も俺たちに気づき車の側に駆け寄った。
「ヒロはどうしたんだ?」
「壊れて眠った。サクヤ達は?」
「壊れたって何があった?どいつもこいつも好き勝手しやがる。龍也達は近くの病院に運ばれたが…」
唇を噛み俯く首を横に振る茂に、病院のメモを貰い車を出した。
「サクヤさん達が病院って何があったんですか?ヒロさんの様子も普通じゃないし、亮さん!」
「安城、話すから安全運転で頼む」
そんな軽い言葉とは裏腹にヒロを抱きしめる亮は苦痛に顔を歪ましていた。
「龍也のバイクが事故った」
「亮さん、何を言ってるんですか?龍也さんは一海さんともう家に着いてる頃ですよ。嫌だな、そんな、嘘ですよね。嘘だと言ってください」
「嘘じゃない、病院に行ってくれ」
茂から受け取ったメモを安城に渡す。
病院の駐車場に着いたが、ヒロは眠っている。
「安城、ここでヒロを見ていてくれないか?俺はサクヤ達の所に行ってくる」
本当はヒロの側にもいてやりたいのだろう、ヒロの涙で濡れた頬を撫ぜる仕草は優しげで切なくなる。
「側にいますから、亮さん行ってください」
「あゝ、行ってくる」
エレベーターのドアが亮の背中を隠すのを安城は表情を歪ませ見送った。

案内所で部屋を聞き向かうが、サクヤにどう接すればいいのかわからない。魁斗に側にいて欲しい、こんな弱い俺の背中を押して欲しい。
エレベーターを降りたすぐ横の休憩所に龍成の姿を見つける。
「龍成、サクヤは大丈夫か?」
肩を落とし疲れた表情で目を瞑る龍成は、俺の声にそっと顔を上げ首を横に振る。
「龍也は無理だった。まだ、息はあったんだが、病院まで持たなかった。サクヤは今、一海についてる。一海も難しいと、今日、明日が…」
言葉を飲み込み項垂れる。
「涙を見せず、背筋を伸ばし前を向いてる。張り詰めた糸のような危うさだよ。俺は何も出来ない、サクヤに疲れた顔だ休めって言われ、こんな所に逃げ込んでるんだ。情けない男だ」
龍成のこんな泣きそうな苦笑いを浮かべる姿を見た事がない。
「ミユキは?ヒロと一緒なのか?」
龍成の隣に腰を下ろした亮もかなり情けない面をしている。
「いないんだ、どこを探しても。あの建物からは出ていない筈なのにいないんだ」
「安城達が張ってただろ、何故、見落としたんだ?馬鹿な、かき消えるなどあり得んだろう」
作品名:道化師 Part 4 作家名:友紀