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白と黒の天使 Part 4

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Episode.1


*****  愛されない子供よ!お前は愛を得るために何を捧げるというのだ
愛を得るために自分の何を犠牲にするというのだ
代価を払ってでも手に入れたい愛とは・・・******




高校二年の時、僕はある事件に巻き込まれ声を失ったけど、僕は不慮の事故だと思っている。
僕の行動が招いた事件、多くの人の心に僕は消すことのできない傷を負わせてしまった。
僕はその罪の代償だと思っている。
病室で目覚めた僕が何日たっても言葉を発しないことに不安になった愁は、泣きながら僕に声を聞かせてくれ、笑ってくれと懇願した。
僕は、そんな愁を見るのが辛く、必死で笑みを作り笑いかけた。でも、慰めの言葉を紡ぐことはできない。僕の声は愁のいる世界で生きることを選んだ僕への代価だから。

(枕元にあった紙に僕の声はもう消えたからごめん)
と書き愁に渡した。それを見た愁は病室を飛び出していった。急いで追いかけ愁が駆け込んだ病室には僕が許しを請わなければいけない人、佐々木がいた。
愁の手は佐々木の襟首を掴み悲痛な叫びをあげていた。
(駄目だ!愁にまで罪を、心に影を作らせては)
締め上げる愁の手に僕は手を添え、駄目だからと首を横に振り続けながら体を抱きしめた。
愁は佐々木から手を外し僕を抱きしめ、唸るように泣き続けた。ベットには呆然とした佐々木が座っていた。
僕は佐々木に何も言えぬまま愁を病室から連れ出し、僕の部屋に連れて行くしかその時はできなかった。
夕方に父が病室を訪れ、放心する愁を家に連れ帰ってくれた。その時、僕は自分が声がもう出せない事を愁が知り、佐々木に怒りをぶつけてしまったことをメモに書き渡した。
その内容に吃驚した表情を浮かべたが、深い溜息とともに普段の優しい笑みを僕に向けてくれた。
「友紀、声が出せないくらいで俺たちのお前への愛情は変わったりしないから。今もこれからもずっと愛しているよ」
幼き日、どんなに望んでも得られなかった家族からの無上の愛に僕は幸福に包まれ、この愛が離れていかないように、たとえ血の繋がりがなくとも僕の家族、いらないと言われないように自分を戒めようと誓った。

その後、僕は声が出ないだけで残りの高校生活に支障はないだろうと、そのまま学園に留まり、卒業できるように便宜を図ってもらえた。
広海は周と同じ大学に経済を、咲良は建築の部門の大学に、僕は光一さんの通った大学に、それぞれが自分の行く道を決め一歩を踏み出した。



ベットで眠る僕を覚醒させるには十分な日差しが窓から差し込んでくる。
今、僕は家族と暮らした家を出てこの春から一人暮らしを始めた。正確に言うと昨日までは一人暮らしだったなんだけど。
愁は僕がちょくちょく過呼吸を起こし倒れていることを光一さんから聞き、強引に一緒に住むことを僕に了承させた。
未だに体に残る恐怖は幼いころの記憶に重なるように僕を苦しめていたから。
ベットから抜け出しリビングに向かうとそこにはコーヒーの良い香りに満たされていた。
「友紀、おはよう。今日は午前中か?」
愁の問いかけに僕は手話で
『講義は午後はないから光一さんの所に行ってくるから、遅くなる。ごめん、夕飯はいらないよ』
「了解、光一さんに来週イベントが入ったから協力よろしくって言っておいてくれ。詳しいことは後で連絡するから」
解ったと手をあげ、廊下の扉を開け滑り込んだ。
まだ少し寝ぼけた顔が洗面所の鏡に映しだされる。一人で暮らす部屋は静かでどこか物悲しい冷たい感じで、僕はいつも寝室で机に向かい没頭できるものを探し続けていた。でも、今日は愁の声が部屋を満たし、それだけで暖かく感じられる。少し二人の間にはぎこちなさは残っているが、それも時間が解決してくれるだろう。

あんなに愁の傍を望んだ僕なのに、時折見せる愁の辛そうな表情に僕は逃げ出し、光一さんの傍を選んでしまった。
朝食をさっさと済ませ愁よりも先に家を飛び出した。今日も愁との二人の夜が不安で光一さんのところに逃げ出そうとしている。
僕はまだまだ写真の腕は未熟で、光一さんからはあまり褒められたことがない。それでも、光一さんの仕事の助手をさせてもらえる時があり、現場は僕にとって色んなことを学ぶ最高の場所であり、逃げ場のようになっている。





大学の講義を終え、僕は光一さんのマンションに向かった。
光一さんから貰った合鍵で誰もいない部屋に入りソファにごろりと寝転がり、初めてここに来た日の事を思い出していた。。
あの事件の後、僕は愁と一緒にいたいのに傍にいると辛い気持との板挟みで精神的に限界を感じていた。
そんな時、光一さんと勝美さんに食事に誘われ、少しお酒を飲んでふわふわとしていた。
少し酔いが醒めた時、僕は光一さんの部屋のソファに横になっていた。
体を起こした僕の頭を抱え、自分の膝の上に乗せた。
「友紀、どうした?何を悩んでるんだ?」
優しく髪をすく光一さんの指が気持ちよくて僕は目を瞑ったまま微笑んでいた。
「可愛いな、このままお前を食べてもいいか?駄目か?」
そんな優しい声で誘わないで、今の僕は誰かに縋りたくて情けない状態なんだから。
それでも、僕はごめんなさいと心の中で呟き首を横に振った。
「そうか、駄目か。友紀は愁しか考えられないよな。解ってはいるんだが、今みたいに弱ってるお前を見ると欲しくなる」
そういうと大きな手は僕の視界を覆い、優しく僕の唇を啄み、思わず吐息を零した僕の中に舌を滑りこませ絡めてくる。
深く絡め合う口づけなのにそこには熱情というよりも労り慰めようとする優しさだけがあった。僕は、涙を流しながら光一さんに抱きしめられゆったりとしたキスに癒されていた。

僕は愁が好きでたまらないのに、その気持ちを悟られるのが怖くて、辛くなると光一さんに逃げてしまう。そんな僕を優しく受け止めてくれるから、僕はいけないと思いながらもその腕に縋ってしまう。


「友紀、ただいま。飯まだだろ?外に食べに行くか?」
ソファーでいつの間にかうつらうつらしていた僕の顔を覗き込み、額に軽いキスをした光一さんはキッチンで水を飲みながら聞いてくる。
ソファーから体を起こし、僕も水を飲みにキッチンに向かい、光一さんが飲みかけてる水をもらった。
(どこに食べに行くの?僕、あまり食欲ない。ごめん)
「あっさりとお粥でも食べに行くか?それぐらいなら食べれるだろう?」
(たぶん・・・)
「飯がすんだら家まで送ってやるから。泊まってもいいが、愁が怒るだろ?」
頷く僕に行くぞと腰に腕を回しそのまま駐車場まで抱かれていた。まるで恋人のように。

愁との二人の生活に大分と慣れ始めた頃、僕は仕事で奈良のある町に来ていた。
光一さんからの紹介でカメラマンの助手をする事になったのだが、初めてのビデオカメラの撮影にドキドキと緊張が拭えない。
ミスをしちゃいけないと思うと余計にアタフタと焦って迷惑をかけていると思う。
「御坂、そんなに頑張らなくてもいい、ゆっくり俺たちの仕事を見て覚えればな」
カメラマンの東野さんが僕の頭をポンポンと叩き笑っている。