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道化師 Part 2

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10


暫く俺の部屋で一緒に暮らす事にしたミユキだが、最近ぼんやりしている時がある。寂しそうに遠くを見ている。俺が声をかけると笑顔を見せるが、俺が近づくと逃げる。
一緒に学校に行くようになり、教室移動は勿論、昼休み放課後も一緒。
俺たちが話をし、俺がミユキにかまう姿に教室がざわついたが、それも数日の事。龍也や一海まで加わり4人でいることも多く当たり前の風景になっていた。
「ミユキ、今日ライブがあるから龍也も一海もシャドウに行くけど、一緒に行くぞ」
「ヒロ、一緒行くか?って聞いてはくれないの?」
俺はミユキが一緒にいるのが当たり前のように思っている自分に呆れ、それを指摘された事に戸惑った。
「すまん、勝手に決めるとこだった」
「一緒にいるのが嫌なわけじゃないんだよ。ごめんね、ライブだと忙しいんだろ、僕は待ってるよ」
笑顔を見せるがすぐにその視線は俺から逃げていく。何故だ?悲しそうに微笑む姿を見ると抱きしめたくなる。一海と楽しそうに笑うのを見るだけで、俺にもそんな笑みをを見せろよと苛立ちをぶつけそうになる。そんなことをしたら怯えるだろう、辛い思いをしてきた記憶がミユキを辛くさせるんじゃないか、俺はどうすればいいのか、大事にしたい、だがもう一人の俺は、強く抱きしめ激しく愛したいと囁く。

部屋にミユキを一人残し、店に来たが落ち着かない。ライブがあるからと言ってもそんなに普段と変わりない。客も常連ばかりだし、いつもの身内のライブみたいなものだ。
だから、ミユキにも楽しんで欲しかったし、。俺の演奏する姿を、学校以外の俺も知って欲しかった。
「ヒロ、なにため息ついてんだ?ミユキは来なかったのか?」
「部屋で待ってると言われた。俺、どうしたらいいかわからない」
「何があった?喧嘩でもしたか?」
首を横に振り俯く俺の頭ををあやす様に亮に叩かれ
「次出番だろ、その後、奥に来い。話してみろ、何がわからないのか。今は、演奏する事に集中しろ、楽しむために来てる客に失礼だぞ」
ごめんと深呼吸して気持ちを入れ替える。
俺と龍也のサックスが店を満たす。龍成さんのピアノが混じり合い、サクヤさんの甘い声がすべてを包み込む。
この二人と組むのは初めてなのに、二人の上手さに圧倒され、巻き込まれる様に興奮したまま出番が終わった。
カウンターの中で魁斗さんが木島の頬に手を添え話をしてる。木島が子供の様に項垂れ、魁斗さんが慰めてる様に見える。
「亮ちゃん、魁斗に甘えてるな。疲れがピークになってるんだろうな」
二人を眺めていた俺の横でタモツさんの優しい声。
「亮さん、魁斗さんといる時は可愛い。後で相談にのってもらうつもりだったけど、またにするかな」
「俺が聞いてやろうか?ミユキ君のこと?」
俺がどうしようか言葉を探していると
「タモツ、ヒロを虐めてるのか?」
龍成さんがグラスを持ってやって来た。
「まさか、ヒロ君を虐めるなんてしないよ。龍成も一緒にならどう?」
龍成さんが何のことだと首を傾げる。
「ミユキの態度がなんだか変なんだ。俺、何かしたんだろうか、わからないんだ」
奥に行こうかと龍成さんに肩を抱かれタモツさんと個室に入った。
僕を挟んで二人は座った。
「ミユキ君の態度が変わったってどういうこと?」
どう言えばいいのか言葉をさがす。
「俺といるのが嫌なんだろうかと思う時がある。触れられるのを嫌がるまではいかないけど、強張ってるのがわかるから触れるのを躊躇してしまって、なんか変な感じになる。俺が駄目なんだろうか?」
二人はなんだかニヤニヤしながら
「サクヤを呼ぶか、いやあいつは辛辣だから茂に」
「茂は駄目駄目、鈍いしお子様だもの」
「魁斗だな。ちょっと待ってろ」
龍成が魁斗さんを連れて戻ってきた。
「何、ヒロ君を虐めてるの。ヒロ君泣そうな顔してどうした?」
「虐めてたわけじゃないが、俺たちより魁斗の方がわかるかなと思ってな」
「何が、わかるように話してもらおうかな」
魁斗さんが腕を組み仁王立ちすると中々に怖い。俺はこの状況に亮に相談するべきだったかと後悔していた。
「ミユキ君の事なんだよ。だから、魁斗が適任かなとね」
魁斗さんは自分が呼ばれた訳が理解出来たのか段々と頬を染めていた。
咳払いをしてニヤついた友二人を睨む。
「ミユキ君がどうしたの?初めから話してもらえるかな」
二人に話した事をもう一度魁斗さんに話した。
「ちょっと聞いていいかな?ヒロ君はミユキ君を好きなのかな?」
「好きだ、大事にしたい」
「大事にって、もしかして、まだ何もしてないって事?」
魁斗さんが言いたい事が解って顔に血が上がるのがわかる。
「まだ、あいつは怖い思いをしてきたから、怯えるんじゃないか、思い出すんじゃないかとか思うから。これ以上辛い思いをさせたくないんだ」
三人が大きなため息を零した。
「辛い思いをしたかもしれないけど、好きな人に求めてもらえないのは、もっと辛いと思うけどね」
魁斗さんの話を聞いていた龍成が
「ヒロお前があの子の辛かった過去を思い出す事もないほど幸せに塗り替えればいいんじゃないか、心だけでなく体も満たされてこそ幸せだと俺は思うんだが」
俺は、自分の思いばかりを押し付けてきて、ミユキの気持ちを考えてなかった、過去ばかり見ていたのかもしれない。
「俺、もう出番ないし、帰ってもいいだろうか?」
三人は、後は気にするなと笑顔で背中を押してくれた。
亮さんに帰る旨告げたら、
「なんだ、魁斗に助けてもらったのか、残念だな。久しぶりにヒロが甘えてくるかと楽しみにしていたのにな」
「馬鹿か、魁斗さんにべたべた甘えていたくせに」
見られていたのが恥ずかしいのか、
二人でちゃんと話せと言ってさっさと帰れと追い出された。
家路に向かう足は、早足になる。待つ人がいると思うと、それが愛する人なら尚更早く会いたい。

「ミユキ、ただいま」
返事が返ってこない、不安が押し寄せてくる。
「ミユキ……」
リビングは誰もいない静かな部屋を照らしている。
「ミユキ…」
寝室にも浴室にもいない。
また、俺は一人になったのか…一人にしない、消えないと言ったはずだ。どんなに握りしめても手のひらの砂は零れ落ちていくのだろうか。
早く会いたくて急いだ俺だったが、あいつの気持ちに気付くのが遅かったのか、俺が…馬鹿だから…一人に…頬を流れる涙が自分の愚かさなんだと俯き動けない。
リビングのソファーの足元で何かが動いた気がした。
あっ、背もたれで見えなかったソファーの下テーブルとの間のラグに蹲るように眠る姿に、俺を待っていてくれた、嬉しさの涙が愚かさの涙を押し流していく。
「起きろ。そんなところで寝るな」
テーブルを体で押し動かして抱き抱えようとした。
「ヒロ?おかえり」
開け切らない瞼のまま微笑み首にしがみつくミユキが愛おしくてたまらない。
「ベットに行こうな」
「うん、ヒロは僕を抱きたい?」
まだ半分寝た状態で俺の首に腕を回し囁き、嬉しそうに微笑んだ。
首に回された腕に力が入り、唇が触れる。可愛いキスに啄むキスを返す。
作品名:道化師 Part 2 作家名:友紀