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しょうきち
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冒険の書をあなたに

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第五章 エルヘブンにて〜孤独を知る祈りの塔


 一行はひとまずグランバニアへと戻ってきた。
 リュカとビアンカ、子供たち、マーリンとでテーブルを囲み、ルイーダの酒場でお茶を飲んでいた。

 ルヴァがティーカップを片手に口を開く。
「えー、アンジェ。それで、心当たりというのは?」
「ルヴァが図書館にいる間にわたしはお花を見させて貰っていてね、そこでまた水鏡に色々映ったの。マーサさんってリュカさんのお母様よね」
 一体どういう仕組みで目に見えるんだろう、と思いつつリュカが頭を掻いた。
「ええ、そうです……けど、本当に不思議な力ですよね、その能力」
 実際のところはプライバシーの侵害ではないだろうか、とルヴァは心で突っ込みを入れていた。
「なんかね、オルガンを弾いて歌ってらしたわ。足元に青い、ぷるぷるした魔物さんかしら……その子がマーサ様って呼んでたの」
 マーリンが顎をさすってふむと唸り、奥の部屋へ向けて声をかけた。
「その魔物とはこんな生き物でしたかな? スラリンよ、出て来なさい。……なんじゃまただらしなく寝おって。平べったく寝るな、踏んでしまうだろうに!」
 スラリンと呼ばれた魔物はでろーんととろけていた姿が元に戻り、ぴょこぴょことよりによってルヴァの足元目掛けて飛び跳ねてきた。
 青褪めたルヴァから一瞬だけ変な声が聞こえたが、それに気付く者はいなかった。
「あっ、そうそうこんな子だったわ! スライムのスラリンちゃんっていうの? へえー可愛いー! ……あら結構重いのね」
 アンジェリークは膝の上にスラリンを乗せて、指でぷにぷにとつついている。
 気持ち良さそうにとろけ始めたスラリンを眺めつつ、マーリンはグレーの瞳を細めた。
「マーサ様とスライムと言えば……思い当たるのはエルヘブンじゃろうの」
 その言葉にリュカが頷き、アンジェリークが言葉を続けた。
「ルヴァの見つけた文章も歌に絡んでいたけど、他には今のところこれといって手掛かりもないから、エルヘブンに行ってみても損はないと思うの」
 寝かけたスラリンがぴょこんと起き上がるたびに、ルヴァの肩がいちいちぎくりと強張っていた。
「ふ、不思議な力を秘めし民、とはっ……やっやはりリュカ殿やお母上の能力のことっ、なんでしょうかねぇ……っあああああ!」
 今度はスラリンがにゅっと縦に伸びた瞬間に、本気で驚いたルヴァが悲鳴を上げてテーブルの下に思い切り膝をぶつけていた。
「この世界で他にそのような民がいるとは聞いた事がないですな。あとは天空人や勇者の末裔くらいなものでしょう……だがエルヘブンの民が持つ力は、お二人が元の世界に戻ることと密接な関わりがありそうですな……スラリン、もう戻っていなさい。賢者様が怖がっておられる」
 マーリンに言われ、スラリンはアンジェリークの膝から降りてしょんぼりと──呼ばれたから来たのに、とてっぺんのとんがりを萎れさせて──とぼとぼと奥の部屋へと戻っていった。
「あら、ルヴァ大丈夫?」
 淡々と会話をしながらアンジェリークが問うと、ルヴァはぶつけた膝を押さえ唇を噛み締めていた。
「だ、大丈夫ですよ。ええ、大丈夫……アレはわらび餅のようなアレではない。断じて……だっ断じて違いますとも、ええ……!」
 スライムを怖がる賢者様ってシュールね、と内心思いつつビアンカが慰める。
「ルヴァさん、もうスラリン帰ったから大丈夫よ。落ち着いて」
「……なんでお兄ちゃん、スラリン苦手なの? 昔スライムにいじめられたとか?」
 ティミーの素朴な疑問に、一同が頷いてルヴァを見た。当のルヴァはハンカチで冷や汗を拭いながら息を吐いた。
「ちょっ……ちょっと昔にね、色々ありまして。それからああいうぷるんとした生き物とそれを想定させるごく一部の食べ物がダメになっちゃいまして……スラリンが悪いわけじゃないんですよ、すみませんねぇ」

 ようやく落ち着いた様子のルヴァに安堵した表情を浮かべるアンジェリーク。
「とりあえずちょっと休憩しましょ。これからエルヘブンに行ってもすぐ夜になっちゃうから、きっとご迷惑だわ」
 ビアンカが大きく頷いてマカロンに手を伸ばした。子供たちがすかさず手のひらをビアンカへ向けて、二つずつ取って貰っている。
「そうね、そのほうがいいわよ。あそこはちょっと偏屈な長老さんたちがいるから。ね、リュカ」
「一応ぼくのルーツだから、その意見にうんとは言いづらいなぁ……はは。それじゃあ今日は、城でゆっくり寛いで下さい。夕食の際にはまた使いを出しますから」
 そしてリュカ一家はルイーダの酒場を後にしていった。
 子供たちは更にマカロンを山ほど手に持ち食べ歩いたため、ビアンカに行儀が悪いとお説教されながらもどこか嬉しそうに笑っている。
「分かりました、ではまた後ほど。アンジェ、ちょっと城内のお散歩でもしませんかー」
 そう言って立ち上がりかけたルヴァをマーリンが引き止めた。
「賢者様、お待ち下さい。その前に少々お時間を頂けませんかの」
「あ、待ってルヴァ。マーリンさんが時間欲しいって」
 引き止められ再びすとんと腰を下ろしたルヴァがマーリンのほうを見た。
 マーリンが小さく頷いて話し出す。
「少し試したいことがあるのです。天使様、賢者様とわしを繋ぐように手を重ねて下さらんか」
 アンジェリークはすいと差し出されたマーリンの手に自分の手を重ね、ルヴァの手とも重ね合わせた。
 三人で輪になった手を見て、ルヴァはあっという顔をした。
「もしかしてアンジェの調和の力を試してみるんですか」
 ルヴァの言葉にマーリンはにっこりと微笑む。
「天使様、お二人が呪文をお使いになるときのようにして下され────賢者様にもわしの言葉が通じるやも知れません」
「わかったわ、ちょっと待っててね」
 そうして目を閉じて静かに息を吐いたアンジェリークの背から、淡い金の光を帯びた翼が現れた。それを確認してからマーリンが言葉を紡ぐ。
「────わしの言葉が分かりますかな、賢者様」

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち