二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Quantum

INDEX|23ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 

6. Undesirable



 それから数日も経たぬうちに聖域――アテナからの呼び出しがあった。事が露見したのだろうかと不安と僅かに感じる安堵感。複雑な想いを抱きつつ、アテナ直々の呼び出しということでシャカは急ぎアテナの元に参じたわけだが。

「此度の急な思し召し、一体、何事がありましたのでございましょうか」

 微妙な感情を綯い交ぜにしながらも、動じることのないような落ち着きを前面に押し出して拝謁願った。

「ああ、シャカ。よく来てくれましたね。皆、下がってください。しばらく、誰も通さないように」

 シャカが入室前まで賑やかな談笑を交わしていた者たちも、シャカの入室とともにスッと口を閉ざし、慎ましく視線を下に向けて軽く会釈のような姿勢のままを取っていたがアテナに命じられて侍女たちは速やかに部屋を出ていく。最後のひとりが静かに扉を閉じたところで、アテナは深く吐き出し、席に着くことをシャカに勧めた。勧められるままに腰を下ろす。

「アテナ?」

 深刻そうなアテナの様子に厭な予感しかしないシャカだが、聖域に不穏な気配は感じられなかったため、怪訝に思うばかりだ。女神宮の最奥にあるこの一室で人払いはされたけれども、念には念をとでもいうようにアテナが結界を張った。ますます厭な感じだ。

「―――シャカ、アイオロスとアイオリアの所在が掴めないのですが、あなたは何か知っていますか?アイオロスとは接触したようなことを彼から聞いていたのですが、その後も二人と接触したのでしょうか?」

 窺うようでいて、どこか非難めいた眼差しを向けられたシャカは謂われない罪を着せられたような不快さを覚える。

「いいえ、そのようなことは存じ上げませんでした。確かに私はアイオロスと図らずも接触する羽目になったために一旦引き上げましたが。アイオロス程の猛者と渉るには万全の態勢を整えた上で私は考えておりましたのでアイオリアとともに最近で一切の接触はしておりません」

 本当のことである。
それにアイオロスやアイオリアのことを考えるよりもむしろサガのことを考えていたなと思いながらアテナの問いに答えた。それにしてもおかしなことになったものだ。

「本当に?では、一体彼らはどこに行ってしまったのでしょうか」
「……賊を討つために彼らなりに行動しているということではないのですか?」

 彼らの無断行動まで私の知ったことか。アテナでなければ一喝するところだが、そこはまあ冷静に妥当な意見を述べておくに留まる。

「だとしても、わたくしからの呼びかけに返答がないということはないはずなのです。他の者たちにも呼びかけては貰ったのですが、一向に返事がなくて。一度、あなたからも呼びかけては貰えませんか。もしかしたら、あるいは」

 ふぅっと悩ましげに息を吐いて、頭が痛いとでもいうように米神をアテナは押さえた。

「彼らを呼び出すほどの大事ということであれば――」
「正直、そう大事というわけではないのだけれど。今度私がお友達を招いて主催する茶話会にちょっとついていただきたいだけなの。くだらないことなのだけれども、仲の良い女子とえども譲れないことも色々あって……ね?」

 なんだそれは。聞かなきゃヨカッタ。そう思っても後の祭りである。まぁ、あれだ。セレブ女子のお遊びにターゲットにされずにすんだだけマシだと担ぎ出されるロスリア兄弟に合掌しつつ、アテナの世迷い事を華麗にスルーする。教皇シオンのおかげで会得できたスキルもレベルアップの一方だ。

「ええと……それはそうとして。アテナの呼びかけに応じぬ者が、私の呼びかけで応じるとは思えませんが……まぁ、やるだけはやってみましょう。アテナ、結界を解いていただけますか」

 ロスリア兄弟に連絡つかないからと、こちらにお鉢が回ってきては堪らない。保身である。面倒事はないにこしたことはない。

「え、ええ。わかりました」

 スッと打ち消された結界。と、同時にふたりに呼びかけてみたが、やはり無反応だ。では所在は――と探索してみるが、引っかかることもない。「うむ」と考え込む。

「やはり、ダメですか?」

 こくりとシャカが頷くとさほど期待はしていなかったのだろうがそれでも諦めの色は濃くなった。

「……気にはしておきます。いなくなる前に不審な動きとかはなかったのでしょうか」
「特にそれとわかるような行動はなかったようです。いつも通り自宮に詰めていたようです。わざわざ呼び出してごめんなさい」
「いえ」

 話に一区切りついたところで軽く頭を垂れて早々に身を下げる。逃げるが勝ち、ということで。さてしかし、どうしたものかとコツコツと足音を響かせ、女神宮を後にして考える。

「ふむ。せっかくここまで来たのだし……」

 ついでにシオン教皇のご尊顔でも伺っておこうかと、そのまま教皇宮へと足を向けることにした。
 ひっそりと静まり返った教皇宮。常ならば誰かしら訪問者があるはずだが、今は人が絶えている。深い眠りについている教皇の代理をする者はいないが、聖域の運営に差し障りはないのだろうかと思いつつも、女神がいるのだし、事務的なものはそれ相応の者が処理しているのだろう。
 つまらないことを考えているうちに雑兵たちが守る教皇の寝室に辿り着いた。聖闘士を束ねる教皇は聖闘士としての資質、小宇宙とて強大で、守られるという必要もあまりなさそうなのだが。一応体裁を整えることも大切なことなのだろう。

 雑兵と一口に云っても多岐に渡る。教皇の傍近くを守る者たちは時と場合によっては聖闘士よりも立場が上になる時もある。むろん教皇の命令に置いてという注釈つきだが。
 雑兵という名称よりは近衛兵が適切かとシャカはぼんやりと思う。聖闘士は女神のため聖衣に選ばれし戦闘に特化した者たちだが、彼らもまた十二分に聖闘士足りえる資質を持ち合わせてはいた。ただ残念ながら聖衣に縁がなかった――小宇宙が僅かに足りなかった、もしくは見合う聖衣が既に他者の手に渡っていたというぐらいの差しかない。まぁ実際それがいかに大切なことなのかとはいえ、今も教皇の眠りを守る者はシャカなどよりよっぽど恵まれた体型をしていた。

「教皇を見舞いたいのだが」
「はっ」

 敬礼を受け、形ばかりの誰何の問いに形ばかりに答えたあと、シャカは静かに煌びやかな装飾を施された扉を押し開く。

「……ムウはいないのかね?」

 きっと傍に付き添っているだろうと思っていたのだが、寝台のそばに閉ざしたままの視線を送れども、その姿は見当たらなかった。

「先日、ジャミールにお帰りになられまして。すぐにお戻りになられるとお聞きしておりましたが未だお戻りにはなられていません」

 緊張した声の雑兵に「そうかね」とつまらなさそうにシャカは返した。どうやらあれからムウは引き篭もっているようだ。

「しばらく、誰も通さぬように」
「はっ」

 畏まった雑兵の返答を聞き流しながら、シャカは中へと入り扉を静かに閉めた。敷き詰められた毛足の長い絨毯に靴音を吸い取られつつも、寝台に近づく。目隠しとなっている天蓋から降ろされた絹布に指を差し入れ、そのまま手の甲でよける。
作品名:Quantum 作家名:千珠