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箱の中身1

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   箱の中身1

 最近、月初めになると小荷物が届くようになった。差出人はいつも書かれていない。恐る恐る開けてみると決まって中身は空だった。何かのいたずらだと思って余り気にはしていなかった。それでも毎月その荷物が届くと、つい開けて中身を確かめてしまう。もちろん何も入ってはいない。今月もその荷物が届いた。もう六つ目になる。また何も入っていないのだろうか。僕はその箱を部屋の中央に運んだ。その時、僕はふとしたことに気がついた。空き箱にしてはなんだか重い。今回は珍しく中身が入っているのだと思った。何が入っているのだろう。恐る恐る半分、期待半分で、この箱を開けてみた。しかし、中には何も入っていなかった。箱が重いと感じたのは気のせいだったのだろうか。
 十二個目の箱が届いた。もう一年になる。今までずっと何も入っていなかった。きっと今回も。そう思って僕は初めて箱を開けなかった。しかしなぜか捨てることはできず、そのままクローゼットの奥にしまった。十三、十四と箱は送られてきたが、開けること無くそのまましまった。僕の生活は何も変わらなかった。しかし、箱を開けていた頃に比べるとなんだかつまらなくなったような気がする。あの頃は中が空だったとしても、なにか入っているのではないかと期待して開けていた。箱の重さを気にしてみたり、振ってみたりと。それが一つの楽しみだったような気がする。僕は開けていなかった箱を開けてみることにした。まず十二個目の箱を開けた。その時、突然電話が鳴った。その箱が届いた月に会うはずの人からだった。そしてその後もその月にあるはずだったことが次々に起こった。少し不思議な気分だった。十三個目の箱を開けた時も、十四個目の箱を開けた時も、同じことが起こった。その時僕は気がついた。この箱は僕の一ヶ月の出来事なのだと。その時から箱が届くのが楽しみになった。毎月どんな出来事が送られてくるのか、どんなことが起こるのか。しばらくの間、僕は無邪気にそのことを楽しんだ。しかし、なぜか突然その箱が送られてこなくなった。何もない日が続く。来月こそ届くだろう、来月こそ。それがずっと続いた。何ヶ月も、何年も。そしてある時一通の手紙が届いた。内容は
「あなたの一生分の出来事、確かにお送りしました。大切にお使い下さい。」
 というものだった。僕は愕然とした。一生分の出来事を使い切ってしまったらしい。しかし、なんとつまらない一生なのだろう。こんなにも簡単に使い切れてしまうなんて。何年分かはわからない。今日死んでしまうかも知れないし、何十年、何もないまま生きなければならないかも知れない。僕は死を待ちながら、楽ばかりしていた自分の人生を責めた。
 
 しかし、本当に箱の中身は彼の一生分の出来事だったのだろうか。ただ彼の思い込みなのではないだろうか。どちらにしても、これから彼の身に何かが起こることはきっと無いだろう。だって手紙も白紙だったのだから。
作品名:箱の中身1 作家名:もとはし